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仕込みNo.009甘口 について

No.009裏ラベル

画期的な仕込み方法で成功した「仕込みNo.009 甘口」についてご説明しましょう。これはNo.008辛口で言及した「溶けやすいお米」の反対「溶けにくいお米」の課題から導き出した仕込み方法です。

この仕込みに使っているお米は長浜市湖北町の「シバタグラウンドミュージック」さんの「ありがとう米」です。大豆の後にお米を植える自然循環農法で10年間自家採取されていて、その結果、少し小粒で硬めのお米になっています。種子として身を守ってる感がして、普通の水加減で炊いたご飯も少し硬め。味わいとしては綺麗であっさりしていて、たくさん食べられるようなお米です。

No.008辛口で使っている「はみ出し米」などと比べて、溶けにくいお米であることは間違いなく、まあ、もし辛口で仕込むなら最終的な加水量が多くなるので飲みやすさとして大丈夫な範囲なのですが、「甘口」を作るとなると、結構溶け残ったお米の量が多く、ドロドロ感が増してしまい、「食べるお酒」感が強くなってしまうという課題がありました。(仕込みNo.001とNo.005)
それはそれで舌の上での滞留時間が長くなって、「少しだけどぶろくを飲みたい」層にはよかったのですが、私的に「飲み物として身体に染み込むようなリラックスできる甘口」を表現したいという想いが募りました。

そこでです。醸造所の店頭にはお子様連れのご家族がよくお越しになられますが、大人にはどぶろくの試飲(有料)を、お子様には甘酒シャーベットのご試食(無料)を提供しております。そしてお子様に「その甘酒をぷくぷく発酵させると、どぶろくになるんだよ」なんてことを申し上げております。「甘酒とどぶろく」は糀で繋がっているんだということを表現する醸造所として、必要な台詞なのです。

お子様がどこまで関心があるかはわかりませんし、そもそも聞いているかは疑わしいのですが、何よりその台詞で影響があるのは、実は自分自身なのでした。もう何百回と口に出していると、脳みそに刻み込まれます。「甘酒をぷくぷく発酵させるとどぶろくになる」「甘酒をぷくぷく、、、、」来る日も来る日も言い続けるのですから。

それがある臨界点を超えると、そうかそうか本当にそうなのではないか、と信じ込むようになります。ぜーーーーんぶ甘酒にしてから、ぷくぷくさせて、どぶろくに変換させたら、もしかしてよく溶けてしかも美味しいものになるのかもしれない!
そして当醸造所のノンアルコールの甘酒は「ご飯と糀」でできています。通常お酒造りでは蒸米が使用されます。蒸米は甑もしくはせいろで蒸気で蒸しますが、「ご飯」は炊飯器で炊きます。蒸米とご飯とでは明らかにご飯が柔らかく、いかにも溶けやすそうですよね。よし、それでは、糀以外、全て炊いたご飯で、しかも甘酒にしてからどぶろくへ発酵させる世にも珍しい仕込みに挑戦だ!

ということで、ご飯の甘酒を仕込みます。量が量だけに結構面倒くさい。55度付近での糖化は12時間程度。しっかりとドロドロにして、美味しい甘酒にします。それに氷を投入して急冷し、タンクに仕込みます。甘酒は5回に分けて仕込みました。そして、10度以下の低温で発酵。そして出来上がりは、、、、、

いやあ!これこれ!舌触りが重くない甘口になった!今までの甘口は、夜にカエルが鳴く田んぼの重い湿度感があったけど、これは広い田んぼの稲の株間に吹き抜ける風を感じるような、そんな「広い田んぼの風景」を感じさせるような甘口になったと思います。

この甘口の舌触りの優しさ、伸びやかさ。伸びやかさは包み込まれたいという安心とリラックスにもつながる。そう、これは母なる味わい。甘口のラベルは、雌狐でした。母を思わせるようなどぶろくをこれから目指していくのだなと腑に落ちた仕込みとなりました。
課題としては、あまりに伸びやかで酸がしっかりあるので、さほど甘口に感じないというところでしょうか。それでもNo.008辛口と比べたら、はっきりと糖度が高いのですよね。ぜひ飲み比べてみてください。

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