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奇跡を起こした小さなピストン君

64歳現役ライダーのHappy Monkey Kojiです!

私の仕事場のデスクトップパソコンの上には、いつもガラクタのような傷だらけのピストン君が置いてあります。今日は、このピストン君にまつわるお話をしようと思います。

時は、1978年にタイムスリップ。学生最後の夏休みに入った7月1日、新車から丸3年間乗ってきたYAMAHA GT80に乗って兵庫県尼崎市から62日間日本一周に旅立ちました。学生時代のバイクライフの総仕上げと言える日本一周です。

1日目は、国道2号線を293km走り、静岡県の浜名湖YH(ユースホステル)。2日目は、御殿場から苦しい坂道を登って日本ランド経由で263kmを走り山梨県の河口湖YH。

そして3日目、河口湖YHから栃木県の今市市にある真光苑YHに向かいます。それまで絶好調だったエンジンでしたが、11:05 埼玉県入間市でエンジンがプツンと停止しアクシデント発生。その時に「こりゃダメだ」とバツサインを出して記念撮影。

noteピストンe



ここから先は、当時の日記を引用します。

オーバーヒートだろうか、こんな症状は購入後初めてだ。道路沿いの駐車場へ入れる。まずは自分の身体のオーバーヒートを冷ますために、つなぎ服を脱ぐ。暑い暑い、東京は暑い!エンジンを調べると、プラグキャップのねじが緩んでいた。な〜んだとホッとしたが、エンジンはかからない。どうしたのだろう、ガソリンはあるのに。しぱらく押して行き、陸橋の登り坂を押し上げる。汗がタラタラ、ファイト〜!いっぱぁ〜つ!坂の上から転がして、押し掛けの要領でタイヤからエンジンを掛ける。掛かった!しかし、スローが全然効かないので、回転を上げたまま、ギアシフトとクラッチで調整しながら走る。

12:20、なんとか頑張って15kmほど走ってきたがダメだ。スローが効かないので信号で止まるとダメ。信号無視1回、許してくれー。ジリジリと焼け付く暑さで人間の方が参ってしまいそうだ。これがオーバーヒートというものなのだろうか。押してでも今日の宿泊地の栃木県今市市の真光苑YHへ向けて急ごう!しかし、暑い!汗がタラタラ滴り落ちる。自分は、YAMAHA GT80の右側から押すタイプなので、大型トレーラーが右の肩スレスレに追い越して行く。ヒェ〜!恐い!12:45、陰にYAMAHA GT80と人間を入れて冷やす。自販機でジュース80円、身体の中を冷やす。もはやこれまでか、天は自分を見捨てたのか。

 先は長いのに3日目にして・・・「62日間日本一周、3日目にして断念!」と暑さでもうろうとしている頭の中にエンディングのテロップが流れる。荷物が重過ぎるのか、運転の無理が祟ったのか。アクセルのONとOFFを考えて運転せねば。地図では、真光苑YHがある栃木県今市市まで、あと131km。40km/h平均で走って、3時間半。ちょうど今日の予定走行距離の半分の所にいるのだ。

 1:05、身体もエンジンも冷えてきた。精神的にも、続行困難と理解しているので冷静になってきた。1:10、ひょっとして掛かるかもと、キックペダルに足をかけ数回踏み込むが、掛かる様子はない。電気関係の故障かもしれないと思い、プラグキャップを抜いてみた。車載工具でプラグを緩めて、シリンダーフィンにプラグを当ててキックしてみる。青白いアークがしっかり飛んでいる。ガソリンもあって、火花が飛んでいるなら掛かるはずだ。しばらく押して歩いていると荒川の橋があった。ここだ!この橋の下り坂を使ってエンジンを掛けようと、荒川の橋の上に押し上げる。結構な勾配があり、小さなバイクとは言え重く感じる。しかし、最後のチャンスかもしれないと思うと力が入る。橋の上で、YAMAHA GT80に股がった。

 天の神様に祈りながら、下り坂をエンジンが掛かってない状態でジェットコースターのように滑り下り始めた。始めはゆっくりな速度だったが、下り坂の3分の2を過ぎると結構なスピードになってきた。今だ!とばかりクラッチレバーを握りギアチェンジペダルを1速に踏み込み、クラッチレバーを離した。タイヤの回転がチェーンを介してギアミッションを回し、強制的にシリンダーロッドを動かせ、スパークプラグからアークが飛ぶ。スロットルを微妙に調整していると、エンジンに点火され掛かった。思わず笑顔になり、この点火された火を消さずに回転を上げながら走る。

 1時間走った2:20、春日部で国道4号線に入った。結局、アイドリングの調節のネジが、エンジンのバイブレーションで緩んだのではないだろうかと思いながら、相変わらず回転を上げながら走った。4:00、エンジンを止めたくなかったが、宇都宮で給油。GAS、4.2L、420円。ガソリンスタンド内で押し掛けをする。エンジン始動!良かった!とほっと胸をなで下ろす。アイドリング調節のネジを少し締めて回転を強制的に上げる。しかし、まだおかしい。スロットルを緩めると止まるようで、原因不明のまま走る。5:00、栃木県今市市の真光苑YHにやっとたどり着いた。

翌日です。悪夢の再来が始まります

 6:30、起床。朝から良く晴れている。昨日の悪夢を全然気にせず、朝食をおいしくいただく。8:00、NISSAN ブルーバードに乗って旅をしている新潟の兄ちゃんと写真を取り合って、いざ出発!

