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国際美術展、コロナで問題点が表出

 コロナ下でアートがどうあるべきかを考える連続シンポジウム「『コロナ以降』の現代アートとそのエコロジー」の第二回「『コロナ以降』の国際展とは?」が9月10日、オンライン配信で開かれた。文化庁アートプラットフォーム事業の一環。登壇者からは、コロナによって、もともと現代人や国際美術展が抱えていた問題点があぶりだされたといった指摘がされた。

 その一つは、現代アートの国際展が、数も規模も大きくなり、ビジネスとも結びついて世界各国で開催されていることだろう。世界では約300もの国際展があり、ことに日本では20ものトリエンナーレ(3年に1度開催)やビエンナーレ(2年に1度)があるという(国立新美術館館長で横浜トリエンナーレ組織委員会副委員長の逢坂恵理子氏の発言から)。山口大の藤川哲教授は、コロナによる移動制限で、今年開催予定だった世界の28の国際展のうち、少なくとも5つが中止または延期になったことを紹介。芸術祭や参加作家・作品の肥大化という課題に、コロナが一石を投じたと指摘、現状を再考する時間を与えられたと考えるべきだと話した。


 一方、ソウルで今年開催予定だった「ソウル・メディアシティ・ビエンナーレ」アーティスティック・ディレクターのユン・マ氏はロンドンからのオンライン参加で、コロナ下では「時間」こそが再考すべきテーマだと指摘。同ビエンナーレは来年に会期を延長、さらに内容も国内に焦点を当てたものに組み替えるという。ユン氏は、ワクチンをめぐる報道でも顕著なように、短期間で満足を得るのが当たり前になった現代人は「自分の欲望がすぐ叶えられないと我満できなくなっている」が、「もっと時間を受け入れるべき」だと話した。三密対策で美術館などの展示会場への入場を2、3割に制限している現在、「展覧会の会期の長期化を考えてもいいのでは」とも提案した。会期については藤川氏も、丸2年開催し続ける、屋外展示のみで入場無料のドイツの国際彫刻展「ケルン・スカルプチャー」の例を挙げて、可能性を示した。

 国際展を開催するためには準備段階では実際に作家や作品と会ったり見たりするリサーチが必要だ。さらに開催前には作品を輸送し、会場で展示し作家が確認する。今回、初日を後ろ倒しして会期を変更しつつも開催中の横浜トリエンナーレでは、アートディレクターが海外の作家グループだったこともあり、かねてネット環境での打ち合わせを重ねていた。そのため作家やディレクターが来日しないままに構想や展示が可能だったと、逢坂氏は明かしつつ、それでも実際に会場に足を運んでの体験がアートには絶対的に必要だと強調。ユン氏も、今後いかにIT技術が進んでオンライン展示やオンライン鑑賞が可能になったとしても「100%デジタル依存だけは避けたい。極めて悲惨だ」と、実際の「身体的な体験」の重要性に言及した。

 逢坂氏はまた、美術展の意義を「アートを通じて世界の状況を読み解き、確認し、共有することができる」と解説。特に他国と地続きに接していない島国の日本人にとっては、海外への興味関心を持ち続けるための装置として、国際美術展が重要な機能を果たせる、とも指摘した。最後に、コロナの時代の国際展について「何が必要か原点を考えつつ、規模はどうあれ継続することが、国際展には一番大事だと思う」と締めくくった。

(文責・長友佐波子/2020年9月10日執筆)

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