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ワンス・アポン・ア・タイムinダイアリー 5

5、日記の中

 小学校を卒業し中学生になった僕たちでしたが、直樹や由紀ちゃんとの距離は縮まることなくむしろどんどん開いていき、やがて学校ですれ違ってもお互いに目もあわせないようになってしまっていました。
 僕はそんなことを頭から振り払うように部活のバスケに熱中していましたが、直樹や由紀ちゃんは学校の不良達の仲間に入って校舎裏でタバコを吸っていたり、夜な夜なバイクを乗り回したりしていました。
 直樹の家は、父親が警察を辞職してからといあものお酒に溺れるようになり、深酒して暴れたりと荒れていたようで、僕の父親も心配してたびたび訪ねて行っていましたが、そんな家にいるのが嫌で直樹達はほとんど家に帰らない生活をおくっているのだと言っていました。

 ある時、町でばったりと直樹に出くわして、その時はすごく上機嫌で久しぶりに僕と口をきいてくれ、

「今晩、先輩に族の集会に連れてってもらうんだ。めっちゃカッケー人達なんだぜ。」

と地元の暴走族に入るんだと意気揚々と話していて、僕は危ないからやめた方がいいんじゃないかと言ったんですが、気分を害したみたいで、

「うっせー。お前らみたいな友達ごっこには飽き飽きしてんだよこっちはよお。」

と吐き捨てるように言って去ってしまったのでした。
 僕は、直樹と由紀ちゃんと過ごした小学校の楽しかった日々も否定されたみたいで悲しくなり、そして何もできなかった自分の無力さを思い出して何も言い返すことができませんでした。思えばその時に「なんだとこの野郎!」と殴り合いの喧嘩でもしておけば少しはマシだったのかもしれません。

 その後の直樹は、暴走族に入ってよそとの抗争で起こした乱闘騒ぎで相手を半殺しにしたとかで、傷害罪で少年院に送られてしまいました。由紀ちゃんはたまに町で見かけることがありましたが、金髪になったり、ピアスをジャラジャラつけていたりと見るたびにを派手になっていき、腕に入れ墨を入れた強面の男に肩を組まれていたりしたので、僕の方からはとても声をかける雰囲気ではなく、彼女の方もこちら一瞥するだけで僕のことなどまるで眼中にない感じでした。

 そんな訳で、僕はかつての親友たちとは疎遠になってしまい、まったく別々の道を歩んで高校、大学へと進学していくことになりました。


 高校を卒業した僕は東京の大学に進学し、映画サークルに入って映画を撮ったり、恋人ができたりと楽しい日々を送っていて、昔のことを頭の隅に押しやっていましたが、ある時地元の同級生の浩史から電話がかかってきました。
 「年末に中学校の同窓会するから、お前も来るだろ?」
 浩史というのは小学校の時の新聞記者襲撃事件の実行犯のうちの一人で、先生に僕が主犯だと自供した奴で、高校を卒業した後就職して働いていました。
 ちょうど年末には帰省する予定でしたし、久しぶりに地元の同級生達に会ってみたかったので僕も参加すると伝えました。

 そして年末、同窓会の会場に行くと2、30人くらいがガヤガヤと集まっていました。
 大部屋の入口では明るい茶髪にクルンと巻き毛の浩史が幹事をしていました。
「よっ久しぶり。お前チャラくなったなー。」
僕が声をかけると見ていた出欠表から顔をあげてニカッと笑いました。
「おっす来たか。お前は変わんねーな。」
と言って出欠表に「マルっと。」とを書き込みました。
「俺も東京行ってしばらくたつからさ、田舎モンと話があうか分からんけど。」
僕が笑って言うと「ひどっ。てか標準語になってるじゃん。東京に染まりやがってこのやろー。」とどつかれて「おーい隆来たぞー。」と皆に声をかけたのでした。
 同窓会は、中学校卒業ぶりに会う友達も多くて、お互い「大きくなったなー。」とか「おっさんになったなー。」とか感慨深く、閉店まで飲み明かした後は二次会はカラオケに行って朝まで騒いでいました。
 思い出話しは尽きることがなくて、当時流行っていたゲームや漫画の話、誰それが好きだったとか喧嘩したとか、次々に思い出が蘇ってきました。
 ゲームの話をしている時に浩史がふと考える顔になり、

