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#62 病院で働いていると必ず聞かれる話

 病院で働いているというと、「幽霊っているの?」とかなりの高確率で聞かれます。私はいわゆる霊感をがありませんのでよくわかりませんが、幽霊がいたり、魂が彷徨っていたりしてもおかしくはないと思っています。

 私自身、実体験はほとんどありませんが、霊感があるという同僚や患者さんから聞いたエピソードを、3つ紹介します。

真夜中のナースコール

 これは、私の若い頃の実体験です。消灯後のバタバタが落ち着き、準夜帯から深夜帯への夜中の引き継ぎまであともう少し。今日は落ち着いてるから定時で帰れそうだと、先輩たちとナースステーションで話していたら、ナースコールが鳴りました。
 一斉にナースコールボード(患者さんの氏名がベッド順に書いてあって、鳴らした場所が点灯する)を振り返ると、点灯部分の隣は名前がありません。私たちは歪んだ顔を見合わせました。
 点灯していたのは何年も前から病室として使用しておらず、会議室として使用している部屋だったのです。以前は病室として使用していたため、ナースコールボードにその部屋番号が残っていたのです。

 時々、認知症の患者さんがトイレの帰りに自分の部屋やベッドがわからなくなって、違う部屋のベッドで寝ていることもあります。でも、そんなことは起きないはずなんです。だって、会議室を使用しない時は基本的に施錠されているからです。ですから、そもそも中に入るということ自体不可能なはずなのです。

 それでも私たち看護師は、確認しなければいけません。もちろん病室なら見に行きます。でも、そんな不可解な状況でしたので、協議した結果、全ての病室に患者さんがいればいいよねという話になり、各々担当の病室を見回りました。皆さんきちんと自分のベッドで休んでいました。病棟の構造的に他の病棟から入ることはできません。とりあえず、入院患者さんの所在と安全を確認したし、きっと機械の一時的な故障だよねと言い訳をして、次の勤務者たちを待ちました。

 引き継ぎが終わり、私たちは帰路に就きました。後日、その時のリーダーだった先輩が教えてくれました。「後日確認したけど、やっぱりナースコール自体なかったよ」と。

ある夜の患者さんの話

 23時少し前、巡視を終えて、これからスタッフが順番で仮眠に入るため、簡単な申し送りをしていると、女性患者Aさんがナースステーションにきて、担当の看護師に「さっき見回り来たとき、私の肩叩いた?」と聞きました。その看護師は目視しただけなので、Aさんには触れていません。それを伝えるとAさんは「そっか、じゃあさっきのおばあちゃんなんだね」と納得した顔をしていました。

 初めは、Aさんがせん妄(一時的な混乱)なのかとも思いましたが、しっかりした方です。その場にいた看護師全員が「もしや…」と、顔を見合わせました。「もしかしてAさんは霊感があるんですか」と誰かが聞くと、「そうなのよ」と。 
 Aさんの意図がわからず、塩を持ってこようとしたら、「そんなかわいそうなことしないで」と言われてしまいました。どうやら、悪い霊ではないようでした。

 「入院した時から、かわいいおばあちゃんが話しかけてきてね。」とAさんは続けました。Aさんが入院していた病室は、Aさん以外ベッドから自力で動ける方はいませんでした。確実に同室者ではありません。ナースステーションの前の病室でしたので、他の部屋の患者さんが間違えてはいったのなら、看護師の誰かが気づくはずです。

 怖がりながらも、好奇心も湧いてきます。私たちはAさんにどんな人か、どういう状況なのか聞いてみました。
 「そのおばぁちゃんは、家にいた時はみんな忙しくて、あんまり構ってもらえなくて寂しかったけど、ここでは、みんなに構ってもらえて嬉しかったんだって。あと、ラウンジに男の人がいるよね。全然怖い感じじゃなくて、穏やかな感じの人。ここの病院がすごく好きなんだって」と話してくれました。

 その後、私たちは誰のことか考えました。おばあさんも男の人も思い当たる患者さんは一致していました。おばあさんの方は、チームが違ったため顔が思い浮かぶくらいで、何かのエピソードがあるわけではありません。
 ですが、男性の方は、とても思い出深い方でした。患者さんの中では若く、何度も何度も入退院を繰り返して、その度に他の疾患も併発し、確実に症状は悪化していましたが、いつも穏やかで、病院やスタッフを愛してくれていた方でした。毎晩眠れなくて、消灯した暗いラウンジで過ごす姿を目にしていた。Aさんの話を聞いて、今も同じように座ってるのかなと思って胸を熱くしている私の横で、若いスタッフは「怖くて仮眠室にいけません」と泣きそうな顔で訴えていました。

仮眠室のいたずら

 これは、同僚から聞いた話です。

 以前彼女が務めていた病院は、幽霊が出ることでその筋では有名らしく、霊感がある人は病院を外から見た時点で、どす黒い感じを感じるそうです。
 そこで働いているといろんな怪奇現象が起こるらしいのですが、私が衝撃を受けたのは、仮眠室での出来事でした。 

 夜勤で仮眠室のベッドで寝ていると、急にベッドに衝撃が走るそうです。そしてしばらくの間、揺らされるそうです。かなりの頻度で同様のことが起こっていたようです。

 私は自分がそんなふうな状況になったら、あまりの恐怖に、その部屋に入ることさえ怖気付いてしまいますが、彼女は「またか」と思うだけだったそうです。怖くないのか尋ねたら、「慣れてるから」と一言。そんな状況に慣れたくもないなと私は思うのですが、彼女は霊感があるらしく、私とは違った感覚だったようです。霊を見たり感じたりできると、恐怖を超越するんだなと、霊感のない私は、都合よく解釈したのでした。

 他にもエピソードがありますが、今回はこの辺にしておきますね。



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