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「森村泰昌 ワタシの迷宮劇場」展 作者としての森村泰昌さんに触れられる

京都市京セラ美術館で開催されている「森村泰昌 ワタシの迷宮劇場」展を見てきました。私は昔から森村さんの大ファンです。私が住んでいる京都で森村さんの展覧会が開催されると知って、とてもとても楽しみにしていました。
オープンしてすぐに行きたかったのですが、会期がはじまってから1週間目の日曜に見に行きました。

今回の森村さんの展覧会の魅力は、ズバリ、作品としての森村さんだけではなく、作家としての森村さんに触れられる点です!

その魅力についてレポートいたします!

これまで私たちは作品になった森村さんをたくさん見てきました。

ゴッホになった森村さん、フリーダ・カーロになった森村さん、マリリン・モンローになった森村さん、岩下志麻になった森村さん、チャップリンになった森村さん、アインシュタインになった森村さん、古今東西のアート作品や映画や社会的な存在として大衆が知るポピュラーイメージのアイコンとなった人々になって、なりきってきた、たくさんの森村さん。そしてそれらは、たくさんの森村さんの作品たちです。

森村さんの作品の魅力は、作品の中で、完璧な、なりきりぶりを発揮していながらも、日本の大阪に生まれ育った森村泰昌さんという人物がどうしても隠せないと言ったように漏れ出てくるところです。それが、たまらなく愉快で、時に痛快ですらあり、愛おしい、そればかりか、漏れ出てくる森村泰昌度は私たちが生きている社会の価値観をありありと暴き出していくのです。なんともスリリングな作品です。

もちろん、今回の展覧会でも、そんな森村さんの作品の魅力は余すことなく体験することができます。しかし、繰り返しますが、今回の展覧会の特別な点は、作品になった森村さんではなく、作家としての森村さんに触れることができる点です。

その特別な魅力について、どうしてもお伝えしたいです!

作家としての森村さんを感じることができる

展示室は「ワタシの迷宮劇場」というタイトルのとおり、まさに劇場空間。まあるい壁におごそかなビロードのカーテンがかけられ、そこにまるで劇場に展示してある俳優さんのブロマイドみたいに作品が展示されていました。

会場はまさにおごそかな劇場空間! 中には朗読劇が上演される劇場空間もあります。

出品されていたのはものすごい量のインスタント写真です。これまで森村さんの作品の登場人物をほぼ網羅しているであろうものすごい量の写真たちです。これらの写真は、これまであれほどたくさんの展覧会を開催してこられたにもかかわらず、一度も見せたことがなかったそうです。

これらの作品は

「私的空間で行われる儀式のようなもの」

会場の説明から

と説明されていました。

本来なら、作家さんの制作の秘密裏におかれるような、作品制作の際に試作的に撮られていたものだったのかなと想像します。

マリリン・モンロー
みんな大好き! ベルばら!
オスカル!
チャップリン!

まるでブロマイド写真のように飾られた写真たちを通じて、わたしたちは、これまで森村作品に登場してきた人物に再会することができます。そういう意味では、この展覧会で森村ワールドを十二分に堪能できます。

ところが、これだけの膨大な写真から見えてくるのは、作家として、登場人物をどのように見せるのかということを執拗に模索している作家としての森村さんです。

何枚も何枚も撮影しながら、これらの登場人物をどうしたら作品として活かすことができるのか、そのような作家の模索を垣間見ることができました。

森村さんの創作の秘密

劇場空間の中には、衣装や靴が展示されているお部屋もありました。中には、森村さんが資料として使ったと思しき様々な書籍も展示されていました。わたしたちはこの中に入ることはできません。あくまでそっと覗く形です。

展示室の中には、森村さんの作品に登場する人物たちが身につけていた衣装が展示されている小部屋もありました。そして、その部屋の床には、森村さんが作品を制作する際に参考にしたと思しき書籍たちが展示されています。わたしたちは、この部屋の中に入ることはできません。あくまでそっと覗き見るだけです。

