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親子の最終(結)戦・4話


~いつかくるその日の前に
  幸せなお別れの準備を始めよう〜


【持病】

母の恐怖のドライブから無事に帰還した。
よかった。
でも…妹の話ではもっとヤバいんじゃないかと思っていたから、そんなに気になる点もなくてちょっと安心した。

『私もまた運転しようかな〜』
『そーねー。いいっちゃない?この車使って練習したら?』
『えー、うーん。帰ってから教習所で練習するよ』
『そうなん?でもその方がいいかもね』

そんな話をしながら荷物をおろした。
近所の人に私が帰ってきたことがバレないように早く家に入らなくちゃ。あ、でも先に父か!
と思ったら私がトランクから荷物をおろしているうちに父はすでに家へ向かってひょこひょこしながら歩いていた。
右手で杖をつき、うまいこと左膝に負荷がかからないようにはしているが、あれでは右の股関節に負担がくる。早くふつうに歩けるようにしてあげないと。
私は冷静に観察していた。

『お姉ちゃん、この杖があって助かったばい。前にお母さんが膝の手術したときに買ってあったやつなんよ』
母『へへっ全然使ってなかったけど役に立ったばい』
『へー、やっぱり杖あるとラク?』
『うんうん。はじめは難しかったばってん、だんだん慣れてきたったい。やっぱりあるとラクやね〜。安定するっちゃん』
『へ〜』

足の悪い父が先頭きって家へ入って行った。
ひょこひょこしているわりに足が速い。
あー、久しぶりの実家だ。
思わず気が緩みそうになる。
いかんいかん、私の今回の目的は父の手術を止めること!
専門家として手術しなくても保存療法でなんとかいけるよう考えなくては!
気が緩む前に肝心の膝を見ることにした。

『お父さん落ち着いたらちょっと膝見せてー』

玄関からすぐトイレへ向かう父
前立腺肥大があるからトイレが近いのだ
薬は飲んでるそうだが、症状を少し抑えるくらいでそれで治ることは無い。

発症してからかれこれ10年以上経っている。
うちの子がまだ保育園に通っていたころ、弟の結婚式があった。
上京してきた両親と妹、弟家族でディズニーランドへ行ったとき、頻繁にトイレへ行っていた姿を思い出す。

トイレから水洗の音が聞こえて父が出てきた
『はー、さてさてさてさて〜』
すぐにリビングのダイニングチェアに腰かける。
『よっこいしょっと!ふーーーー』
これでひと段落だ。

『ほい、じゃあ膝見せてー』


つづく


※前立腺肥大症とは

加齢とともに前立腺が肥大していく男性特有の病気で、栗の実くらいの大きさから鶏卵くらいの大きさまでに肥大し尿道を圧迫するため尿が出にくくなったり、頻尿や残尿感などの症状が出る。
進行すると閉尿となり、尿道にカテーテルを入れて尿を外の袋に排出するようにしなければならない。

治療法にはホルモン療法、投薬、外科手術がある。

前立腺が肥大する原因に男性ホルモン分泌過多があるため、ホルモンを抑えるホルモン療法や、尿道を圧迫する前立腺の緊張を緩めたり、膀胱の血流を改善したりする投薬治療が主な治療法である。

それで改善が見られない場合、前立腺切除という外科手術もある。
内視鏡を使うため体への負担が少なく一週間程度の入院で済むが、全部を取り去るわけではないため、また少しずつ肥大していき数年後に再手術することもある。






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