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技術士試験(化学部門‐化学プロセス)⑯_令和元年_選択III-1復元解答例

判定結果は“A”です。つまり60~100点です。
以下、復元解答例を見ていただくにあたっての留意点は、

①正解は一つじゃない、この解答例は、小職の例であって、貴殿の場合は全く別の視点で論じられる可能性が高いです。あくまで参考の位置づけとしてみてください。

②職務上の守秘に係る記載は基本的にありませんが、自分自身でグレーゾーン?と躊躇した部分は、修正させていただいています。

③文字数制限はあまり気にせず復元しています、また実際には下線等使って重要事項をハイライトしたりもしています。実際とは多少異なる可能性がある点は、ご容赦ください。

お題:水素製造、輸送・貯蔵、利用

設問の詳細は以下アドレスを参照ください。
https://www.engineer.or.jp/c_topics/006/attached/attach_6644_5.pdf

設問(1):
水素の製造、輸送・貯蔵、利用の分野において、開発中も含めて複数の技術事例を挙げて、技術者としての立場で多面的な観点から課題を抽出し分析せよ。

復元解答:
①水素製造:a)メタン及びナフサ改質+水性シフト反応;現在の主流、大規模実施が中心でコスト競争力に優れる。ただし、CO2を排出するので、CCUSとの併用が今後の課題。b)石炭ガス化+水性シフト反応;大型実施が基本、原料は安価であるが、ガス化および付帯設備が重厚で建設費が大きく、更には大量のCO2を発生する。CCUSとの併用、建設費削減が課題。c)水電解;中小規模での実施、電力コストが大きく、コスト競争力が低い。水素製造時にはCO2を発生しないが、発電時のCO2発生も評価する必要がある。また副生酸素の利活用も課題。d)光触媒による水分解;開発中の将来技術。触媒性能と生成水素/酸素の分離技術が課題。
②水素輸送・貯蔵:e)圧送・圧縮;市場技術で現在主流、長距離の輸送はインフラの整備が課題で、貯蔵性も低い。f)液体水素(以下LH2);市場技術、現状は小規模であり、設備大型化、コスト削減、BOG対策、液化効率改善が課題。g)有機ケミカルハイドライド(以下LOHC);社会実証中技術、コスト削減、効率改善が課題。h)アンモニア;化学産業での既存技術。エネルギー分野での適用には、生産効率向上、利用技術開発が必要。また、流通量拡大時には毒性が高いことから社会受容性が課題。
③水素利用:i)石油・化学産業での原料利用;現状主流。船舶油の低硫黄化で需要増の可能性あり。j)FCV、FC利用;市場技術。燃料電池での利用で、内燃機関に比べて高効率なエネルギー利用が可能となり、省エネルギー、低CO2化に貢献できる。k)大型火力発電(GTCC、FC);将来技術。技術開発は元より、燃料水素の低コスト化、低CO2化が課題。

設問(2):
水素の製造、輸送・貯蔵、利用の分野のうち、最も重要と考える課題を一つ挙げ、その課題について複数の解決策を示せ。

復元解答:
水素は電気と同様に貯蔵性が低い。この点、その大規模普及の為には、大規模実施が可能な輸送・貯蔵技術の確立は元より、そのエネルギー効率の改善が不可欠である。現在その実証事業が推進されているLH2およびLOHC技術について、社会実装にむけた課題と解説策を以下に示す。
LH2;液化効率の改善とBOG発生対策が課題
液化効率を現行の2倍にする研究が進んでおり、期待できる。またBOG発生を低減させる高効率の容器の開発は元より、発生したBOGの燃料利用、或いは小規模でのFC発電や蓄電により有効利用を図る。
LOHC;反応熱(水素化/脱水素)マネジメント
エネルギー供給側では発熱反応を伴い、エネルギーを放出する。この反応熱を、例えばメタン改質による水素製造時のCO2回収で利用することで、エネルギー効率を高め、CO2発生原単位を改善できる。また需要側では吸熱反応となるが、水素燃料を対象としたGTCCやSOFC発電設備との熱インテグレーションで熱効率を改善できる可能性がある。
上記のように、水素キャリアは其々異なる性質を持つ。技術開発による効率改善は元より、適材適所での最適なシステムを選択することが重要である。

設問(3):
上述の解決策の実施に際して、生じうるリスクとそれへの対策について、専門技術を踏まえた考えを示せ。

復元解答:
専門技術として設備計画における一手法であるライフサイクル(以下LC)分析手法を踏まえて述べる。
大規模LH2、LOHC技術の確立、エネルギー効率の改善にあたり、LC-CO2排出の観点からシステムの完全性について検証する必要がある。システムの選択を誤ると、経済性、環境性、その他で状況を悪化させる懸念があり、個別技術の最適化のみならず、サプライチェーン全体を俯瞰した全体最適化の検討が必要である。
この時LC分析は、システムの完全性確認は元より、目標との乖離も明らかにできる。例えばLC-CO2の評価においては、そのHot Spotを明らかにすることでシステム全体の最適化の観点から、開発、改良が必要な要素技術を明らかにし、改善に向けての方策を示すことが重要である。
また水素は例えばその環境側面を優先するために、一時的なコストアップを伴う可能性が高い。この点、LC分析を活用し、将来の改良方針や見通しを示すことで、説得力、納得感を持って導入を進める事、状況に応じた制度設計が重要である。

以上

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