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天文台のコスパと「義務教育学校」

 東京の三鷹市に日本の天文学研究の拠点である国立天文台があります。
 正式には大学共同利用機関法人 自然科学研究機構という文科省所管の組織であり、大学院大学の機能も持っています。
 元々は麻布台(旧飯倉)にあった東京大学附属の研究所がちょうど100年前の1924年に移転開所したとのことです。
 移転時はまだ三鷹の地が未開発だったので天文台は広大な敷地内にあり、敷地には多くの樹木が育つ自然豊かな環境となっています。
 その地で今、ある開発計画が進みつつあります。発端は国立大学でもある天文台が外部資金獲得のために土地の有効活用を図り、民間デベロッパーより先に三鷹市に相談したことにあります。
 国立大学においても財政改革の流れの中、法人化された2004年以降運営費交付金が削減され、外部資金獲得が各大学に求められており、近隣の東京学芸大学では敷地内に専門学校(辻調理師専門学校 2024年4月開校)が誘致されています。
 その開発計画とは三鷹市が主体となり、天文台北側の森(約4.8ha)を伐採し、周辺の公立小学校ニ校を移転統合した小学校と隣接の公立中学校を一体化させた「義務教育学校」を設立し、更に隣接の公立図書館を含めてコモンズ(地域の共有地)とする大規模なものです。
 概要からすると悪くない話のように思われますが、懸念点と背景への疑義があります。
 まずはオオタカをも生息(詳細調査中とのこと)しているという貴重な自然資産を伐採によって損なうということ。
 そして「義務教育学校」とは小中一貫校とは違い、9年制のカリキュラムで運営される大規模な学校で中1の壁(中学入学時のギャップ)を解消出来る他、さまざまなメリットが謳われていますが、現在の教育で最も求められている、一人一人の児童・生徒への多様性のある教育に逆行(大規模校ではなく、小規模校の方が望ましい)しており、既存の義務教育学校では自殺の増加等の深刻な問題も発生しているとのことですので、不登校の要因である子どもの生きづらさを助長する怖れがあると思われます。
 計画の前提として、場所が大きく移動することになる小学校が低地にあり洪水の被害のリスクがあるとなっていますが、具体的に検証されておらず、当該エリアの小学生はかなり通学が負担になります。
 市側はこの計画をコモンズ(共有地)と称していますが、斉藤幸平さんが指摘されているような、人々が豊かさ、安心・安全を取り戻すための共同体の再生とは思想が違いますし、国立天文台の外部資金獲得から教育コスト削減のニュアンスを感じる「義務教育学校」設立への流れは、新自由主義の進行という印象が強く不安を感じてしまいます。
 進化と言うものに疑問を持たないと、本当の豊かな社会が確保されるか危険な時代なのではないかと思います。

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