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ファンタジー短編小説2

紀淡のリリー1


大阪港を懐|《ふところ》に

淡路島と和歌山を 相みて

悠々と洋々と大潮はながれる

友ヶ島水道

別の名を 紀淡海峡と言う

由良の丘から

少女は ささやく

逢いたいよ 逢いたいよ



百合は 本名 南風百合

美智子は母である

小高い丘で 小さな美容室を

母は一人で 経営し

百合を 育ててくれた

店の前に二人 座って

沖の島の 朝日を

播磨灘の 夕日を

肩をよせあい いつまでも見ていた

由良地区には

結婚式の風習がない

子供が三歳になると

ほっぺとひたいに

魔よけのしるしに 十字を描いて

結婚の報告をするのが 習わしだった

ねりこ祭り

百合も美智子も

指折り数えて その日を

楽しみに 待っていた


晴れ着をまとい

楽しそうに 父と母に手を引かれ

参道を登る 家族づれを

うらやましそうに 追いかけて

母ちゃん どうして

わたし とうちゃんが いないの

百合は べそかいた

とうちゃんはねぇ 遠い遠い海へ

漁に行っとるとよ

母 道子は そう言って

百合をぎゅっと 抱きしめた

<続く>


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