あなたは自分に天分があるか判るくらい絵を描きましたか。
安田靫彦
この言葉は、安田靫彦門へ入門してまもない門下生が「自分に天分がわるのかしら?」と思わず口走ったときに画室に響き渡る大声で安田靫彦が話したと言う。そして、このようにつづく。
「天分のある、なしは、われわれの死後、人々が決めてくれるのですよ」と静かな声で。
自分のことは自分が一番わかる、と思っていたがそうではなかったのだ。特に天分などいちばん判らないものだ。わからないのだから、安心して訪れる運命に体当たりする他ない。
『 あなたは自分に天分があるか判るくらい絵を描きましたか。』
天分が判るのに楽な道はない。いや、いつまでたってもわからぬものなのだろう。ゆえに、ただただこの道に体当たりなのだ。
安田靫彦氏の画は、己の天分を判るその日まで描きつづけたことも忘れたくない。そう思うと画の一つ一つに奥行きが増してくる。
偶然、手に取った一冊だが、この言葉に出会うために手に取ったように思える。