しかし、エンジンが掛からない。昨日、あれだけ調子が悪かった悪夢が甦った。車の整備士をしているという兄ちゃんにキャブレターを分解してもらう。バイクのキャブレターは触った事が無いと言いながらバラシてもらったが「ガソリンが来ない」と言って、すぐにサジを投げられた。あまり関わりになりたく無かったようで、「それでは!」と言って、NISSAN ブルーバードの兄ちゃんは出発。「気をつけて!」と見離された気持ちで見送った。YHのペアレントさんに事情を説明して、今市市のホンダのモータースさんを紹介してもらい来て見てもらうことになった。すぐにNISSAN キャラバンに乗って来た。「圧縮が無い」との判断がすぐ出た。「このエンジンの中古は無いですか?」と聞くが、この手は無いとのこと。見に来ていただたお礼を言って、ヤマハの宇都宮営業所に行くことにした。
 日本一周に旅立つ前に、バイクを購入したブラザーモータース立花店で「何かトラブルがあれば、全国のヤマハの営業所に行けば、部品はあるし、少々の事ならすぐ直してしてくれるよ」とアドバイスを受けたことを思い出したからだ。整備手帳の全国のヤマハの営業所を見ると、幸いにも30km離れた所にヤマハ宇都宮営業所がある。今日は、ここの真光苑YHさんにもう一泊することにした。今日の本当の宿泊地は、磐梯友愛山荘(福島県麻耶郡)に予約してあるので、キャンセルの電話をした。「バイクが壊れたので・・・」と事情を話したが、「この時期、当日のキャンセルは困ります!」と怒られた。電話代50円。10:30、荷物をYHに置いて、押し掛けを何度かトライしてエンジンを掛けて出発。


noteシリンダーb

 11:10、ヤマハ宇都宮営業所に到着。事務所の女の子に事情を説明すると、人の良さそうな整備士さんが出てきて応対してくれて、さっそく整備工場でエンジンのヘッドを分解してくれた。「良くここまで、走ってきたね」と見せてくれたのが、ピストンリングが折れて、ピストンに致命的なキズというか凹みが生じている。シリンダーの方ももちろんキズが入っていて、もはや絶望的。

noteシリンダーc

日本一周、これまでとあきらめた瞬間、神様が助けてくれた。なんということだろうか、「ちょうど、ここにGT80のシリンダーとピストンのストックがある」と整備士さんが言ってくれたのには、びっくり!ピストンリング2本とピストンロッドのベアリングは新品と交換。暑い日差しの中で、額から汗を流して直していただいた。元通りに組立完了後、祈る気持ちでエンジンをかける。かかったぁ~!バンザ~イ!費用は、3~4万は、かかるだろうと覚悟していたのだが、部品代だけの4,880円。めちゃくちゃ嬉しかった。ヤマハ宇都宮営業所、バンザイ!何度も何度もお礼を言って、12:40出発。

今思うと、こんなピストンの状態で、良くヤマハ営業所まで走ってこれたものだと思います。3日目、4日目にして日本一周断念してもおかしくない状態でした。

私の「日本一周完走したい」という思いをわかってくれたピストン君。ピストン君の身体がボロボロになりながらも埼玉県の入間市から栃木県の宇都宮市まで走ってくれました。そして神様が、シリンダーとピストンを用意してくださったとしか思いようがありません。自分ひとりで日本一周完走できたのではない事を知ると、自分も人のために何か手助けしてあげないとと心より思います。

宇都宮のYAMAHA営業所の整備士さんには大変お世話になり、おかげさまで、この後の日本一周を完走できました。恥ずかしながら日本一周後、この整備士さんにお礼を言いに行くとか、電話するとか、お礼状を書くことを一切しておりません。まだ子どもだったなあと、無礼を赤面するばかりです。この歳になって初めて心からお礼を言いたい気持ちになりました。

この時のピストン君が仕事場のデスクトップの上にいつも居てくれてその後の人生を見守ってくれています。人は、一人で生きているんではない。多くの人に支えられて生きているんです。多くのことを学ばさせてもらった日本一周でした。

では、また!


【このブログを書いてる人】

=あなたの遊びココロをゆうえんちっくなカタチに=
安心安全な遊園地の乗物クリエイター
http://www.kurokitec.com/company/message/

70歳の夏、22歳の時に決行した日本一周
同じ日程と同じコースで再び走る !
2026年7月1日〜8月31日決行 着々準備中!

22歳の時の日本一周はコチラ
【YAMAHA GT80 62日間日本一周】
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著書
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