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Happy Women's Map 東京都千代田区 100年前の推理小説の悲劇のヒロイン 浜田 栄子 女史 / Tragic Mystery Heroine from a Century Ago, Ms. Eiko Hamada


-『逝ける栄子の為めに』(野口亮 著 / 誠文堂1921年)

「世の中の人々に私共が如何に潔白であったかを知らせて下さいませ。」
"Please let the people of the world know how innocent we were."

浜田 栄子 女史
Ms Eiko Hamada
1903 - 1921
千代田区駿河台 生誕
Born in Chiyoda-ku, Tokyo-to

浜田 栄子 女史は、日本で社会現問題になったミステリー事件の悲劇のヒロイン。若い才女の自殺を巡って、ミステリー小説のように新聞で1か月弱に渡って連載記事が掲載されました。
Ms. Eiko Hamada is the tragic heroine of a mystery case that became a social issue in Japan. The story of the young talented woman's suicide was serialized in newspapers for nearly a month, much like a mystery novel.

「無邪気な8才と21才」
 栄子は、産婦人科医の父・浜田玄達と、母・捨子のもとに2人きょうだいとして生まれます。玄達は産婆養成所また日本産婦人科学会を創設、宮内省御用掛また帝国大学医科大学長を退官後は私立病院を経営するなど多忙を極めます。捨子は乳母に2人の子育てを任せたきり、栄子におしゃれをさせることもなく、捷彦が連れてくる友人たちに構うこともなく、自分事に忙しくします。栄子はピアノに熱中しながら学業優秀で、お茶の水付属小学校では昭憲皇太后の前で朗読を披露。兄・捷彦は花柳に足を踏み入れ放蕩を始めます。栄子8歳の時に、母の甥・野口亮が浜田家から早稲田大学商学科に通いはじめます。

「見違えるほど大人びてきた16才と29才」
 栄子が12歳のときに父・玄達が逝去。父親の遺言書から親戚筋が外されます。「一家の重大事富富むることは(友人の)緒方正規、(門下生の)松浦有志太郎、(医師)佐伯理一郎、(家政顧問弁護士)尾越辰雄の4名に諮りて決めよ。病院は辻・小畑の両氏で永続すべし、難しい場合は前4氏に諮れ。資産は半額以上を捷彦に、栄子には後日捷彦と捨子にて相当の処置を為し、栄子はこれに快く服すべし。所有地物件は全て捨子に。親族から申し出のあるときは尾越辰雄に諮れ。」兄・捷彦は廃嫡され芸者と結婚して渡米。お茶の水女学校に通い始めた16歳の栄子は、大学を卒業して兵役に就く甥・野口亮との結婚を望むようになります。

「ラスプーチン」
 当時、30歳未満の男と25歳未満の女が婚姻をするには父母の同意を得なければなりません。16歳の栄子と29歳の亮は結婚の承諾を得るために、捨子はじめ尾越・緒方・松浦・佐伯の4氏を訪ねます。緒方夫婦から次男坊を、尾越夫婦から知り合いの医学生を結婚相手に勧められた栄子は断固拒否。一度、他家に養女に出てから野田家に嫁入りすることに決まります。なかなか養子縁組先が見つからない中で、栄子が身ごもります。すると尾越弁護士は小畑博士に病院を売却して共同経営者となり、病院に隣接する土地を和歌山の富豪・西村伊作に売却して仲介料を奪い、駿河台の自宅を売却して中野に移します。栄子は長男を出産するも早産で夭折。私生児として届け出ます。4氏は栄子にアメリカ留学を勧めます。「10年修行の後、野口も貴女も立派な紳士・婦人となったことを認めてからお渡しする。」

「18歳の毒りんご」
 英子は殺鼠剤を服用して自殺を図ります。父の浜田病院を引き継いだ小畑院長が治療にあたり命を取り留めたはずが、24時間後に突然心臓発作を起こして逝去。アイスクリームとミルクを食べた数時間後でした。栄子は亮と母親・捨子あてに2通の遺書を残します。栄子に遺産は与えられず、遺骨は野口家に引き取られ、婦人矯風会と廊清会に一千円(今の300万円程)ずつ寄付されます。

「恋しき亮様
私は遂に最後の手段を取りました。私は死にます。
そしてあなたに申訳を致します、考へて見れば私は何といふ不幸な女でせう。又あなたは何といふ不幸な男でせう(併し考へて見れば三年間といふものあなたから随分愛されて暮した事は幸福でした) 。母がもう少し理解に富んでいた人でしたら私共は此の様な不幸を見る事は決して決してなかった事と信じます。しかし子として親をうらむ事は出来ません。私は母には充分に同情を致します。私は此の広い世の中に心から私を理解し心から私を愛して下さった人はあなたより外に一人もありません。
私はあなたに最後の御願ひがあります。私の死んだあとは、どうぞ私の考へのシソウを世間に発表して下さいませ。そして世の中の人々に私共が如何に潔白であったかを知らせて下さいませ。後に残ったあなたはどうぞ紳士としての立派な行くべき道にしたがって下さい。さうして、私があなたを一生つれそふ夫に選んだ事に付いて裏ぎらない様にして下さいませ。又あなたに対して男子としての面目をむざむざにふみにじった尾越たちに対しても紳士といふことを忘れずに堂々たるフクシュウをして下さい。相手が如何にヒレツでもあなたは何処までも、紳士といふ事をお忘れ下さいますな。そしてあなたの年老いたる、御母様や御姉妹のことを忘れずに決して早まったことをして下さいますな。私はあなたが男らしいフクシュウが立派に出来る事と、貞淑な奥様を求められ楽しい家庭を得らるる事を神様に祈ります。あなたの将来幸多き事を祈ります。どうぞ私といふものを永久にお忘れなさらないで下さいませ。私の死体はどうぞお引取り下さいませ。私のかたみはあの指輪で御座います。どうぞ御伯母様、おとめ様、みね子様皆々様によろしく。私はあなたの温かい胸に抱かれて死にとう御座います。一人淋しく死んで行く女をあはれんで下さいませ。せめて私の冷たい死体があなたのおそばにまゐりましたらだいてやって下さいませ。
栄子
恋しき夫の君へ」

「御母様私はこの世を去ります。私は死んで御母さまへの不幸の罪と野口への申譯を致します。今さら愚痴を申すようでございますが、御母さまが私の一生のお願いを通して下さったならどんなに幸福だったでしょう。私は死ぬまで野口が立派な紳士であることを証明いたします。将来有望なる青年紳士を罪なくして両目を踏みにじった人々を私は憎みます。私は今頭が何だか分からなくなりました。私は行きましょう。御父様や愛児のそばに。御母様はどうぞ幸福にお暮しください。私の死骸はどうぞ野口にお渡し下さい。私の最後のお願いでございます。どうぞ御母様お願い致します。
栄子
御母上様 御前に」

-『恋は思案の外 : 人生哀話』(水島尺草 著 / 久盛堂1921年)
-『浜田栄子恋の哀史』(椒魚生 著 / 日本社1921年)
-『逝ける栄子の為めに』(野口亮 著 / 誠文堂1921年)

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