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雨の日の傘は高くつく

上京してから暫くもの間、東京では雨が降っていた。
3月最終週。まさに春の嵐と形容すべき、激しい季節の息吹。

初めての一人暮らしで荷物もそこまで持ってこなかった私は、当面の生活を切り抜けるために連日外で買い物をしなければならなかった。傘はない。何故か実家に傘を忘れてきた。

だから傘も東京で調達しなければいけないが、ところがどっこい傘が高ぇ。コンビニ、ドンキ、スーパー。消費者の足下を見てか、軒並み高値で売り付けやがる。どうも吝嗇の気がある私は、あまりにも高い出費を嫌って傘を買うことができなかった。



さてこのように、雨の日の傘は高くつくのである。

コンビニは、晴れた日は傘を目立たない場所に置くが雨の日には傘を大々的にPRする。銀行も、晴れの日には傘を笑顔で貸し付けるが雨の日は渋る。人も平時は優しくするけれど、雨の日のようにストレスがかかる場面では途端に親切に億劫になる。

ただ時たまに、雨の日に無料でレインコートを配るような企業はある。思わず手助けしてしまう新米の銀行の融資担当者さんもいるし、自分が持っている傘を他の人と分け合う人もいる。そういう雨の日のワンシーン─どうでもいい不条理─に心が動かされる。


東京は今日も雨中である。宇宙である。もはや傘を買うタイミングを完全に逃した私は、今日もずぶ濡れになりながら急いで高架橋を渡るのだと思う。


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