ファントム・ケージ
よく見る夢がある。
死んだ祖父母と、取り壊した彼らの家で過ごす夢だ。
過ごすというより、囚われているようで、敷地の外へ出ることは叶わない。幸福なれど痛みのある夢である。
失われた身体の部位が痛むのを「ファントムペイン」と呼ぶが、それを連想させる。
そろそろ彼らが死に、更地にしてから1年経つ。珍しく明け方に起きた私は、いい加減に区切りをようと思い立ち、彼らの温もりが残る布団から這い出した。
立て壊してから日数が経っている。
近所の林のように、分譲住宅が経っているか、それともコインパーキングになっているか、はたまた瓦礫が残って懐かしさの浸れるか、そのどれかだと思っていた。
何も残っていなかった。
更地にされた上には、絆創膏のようにビニールマットが敷かれて、工事用の車が一台、ぽつんと停車していた。
お喋りをする仲だった隣人たちの生活音がよそよそしかった。
開けるのに少し力がいる門、昔は鯉が泳いでいた池、祖母自慢の薔薇が咲く駐車場、台所に見立てて遊んだ大岩、台風が来てから雨漏りがしていた応接間、昼寝をした2階、夏みかんをもいだ勝手口。
それら全てが、テニスコート半面ほどの土地に、確かにあったのだ。
もう無い。
いや、とっくに無かったのだ。
確認した後は、妙に清々しい気持ちで現実へ向かって踵を返した。
優しくも痛みのあるあの夢を、もう見ることはないだろう。
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