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空想彼女毒本 #05

#05 鹿島希美

鹿島希美

鹿島希美ちゃん。エアポッツを落とし、拾ってくれたのが出会いの始まり。何聴いてるんですか?というのでサカナクションと答えると、彼女も好きだと言うので、アダプト観た?と聞くとまだ観てないと言うので、拾ってくれたお礼にプレゼントするよと言うと、嫌だ、一緒に観たい!と。
今まではずっと普通のイヤホンで、その方が遅延も無く、音も良いだろうと思っていたんだけど、AirPodsがすごいと聞いて、試しに買ったは良いものの、やはり使い慣れていないせいかすぐに落としてしまった。すぐに気がついたので、来た道を探しながら戻っていると、
「もしかしてこれですか?」
「あっそれかも」
と右耳のイヤホンを押さえながら、スマホの操作をしていると、
「何聞いてるんですか?」
「あ、今音流すんで、流れたらボクのです」
とさっきまで聞いてたサカナクションの新宝島を流した。
「あ!流れてます!サカナクションじゃないですか!私もサカナクション好きなんです!」
「そうなんですか!ボクもなんですよ、あれ観ました?アダプト」
つい悪い癖が出てしまった。初対面なのに、同じモノが好きだと分かるや否や、後から後から言葉が口から溢れてしまう。困らせちゃったかなと思う前に彼女は、
「まだなんです、早く観たいんですよ。」
「拾ってくれたお礼にプレゼントしますよ。」
「嫌だ!」
「っえ!?」
やはり事を急ぎ過ぎたか、悪い癖が邪魔をしたのか、親切心をあつかましさが凌駕したのか、拒まれてしまった。
「…一緒に観たい!」
言葉の意味を理解するのに体感時間では5分、いや10分はかかったろう。どん兵衛なら10分どん兵衛になる程、成熟した時間だ。
「いっ、一緒にみ・た・い?」
「はい!せっかくなら一緒に観たいじゃないですか!」
「ボクは構わないけど、その…良いの?」
「良いに決まってるじゃないですか!」
「決まってる?」
「あ、だってほら、感想言い合えるじゃないですか。」
「う、うん」
これ以上何か言って前言撤回されては困ると思い、そそくさと会話を切り上げ、
「じゃいつにしますか?」
「え?いつって、今からじゃダメですか?」
「ボクは構わないけど」
「だったら決まりですね。あ、でもどこか出かける途中じゃなかったんですか?」
「いや、帰って来たとこなんですよ。それでイヤホン落としちゃって戻って来たんです」
「そうでしたか。じゃついて行って良いですか?」
「ダメっつっても来るでしょ。」
もうこれくらいの軽口は叩けるくらいの距離感になっていた。
そのまま家で素直にアダプトのDVDを観て、お互いの感想を言ってその日は別れた。
こんな事があったと友人に話すと決まって、それだけ?と言われる。ボクに言わせればそれで十分だろ!なんだが、何もこれ以上の事をベラベラ喋るほど野暮じゃ無い。
本当にその日はそれまでだったが、これはボクの作戦で、彼女も「え?何もしないの?」と思ったハズで、そのもの足らなさをあえて演出しているのだ。恋愛はかけ引きが重要で、押してばかりでもダメで、時には引いて、相手から来るように仕向けなくては。そもそも彼女は押せ押せできているので、本来であればボクが押して、「こんなの初めて」と思わせなければならないのだが、それも見越した作戦だったのだ。
あの日からしばらくは連絡もせずじっと耐えていたが、やはり彼女の方からアプローチして来た。あのイヤホンを落とした駅前で彼女が待ち構えていたのだ。
「もう、なんで連絡くれないんですか?一緒に見ただけで満足なんですか?」
そう言って駆け寄るとグッと腕をとり、腕を組まれる。
「ごめんね。ずっと夢を見てるのかと思っててさ。希美ちゃんみたいなかわいい子がなんでって考えてたんだ。」
「答えは出たんですか?」
「うん、今出たよ。夢じゃ無かったって」
「遅いですよぉ〜」
「でも夢でも希美ちゃんが出て来たから、ほんと分からなくなっちゃって。」
「どんな夢だったんですか?」
「それは言えないよ…。」
「やだ〜エッチ〜!」
「イヤらしい夢じゃ無いよ!」
「うそ!初めて会った時からイヤらしい目してるもん!」
「マジで!そんなスケベな目してた?」
「してますよ!」
「そんな格好されたら誰でもなるでしょ」
「かわいい格好しちゃいけないんですか?」
「いや、全然大好きだし、見てたいし、でもドキドキしちゃうから」
「しちゃ困るんですか?」
「困らせたいの?」
「…」
お互い困って言葉が出てこなくなったが、同じ事を思っていた。
ゆっくりと上る朝日を、眠たい目をこすりながら眺めたところで、お互い眠りについた。


あとがき

マジでこんな事起きないかなぁ。どこまでやったか起こりそうかな?イヤホンを拾ってもらえるところまではあり得るよね?で、同じアーティスト好きってところが微妙なんだけど、風貌や、持ち物ですある程度ジャンルは絞れたりするから、そこから先は勘になるけど、当てられない事は無いと思うんだよね。
で、そこから先は、まぁ無いだろうね。そんな都合のいい話。でもそんな淡い期待を多かれ少なかれ、考えてはいるでしょみんな。ただ期待しちゃうと期待が外れて、裏切られたと思っちゃうから期待してないだけで。期待が外れるってのは、別に裏切られた訳じゃなく、単に期待が外れただけだからね。そんな期待通りの物語でした。


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