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ほぼ「リモート株主総会」ソフトバンクが開催、コロナの時代の標準になる?


 ほぼ完全な「リモート株主総会」が、通信大手のソフトバンクによって6月24日、開かれた。総会会場は用意されたものの、議長も出席役員もウエブ会議システムを通じて遠隔からの参加。株主たちも、ライブ中継画面に「インターネット出席」して視聴し、ネット投票システム議決権を行使した。さすがは通信事業者だが、コロナ後の「新しい生活様式」ではこれが「標準」になるのかもしれない。

議決権行使もネット投票で

 ソフトバンクの第34回定時株主総会は、24日午前10時から始まった。インターネット出席を事前に予約してあった株主は、渡されているウエブサイトのアドレスに接続し、株主番号を登録して視聴する。時間になると、議長でもある宮内謙代表取締役社長執行役員兼CEOが画面に現れ、議事進行を始めた。

議長役の宮内社長

(画面上でひとり議事進行をする議長役の宮内謙社長)


 ふつうの株主総会ならば、檀上にはずらりと社長以下役員が居並ぶが、今回はズームのようなウエブ会議システムを使い、役員もリモート出席だった。議長が役員を紹介した時だけ、役員15人が並んだ画面に切り替わったが、あとは議長のひとり舞台。画面に出づっぱりで、一人で司会進行をした。質疑応答も自分で質問を読み、自分で回答、最も時間を要するところだが30分ほどで切り上げた。2議案の採決では株主が議決権行使をしたが、これもネット上の投票システムが使われた。即ネット集計され可決された後、議長が終了を宣言すると、会議画面は勝手に閉じられた。議長が冒頭に「1時間で終える」と宣言した通り、時計を見ると、まだ午前11時2分。あまりにあっさりしていて、もう終わっちゃった、という感じだ。株主が会社に物申す「株主総会」というよりも、会社側が一方的に投資家に会社の方針を説明する「株主報告会」のようだった。

ソフトバンク株主総会で出席役員

(ウエブ会議システムで顔をそろえた役員たち)

会場はウエブ、不満も拍手もなし

 一般的に、株主総会といえば、ホテルやホールなどの会場に、一癖も二癖もありそうな(主に中高年の)株主が大勢押しかける、というイメージだろう。かつての「総会屋」のような悪意ある参加者はいなくても、会社の業績や今後の方針をめぐって会場から質問の手が次々と上がり、質疑応答にはたいてい1時間から1時間半ほどかかる。質問は終わらないままに打ち切られ、聞けなかった株主らの不満がくすぶることもある。それでも最後には採決すべき議案を、事前投票と会場の拍手で決し、笑顔で終わるものだ。「しゃんしゃん総会」と揶揄されることもあるが、実際に会場に行くと、最後に大きな拍手が起きるのは、経営陣への「頑張れよ」という応援メッセージとも感じる。

 それが今回のソフトバンクの株主総会では、最も「株主感」が感じられる現場であるはずの「会場」がなくなった。(実際には会場も用意したようだが、株主にはインターネットでの参加を呼び掛けていた。)生で役員や社長の顔を見ることもなければ、会場に押しかけた他の株主の熱気や不満を感じることもない。さくさくと議事進行は進み、懸案を時間通りに解決して、会社側にとっては効率的だったろう。ウエブ上なので、「総会屋」のような不穏分子が会場に押しかける心配もない。だが最後に拍手をしないと、なんだか参加した感がしない。

質問内容の選定や動議には疑問

 また、質疑は、事前または当日の総会の予定時間内にテキストで送信した質問の中から会社側が選んで答える方式。計19問もの質問に社長自ら回答したにもかかわらず、「薄味」な印象だった。会社側が質問を事前に選んでいたため、都合の悪い質問がなく、予定調和感が強かったためかもしれない。その場で質問を募った場合にままある、会社への勝手な意見開陳や、会社にとって都合の悪い質問が出て、回答に苦慮する経営陣のおろおろぶりが見られなかったため、もあるだろう。株主への対応力で社長の器が見え隠れする場面だけに、少し惜しい気もした。

 さらに、ライブ中継中に株主ができることとして、動議も可能とされていたが、疑問が残る。リアルな総会ならば、会場で「動議」と手を挙げれば他の株主にも認識されるが、ネットの場合は主宰者=会社側なので、可視化されずに動議そのものが無視され、なかったことにならないだろうか。ここは工夫が必要だろう。

 ただ、質問をしたい人は全員が質問を送れるシステムのため、当日の挙手の場合のように「当ててもらえなかったから聞けなかった」不満は株主側には残らなかっただろう。とりあえず、聞きたいこと・言いたいことを、ふだんは言えない社長に向けて直接(メールではあるが)送信できた、という満足感・達成感はある。さらに、ネット投票システムを使った採決は、集計も速いし、拍手のように雰囲気ではなく数字で決めるため、納得性が高いだろう。

ソフトバンク採決もネット投票

(議決権行使もネット投票で)


ネット株主総会は「適法」、時間も空間も手間も浮く

 ちなみに、質疑応答での最後の質問が、こういうネット総会の運営自体が適法かどうか、というものだった。宮内社長の回答は「国のガイドラインに準拠しており、適法と考える。新しい取り組みで、不便不満はあるだろうが、今後改善に努めたい」とのこと。

 みなが一堂に会するために車や電車で出かけて行くこともなく、不測の質問で会議が引き延ばされることもない。「密」も避けられ、会場を借りる費用も、警備などの人件費も、スタッフが準備にかける手間も浮く。時間も空間も手間も節約できるネット中継株主総会は、いずれ多数派、スタンダードになるかもしれない。

ソフトバンク終了画面

(ほぼ1時間で終了し閉じられた総会の画面)

(2020年6月24日、長友佐波子執筆)

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