【第25回】『耳の痛いこと』
昔なぁ、中国の唐に太宗皇帝っておったらしいわ。李世民っていう人な。メッチャ立派な人なんやけど、何が立派って
『絶対権力者の自分が調子に乗らんよう、耳の痛いことを聞く場』を定期的に設けてたんよ。
その、部下との問答集が『貞観政要』っていう本。アノ徳川家康も読んどったらしいで。部下っちゅうもんが1人でもおるんやったら、自分も読んだほうがエエで。どこの図書館行っても置いとるし。
諫議大夫っていう役職まで作って、そこに魏徴っていう、これまた立派な部下を就けとったんやけどな。
その魏徴は太宗にホンマ、直球で耳の痛いことをズバズバ言うわけよ。皆がビビって、何も言われへん太宗にやで。そやから、周りからも
『アイツだけ特別扱いされて、何か腹立つな』
って思われて、ある時、
『魏徴は地位を利用して、親族に便宜をはかってる』
って、テキトーな事を吹くヤツが出てきたんよ。
そんな話が出てきた以上、太宗も動かなしゃーないわな。
で、司法長官に調査させた訳よ。その結果は当たり前やけど、事実無根な。でも、その時調査した温彦博が
『魏徴は真っ白やけど、他人に中傷されること自体は問題』
『その点で魏徴にも責任はある』
『もうちょっと言動を慎んでほしい』
と報告。
その通りやなって思った太宗は魏徴に
『お前はこれまで数百回、ワシに良いアドバイスをくれた。ホント感謝してる』
『けどな、今後は他人のいらん疑念を持たれへんように気いつけたってや』
と言うたらしいわ。戒告って処分な。
で、その数日後、太宗が魏徴と会うた時に
『最近、朝廷の内外で、けしからんことは起こってへんか?』って聞いたのよ。
そしたら魏徴は
『先日の「人の疑惑を招かぬよう気をつけろ」というお言葉を頂きましたが、これこそ、けしからん事』
『今まで太宗から「我々は一心同体」と聞いてきましたが、「うわべだけを取り繕って上手くやれ」とは一度も聞いた事がありません』
『そのようなうわべだけの、キレイごとで政治をすすめようとされるなら、もはや、我が国の将来も先が見えたと言うしかありません』
太宗は
『ワシが間違っとった。ホントすまん、大反省やわ』
『お前は今までどおり、誰にどう思われようと感じたとおり、直球でズバズバ言うてほしい』
『ワシ自身も政治に間違いがないよう、心してかかるわ』
『これからも頼むわ』って言うたらしいで。
中国の皇帝って『天子』やからな。まぁ言うたら、神様と同列の存在よ。そんな絶対権力者が一旦、自ら出した処分をひっくり返すんやからな。部下に言われて。まぁまぁ無いで。
ワシら、一般庶民はもっと謙虚やないとな。
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