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ワンス・アポン・ア・タイムinダイアリー 8
8、思い出巡りツアー
日記を利用して大金持ちになる計画は失敗してしまいましたが、僕はその後も懲りずに過去にメッセージを送り続けていました。
そうしていくつか分かったことがありました。
一つ目は、同じ日にメッセージを送る事が出来るのは一度きりだということで、その後はメッセージを書き込んでも過去の僕には届けることはできませんでした。
二つ目は、未来の情報を送ることはできない、ということでした。宝くじの当選番号もそうですし、未来に起こる出来事は「天気予報が外れて雨が降る」といった事でも送ることは出来ず、書いたとしてもぐちゃぐちゃに文字化けしてしまうのでした。
そんな訳で、過去にメッセージを送ることの出来る日記を手に入れたものの、お金儲けとか有効な使い道もできず、ただただ過去の夢を見て懐かしむことのできるだけのツールになってしまっていました。
しかし、過去の思い出巡りツアーというのもそれはそれで面白くて、あんなことやこんなこともあったなあ〜とジーンと感じながら、年末年始を実家でダラダラと過ごしていたのでした。
そしてその年、二十歳になっていた僕は1月初めの成人式に慣れないスーツを着て参加しました。
式は別にどうということも無く進み、同窓会には来てなかった同級生たちとも会えたりして懐かしかったのですが、途中で騒々しい集団が乱入してきました。
紋付き袴で赤や黄色などカラフルな頭をいかついリーゼントにしていたりツンツンに逆立てているその集団は、市長の祝辞にヤジを飛ばしたり壇上に登ろうとして市の職員達と揉めていました。ニュースでよく見た、いわゆる荒れた成人式というやつでした。
そしてその中に直樹がいました。正直見た目が変わりすぎていて集団の中のどれが直樹なのかは判別がつきませんでしたが、喧騒の中に僕はたしかに直樹の声を聞いたのです。
やがてひとしきり暴れまわるとヤンキー集団は満足したのか、式場からドカドカと去っていったのでした。
式が終わると、僕は浩史達とこのあとまた皆で同窓会しようと話しながら式場の外に出ていくと、式場前の広場にヤンキー集団がうんこ座りでたむろしていて、帰路につく新成人達を睨みつけていました。
「うわ、まだいるぜあいつら。目合わせんなよ。」
と浩史にせかされましたが、僕は久しぶりに直樹と話ができると思って、ヤンキー集団の方に近づいていきました。
たぶんこれだろうと思われる金髪リーゼントにサングラスをしている男に話しかけました。
「直樹。・・・ですよね?」
男は「ああん。」と言ってこちらを睨みつけながら立ち上がり、顔を至近距離まで近づけてきました。いかつい顔で目を三角形にしてこちらを睨みつけていましたがハッとして、
「おお、隆じゃねえか。久しぶりすぎて分かんなかったわ。スーツなんか着て立派になってよお。」
やはりこのいかつい男が直樹で間違いなかったようで、肩を組んできて「積もる話もあるし、ちょっと煙草でも吸いに行こうぜ。」と言いました。
ヤンキー集団から「おい直樹誰だそいつ。」と声をかけられましたが、「昔のダチ。ちょっと煙草吸ってくっから。」と答えて歩きだしました。
僕らはお互いの近況を話したり、ヤンキー集団とのことを聞いたりしながら、ホールの裏手に行って煙草に火をつけました。
「それで、由紀ちゃんも元気にしてる?」
僕が何の気なく聞いた質問に直樹は顔を暗くしました。短くなった煙草を捨てて靴でグリグリ踏むと、新しく一本取り出してジッポで火をつけました。
「由紀はな。去年の秋に死んだ。」
え、と僕は一瞬言葉が頭に入ってこなくて、口の中で反芻してやっとその言葉の意味が分かって頭の中が真っ白になりました。
その後も直樹と何か話しましたがあまりよく覚えてなくて、そのまま僕は一人トボトボと家に帰ったのでした。
「おかえり、早かったわね。」と迎えてくれた母親に「あ、うん。」としか返せず、「なんだ同窓会にハブられたのか。」と茶化してくる父親にも返す元気はありませんでした。
「直樹に会って、由紀ちゃん死んだって。」
僕が話すと父親は顔を険しくしました。
そして、「お前は仲良かったから言おうか悩んだんだけどな。」と言って、由紀ちゃんが昨年の秋に自動車事故で亡くなったと話してくれました。
由紀ちゃんは、直樹の入っている暴力団の先輩と交際していて、その先輩が運転する車が暴走して事故を起こし、助手席にいた由紀ちゃんも死んでしまったのだということでした。事件性はなく事故で処理されて終わったのだそうですが、二人から薬物反応がでていたとも言っていました。
僕は黙って父親の話を聞き、最後に事故のあった日にちを尋ねました。父親は「聞いてどうするんだ?」と目を細めて訝しんでいましたが、教えてくれました。三ヶ月前の10月26日。 僕はありがとうと言って自分の部屋にこもりました。
ある一つの考えが頭に浮かんで消えませんでした。
日記を使って過去の自分にメッセージを送り、由紀ちゃんを助ける。事故を起こす車に乗らないようにすれば由紀ちゃんは死なないはずです。
僕は鞄をあさってスケジュール帳を取り出しました。毎日日記をつけるという日課はしなくなって久しかったですが、何かあった時には備忘録的に書いて残していました。
ページをめくると、三ヶ月前の10月に書いたものがいくつかありました。
「統計学のレポートは今月中。ダルい」
三ヶ月前に僕が書いた走り書きにメッセージを書き込みます。
「由紀ちゃんに会いに行け。恋人の車に乗せるな!」
こんなスケジュール帳に日記と同じ力があるのかは疑問でしたが、一縷の望みを込めて書き込み、僕は眠りにつきました。
そして一つの夢を見ました。
つづく
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