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音楽畑の友人

シンガーソングライターの友人がいる。割と近所に住んでいて、同い年で独身でネコと暮らしている。気ままに夜更けまで起きていて、会うのはいつも彼女が起きたばかりの昼頃だ。

彼女とは不思議な縁で、知り合ったのはもう25年ほど前のトーキョーだけど、当時は数回会っただけ。それも二人だけではなかったから、何を話したか覚えていない。

彼女は、私の元旦那さんの歌姫である。

そう、私には元旦那という人がいる。正しくは、いた。コロナ禍の少し前に、突然病気で亡くなってしまった。私はちょうどその頃一時帰国していて、亡くなった日は彼と会う予定で、いつものように「どこで会う?」と送ったメールに珍しく返信が遅いなぁと思っていたら、彼の会社の人からその前夜に突然亡くなったことを知らされた。

私は24歳で音楽プロデューサーだった10ばかり年上のその人と結婚して、3年後、家の契約更新の時に別居し、そのまま離婚した。
喧嘩別れというわけでもなく、出会った頃から私の父のような存在だったその人は、何かと私を心配し、私の演劇活動にアドバイスしてくれたけど、私としては「上から目線」「説教くさい」「うざい」と感じたのも事実だった。私の思う夫婦という雰囲気とはかけ離れた関係にフラストレーションが溜まって、逃げた。逃げたくせに、今の夫と出会ったこと、結婚することも報告し、外国に暮らした後もちょこちょこメールして、愚痴を聞いてもらい、一時帰国の折には10分ほどだったとしても必ず会っていた。

だからその都度、元夫から歌姫の彼女の消息は色々聞いていて、新しく出たCDをもらったりもしていたけど、実際に彼女と会ったことはなかった。

彼女は彼女で忙しく、事務所を畳んだり、作ったり、音楽活動、家族の看取りなどが押し寄せて、私が帰国してたまたま彼女の近所に住み始め、SNSで繋がったものの、なかなか会えないなか、去年の冬頃だったかな、二人ではじめて近所のカフェで会った。正直いえば、ちょっとドキドキしていた。お互い20代の最初の頃は怖いもの知らずで、とんがっていたから。


そんな今の私たちを、20代の私たちが見たら、どう思うかな。理想の自分では無いんだろうな。でもどんな道を歩んでも、結局こうなっていたような気もする。


彼女と話していると、その亡き元夫がふわっと漂ってくることがある。物事の捉え方やコメントなどに、忘れていた亡き夫の影が浮かび上がる。懐かしいなぁと思う。私とはたかだか数年の付き合いだったけど、彼女は彼が亡くなるまで最前線で彼と共に戦ってきた事実を思い知る。


現在の夫が出て行った次の朝、彼女が些細なことで電話をかけてきた。夫が出て行ったことを話したら、えっと驚いたのち、彼女は間を置き「大丈夫だよ、きっと。って、あの人言うと思う」と言った。ーーあぁ、彼なら本当に言いそうだな、と思った。

そして彼が言うなら、私、大丈夫なんだな、とも思った。それからのしんどい日々、自分の病気がわかった後の不安な日々、彼女が言った言葉を何度もお守りのように反芻した。

元夫は、私と彼女を会わせたくなかったと思う。自分の悪口を言われそうだから。自分の知らないところで自分の知ってる人が仲良くされることが嫌だったから。

でも、彼はもういないから、私は彼女と遠慮なく会って、たくさん話して、今更元旦那のことを少し、知る。

同い年なのに、最初なぜか敬語だった彼女は今、だいぶ打ち解けた言葉で話す。それが、妙に嬉しい。

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