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さいたま市大宮盆栽村

世界各地に

パワースポットと呼ばれる土地があります。

大宮盆栽村とよばれる

老舗盆栽園の集まる地域もその一つ。

界隈にはまだ

原生林をおもわせる大樹が残っており、

先人が、自然豊かなこの地に

居を構えた理由にうなづかれます

しかし

その土地を護り清める者がなくなれば

やがて土地のパワーは衰え

すたれていきます。

盆栽村の今昔に思いを馳せました。



風土

新潟から上越新幹線に乗り

雪国のトンネルを抜けると

忽然と、晴れわたる青空が広がります。

日本海側の気候とはうって変わって

ここはもう

乾燥した風が吹き抜ける関東平野。

火山灰が層をなした台地に

独特の樹々が風景をおりなしています。

車窓からの風景では

照葉樹と、ケヤキなどの落葉樹が入り混じる

里山があちらこちらに残り

水はけの良い土地柄か、

杉の植林はほとんど見られません。

はるか昔

東は富士山や箱根山

北は浅間山や赤城山の火山灰が降り積もり、

関東ローム層という

赤土の大地を創りました。

痩せた火山灰の土地は

時の流れとともに植生が遷り変わり

やがて

うっそうとした常緑樹の森になります。

植嶽稲荷神社(うえたけいなりじんじゃ)※に残る

シイの巨木は

太古、その実が貴重な糧(かて)であった

縄文人の暮らしを

思い起こさせます。

吹き抜ける風と、豊かな森は

のちの世に、盆栽人の心をつかみました。

このような大地に

大宮盆栽村は営まれているのです。

グーグルでは植竹稲荷社と表記 
さいたま市大宮区盆栽町253-12盆栽町会館よこ

成り立ち

江戸時代、武家や商人に愛好された盆栽は

彼らの庭を手入れする

植木職人たちによって支えられました。

植木職人たちは

東京都文京区にある団子坂周辺に

職人街を形成していましたが、

明治に入り

石炭燃料の普及で、スモッグによる日照不足や

大気汚染よる環境悪化で

植木への被害が深刻化しました。

そして

大正12年の関東大震災の被害をきっかけに

埼玉県の大宮へ移転しようとの声が上がります。

未開の原野となっていた土地を

開墾しての村の形成でした。

その際、村で取り決められた約定が4つあります。

一、盆栽10鉢以上を保有すること

一、門戸を開けて庭を解放すること

一、二階建てを作らない

一、塀は生垣にすること

この四箇条からは

職人街であるという、商を旨とした公益性と、

盆栽を育てるうえで何より大切な

「日照」と「風通し」を

重視した街作りがうかがえます。

職住一体となったコミュニティのありかたは、

各戸が自らの役割を自覚し

土地への誇りを生み出します。

そうして

ゆるやかに互いのプライバシーを守る暮しが成り立ちました。

おそらく

街は掃き清められ、

犯罪のつけ入る隙も無かったことでしょう。

盆栽村は、大正期の自由な時代の空気が生み出した

一種のユートピアだったのです。

現在の街並み

さあ、現代の盆栽村はどのようになっているでしょうか。

知らない街並みを歩くとき

まるで何かに引き寄せられるかのような

不思議な感覚におそわれることがあります。

そんなときは、地図アプリを離れて

その声を頼りに、路地を彷徨い歩くのです。

今回、盆栽村でも、そのような感覚に襲われました。

何かが呼ぶ声に引き寄せられて

路地を曲がると

そこで思わぬ光景を目にしたのです。

そこには、無惨にも刈り込まれた大木の姿がありました。

樹齢100年を超えるであろう大木の数々が

宅地の都合で刈り込まれ

コンクリートに覆われていたのです。


人間社会の都合を優先させて、

枝葉を失い、根を張ることの許されない樹々は

まるで手足を奪われたかのようです。

わずかにひこばえを出し

息の絶えようとする今、命をつないでいるものも

瀕死の状態で、いづれ訪れる死を待つのみ、という状況です。

さいたま市は、各社鉄道が乗り入れ

都内まで30分の好立地。

ベッドタウンとして土地の価格が高騰すれば

相続税の問題から

後継者は土地を手放さなければなりません。

転売するたびに土地が切り刻まれ

分譲されれば

樹々は切り倒されるのが世の摂理です。

大都市の通勤圏にあることは

ときに街に過酷な運命をもたらします。

盆栽村も

いつしか樹々中心の田園都市から

宅地分譲の切り売りにさらされていたのでした。

ふりかえって街を見渡せば

道路にはゴミが散乱し

もはや街角を掃き清めていた人々も

いなくなりました。

コミュニティが崩壊し

志を継ぐものがなければ

街並みも風景も消えてゆきます。

大宮盆栽村には

歴史と伝統の座に甘んじることなく

先人が拓いた美しい森を護っていくよう、

願ってやみません。

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