「あ、そういえば隆お前さあ、俺のゲーム借りパクしてるだろ、ゼルダの伝説。あとワンピース1巻から10巻。はよ返せよ。」

と言ってきました。
 思い返してみると家に浩史の名前が書かれたゲームソフトがあったような気がして、

「わるい。うちにあるかも。帰ったら探しとく。」

と謝りました。
 同窓会には新聞記者襲撃事件のメンバーは皆来ていて、僕たちは同じテーブルで思い出話に花を咲かせましたが、直樹の姿はなく、噂によると少年院を出たあと暴力団に入ったと聞いたと誰かが話していました。
 よくない道に進んでいるのではないかと思っていましたがヤクザになっているのか、と悲しい気持ちになりましたが、ただの噂かもしれないから帰ったら父親に聞いてみよう、と気持ちを切り替えて暗い気分を払拭するべく朝まで飲みまくった僕はフラフラで帰宅してバタンキューと倒れるように眠りに落ちたのでした。

 そして昼過ぎ頃、二日酔いで目覚めた僕はこりゃ今日は何もできんわ、と家でゴロゴロするだけの日に決めて、昨日浩司に言われたゲームソフトを探すべく、自分の部屋のゲーム機をしまっていた段ボール箱をガサガサ探すと、はたして浩司の名前が書かれたゲームソフトを見つけたのでした。
 「ごめん、やっぱうちにあったわ。」とメールして、せっかくだからとプレイしてみるとこれが面白かったのですが、最初のボスを倒したあたりで小学校の時にこのゲームをやっていた時のことを思い出し、直樹と交代でプレイして後ろで由紀ちゃんが見てたなあ、と思うと途端に暗い気分になりそうだったのでパチッとスイッチを切ってしまいました。

 その後はガサゴソと部屋の片付けをしていたら、いつしか昔僕が日課にしていた日記が出てきました。
 最近はめっきり書かなくなってしまっていましたが、懐かしくなってペラペラとめくって見ていました。
 そういえば日記の幽霊はどうなっているんだろうかとか、結局あれの正体は何だったんだろうとか思いながら日記をめくっていきましたが、日記の幽霊からのコメントも指令も綺麗さっぱり消えてしまっていました。
 あれれ、と頭をかしげあれは自分の幻覚だっのか?とか、いやいやあれはたしかにあったはずだ、と何冊もある日記を一つずつ見ていきましたが、どこにも日記の幽霊の痕跡を見つける事はできませんでした。例え消しゴムで消したとしても何か書いてあった痕跡は何かしら残る気がするのですが、なんにもありません。
 一人首をかしげていると、やがて父親が帰ってきて晩飯の時間になり、階下から「ご飯よー。」と母親に呼ばれました。

 父親はテーブルについて缶ビールをプシュっと開けていて、「お前も飲むか?」と聞いてきましたが、二日酔いで頭が痛かったので「いらない。今は見たくもない。」と断ったのですが、「お前な、酒飲みってのは酒飲んで二日酔いを治すんだぞ。」と僕のグラスに注いできたので結局その日も、ビール→焼酎と酒を飲むことになり、実際酒を飲むと不思議なことに頭痛も治まっていたのでした。
 焼酎を飲みながら父親と将棋をさしている時、僕の部屋の日記のことを聞いてみましたが、「勝手に部屋入って日記なんか読んでたらお前怒るだろ。母さんが時々掃除してる以外は知らんよ。」と父親も何も知らないようでした。

 部屋に戻って、机の上に置いた日記と、浩司に返すゲームソフトを眺め、結局日記の幽霊はなんだったのだろうと思いましたが、考えてもわかるはずもなく、ちょっとしたイタズラ心で、僕の手で日記に書き込みをしてみることにしました。
 ページをめくって、ゼルダの伝説ついにクリアしたぜ!と書いた日を見つけると、「浩司に早くゲーム返せよアホ!」と書き込んでパタンと日記を閉じました。

 そしてベッドに入って電気を消した僕は、酔いもあってすうっと眠りに落ちていきました。
 そして、一つの夢をみました。

 夢の中の僕は小学校6年生で、朝起きて日記を開いて見ると、昨日書いたページの端に「浩司に早くゲーム返せよアホ」と書き込まれていました。


つづく


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