この演出によって、見るわたしたちは、作家の存在というものを強く感じます。まるで、森村さんが劇場の楽屋で出演の準備をしているような、そんな感覚を受けるような展示です。

今回の展覧会で、わたしたちが目にするのは、作品としての森村さんというより、作家としての森村さんなのです。

ドラえもんの漫画を見て、そういえば、森村さんはドラえもんにもなっていらっしゃったなぁと思い出しました!
ほかにも小松左京の小説とか、気になるものがいっぱいありました! 
作家としての森村さんがインプットしたであろう資料たちにドキドキでしたが、会場にメガネを持っていくのを忘れてしまったのでよく見えず、残念!

作品になる前の森村さんに会うことができる

展示室の中には、映像作品が展示されている小部屋もありました。そこには、過去に森村さんが扮装した女優さんたちが勢揃いしていました。

ゆらゆらゆれて流れていくその姿は、まるで、「わたしたちは幻なのよ」と言っているようで、とても不思議な感じがします。

ゆらゆらゆれる女優さんたち、「わたしたちは幻よ」と言っているようでした
凛としたたたずまい、はかなくゆらめく幻想世界

そして、この映像の横には、変身途中のお化粧をしている森村さんの映像がありました。TikTokなどでもついつい見てしまう化粧動画。お化粧して、別人のようになっていくその姿は、わたしたちの変身願望を叶えてくれるものとして思わず目が惹きつけられます。

キャンバスに絵の具を載せて、何度も画面を確認するようにお化粧をする森村さん

この動画の森村さんは、何度も描いては、それを確認し、再び描き直す作業を繰り返しています。化粧をしているというより、まるで画面に絵の具を載せて絵を描き、それを遠くから確かめる、その姿は、まるっきり、イーゼルに載せたカンバスに絵の具を載せては、少し離れて絵を確認する画家そのものでした。この映像を見て、あれだけ本物そっくりになれた秘密がわかったような気持ちになったばかりか、森村さんは本当に作品になっていたのだと思いました。

まさに、作家としての森村さんを見ることができる映像でした。

森村さんの脳内宇宙を感じることができる

そして、「ワタシの迷宮劇場」のクライマックスはなんといっても、実際に中に作られた劇場空間で朗読劇を体験できることです。

森村さんによって書かれた小説が朗読劇として上演されます。会場としての劇場の中にインスタレーションされた、小さな劇場空間。畳が敷かれ、まるで茶室のようなしつらえの空間の中で、森村さんによる朗読とともに様々な演出がほどこされていました。

ホラー小説的で、ちょっぴり官能的な感覚も刺激するような不思議な世界が描き出された小説は、かなり魅力的で、それを展開する朗読劇によって、森村さんの頭の中の宇宙空間が現実世界と混じり合っていくようでした。物語を読むという想像力を喚起する力と現実に展開する音や光のイメージがうまい具合に呼応して、なんともいえない没入感を作り出します。すっかり森村ワールドに引き込まれ、終わった後はまさに物語を体験したような充実感に満たされました。森村ワールドには、こんな側面もあったのかと驚かされたとともに、とにかく貪欲に新たな世界を切り開いていこうとする作家の、ものすごいパワーに圧倒されました。

とにかくファンにとっては特別な展覧会

森村ワールドを堪能するだけではなく、作者としての森村さんに触れることができるという意味で、「ワタシの迷宮劇場」は、森村ファンにとっては特別な意味を持つ展覧会でした。

森村ワールドを余すことなく楽しむことができる作品たち。

それにとどまらず、そこはかとなく感じることができる、作品に対するこだわりや、とことん手を抜かずに追求していく姿勢、次々と新たな世界を切り拓いていこうとする作家の力強いパワー。

やっぱり、大好きな作家さんです!

「森村泰昌 ワタシの迷宮劇場」

MORIMURA YASUMASA My Self-Portraits as a Theater of Labyrinths
京都市京セラ美術館/新館/東山キューブ
2022年3月12日(土)〜6月5日(日)

おまけ

ポスターみたいな巨大チラシも宝物になりました〜!


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