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Happy Women's Map 宮崎県東臼杵郡椎葉村 日本の伝統的焼き畑農業の最後の継承者 椎葉クニ子 女史 / The Last Guardian of Japanese Traditional Fire-Fallow Cultivation, Ms. Kuniko Shiiba

-宮崎県季刊誌『Jaja』vol 6.秋号


「ソバはね、三角で角が大きいと身が少ない。丸いのがいっぱいつまっとっとよ。この種を切らしたくないけん、50年も60年も焼き畑をしてきたとよ。これが何千年も昔からの種。」
"Well, you see, when it comes to soba, if the grains are triangular with big corners, they're a bit light. But the round ones, they're packed tight. Been tending to these seeds for 50, maybe 60 years, working those kiln fields. This strain, it's been around for thousands of years, don't want to lose it."

椎葉 クニ子 女史
1924 - 2023
宮崎県東臼杵郡椎葉村 生誕
Born in Siba-mura, Igashiusuki-gun, Miyazaki-ken

椎葉 クニ子女史は、先祖から受け継いだ日本の伝統的焼き畑農業と在来種・固有種の種を夫婦で守りながら、著書・ドキュメンタリー・講演会・民宿経営を介して、国内外のたくさんの人々に持続的かつ循環的な有機農法を伝承しました。
Ms. Kuniko Shiiha, along with her husband, has preserved Japan's traditional fire-fallow cultivation passed down from their ancestors, as well as heirloom and indigenous seeds. Through her books, documentaries, lectures, and running a guesthouse, she has shared sustainable and cyclical organic farming methods with many people both domestically and internationally.


 「平家の落人の村」
 クニ子は熊本県境の尾根近く湧き水に恵まれた緩斜面の集落、椎葉村に生まれます。壇ノ浦の戦い敗れた平家の落人たちが移り住んで以来、田んぼが無い山を切り開いて木を焼いてヒエ・アワの雑穀を中心に育てる厳しい生活。ヒエを大人5・6人がかりで臼について脱穀する重労働から生まれたヒエつき節を聞きながら、クニ子は幼少時から、焼き畑・山仕事を手伝いながら、食べられる草・木の実、薬になる植物、生活に利用できるもの、危険なものを父母村人から教わります。「ワラビをその年に初めてみたらすぐに足に塗るとよ。ヘビもワクド(カエル)も嚙みつかん。昔、刈った草に刺さったヘビが隣に伸びてきたワラビの若芽に押し上げられて助かったんだと。」クヌギの樹木の幹に耳をあてて時期を見極めて切り倒すと、なたで傷をつけシイタケの胞子が傷に付着するのを待つ「鉈目法」でナバ(シイタケ)の原木を世話します。食糧不足時には、キツネノカミソリ・オオセといったヒガンバナ科の毒草の根を掘り出して、大変な労力と手間をかけて、炊いたり水にさらしたりを何度も繰り返して団子にして食べます。

「焼き畑農業」
 クニ子は尋常小学校を卒業してまもなく大阪の紡績工場で働き郷里を1年離れるも、もう日本全国何もない激動の時代に突入。椎葉に戻って結婚、夫・秀行と村の中心から車で1時間ほど分け入った標高900メートル・50ヘクタールの山野ならびに焼き畑を受け継ぎます。焼き畑農業は1年目はソバ、2年目からヒエ・アワ、3年目は小豆、4年目は大豆、5年目は栗を植えて自然に返し、約20年間地力の回復を待ちます。火入れに祈り「このヤボに火を入れ申す。ヘビ・ワクドウ(蛙)・虫けらども早々に立ち退きたまえ。山の神様・火の神様・お地蔵様、どうぞ火の余らぬよう、また焼き残りのないようお守りやってたもうれ。」、種まきに祈ります。「これより空き方に向かって蒔く種は、根太く、葉太く、虫けらも食わんよう、一粒万倍千俵万俵仰せつけやってたもうれ。」農薬を使わずに病害虫も焼き払った草木の灰で土の栄養価を高め、畑の作物・山菜・きのこなどの持続的な恵みをもたらす自然農法、そして先祖代々守られてきた在来種・固有種の種を守ります。50年も60年も同じことを続けているうちに、気づくとクニ子たち夫婦が全国唯一の焼き畑農家となります。

「山村のサイクル」
 やがて農学部・民族学部の研究者はじめマスコミまた観光客が頻繁に訪れるようになると、周囲から勧められて民宿「焼畑」を始めます。名物はクニ子の500種類以上の生活に密着した植物の話、それから椎葉に伝わる山村料理。焼き畑1年目につくるソバでつくったソバガキと大根・人参・里芋・干し竹の子・冬の猪また鶏の味噌仕立て「ソバわくど汁」、そば粉と手近な野菜類を塩味で煮て練り上げた「ソマゲ」。焼き畑2年目につくるヒエを米と猪と一緒にとろとろに塩見で煮込む炊きあげる「ヒエずーしー」。焼き畑3・4年目につくる大豆と平家カブの葉っぱを混ぜ込んで作る「ひきわれ」はじめ、春は桜に菜の花・夏はヤマフジ・秋は菊入りの「菜豆腐」。「芋から作るこんにゃくの刺身」、「紫蘇・野菜・果物の味噌漬け」などなど。夫・秀行も一緒にセンブリやキハダをつけこんだ自家製の焼酎を振る舞います。やがてクニ子の聞き語りが書籍化され、ドキュメンタリーに出演を果たしクニ子は、国内外のたくさんの人々に自然のサイクルの中で暮らす椎葉村の農業・営みを語り伝えるうちに、高千穂郷・椎葉山の焼き畑はじめ農林業が国連・食糧農業機関の世界重要農業遺産システムに認定されます。

-『おばあさんの植物図鑑』斉藤 政美(文)・椎葉 クニ子(語り)/ 葦書房
-『おばあさんの山里日記』佐々木 章(文)・椎葉 クニ子(語り)/ 葦書房
-『クニ子おばばと山の暮らし』椎葉 クニ子(著) / WAVE出版
-『森聞き』(2011年 日本映画)
-『千年の一滴 だし しょうゆ』(2015年 日仏合作映画)
-『NHKスペシャル クニ子おばばと不思議の森』(2011年 NHKドキュメンタリー)

-民宿「焼き畑」

-「雲仙たねをあやす会」
クニ子が守った平家大根・平家カブの種を受け継いだ人々。

-平成17年度 国土緑化推進機構「森の名手・名人100人」

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