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人生を変えた聞き間違え

一つの聞き間違えが起こした私の父と母の話。

いまから40年くらい前のこと。
父は訪れた銀行で、とある女性に一目惚れをしました。

そう、母です。
当時、母は銀行の窓口で働いていました。

その後、父は母に想いを伝えるべく、大胆にも預金通帳にラブレターを挟みこみ、一人の客を装い母に手渡します。

しかし、ラブレター入り預金通帳がその場で母の手に渡ることはなく、
他の行員が処理する事務工程へと流れてしまいました。

その日の閉店後、母は自分宛の手紙があると他の行員から知らされ、
父からのラブレターを受け取ります。

ラブレターには、あれやこれやと書かれていましたが、
母の気持ちが揺れ動くことは一切ありませんでした。

そもそも、誰が渡してきたのかが分からない、顔も知らない。怖い。
そんな気持ちだったそうです。

しばらくして、父が再び銀行の窓口に訪れ、母に声をかけます。

「この通帳に記帳をお願いします。
あと、手紙の返事が聞きたいので、今日15時に駅前で待ってます。」

母は、そこで初めてラブレターの差出人である父の顔を知りました。
父から通帳を預かり、記帳を済ませ、通帳を返却しながら
「ご記帳になります。」とだけ伝えました。

銀行の仕事が15時に終わる訳もなく、指定された時間に向かうことはできません。
そもそも個人的に会う気は母にはありませんでした。

母が仕事を終えたのは19時過ぎ。
同僚らと駅前を通りかかった時です。

父が立っていました。
指定された時間を大幅に過ぎているし、会うとは言っていないのに。

その姿を見た同僚らから「お茶くらいしてあげれば?」と促され、
長時間待たせていたことを申し訳なく感じた母は、
しぶしぶ父とお茶をすることにしました。

その後、父の猛プッシュにより、二人は結婚しました。

結婚して25年ほど経ち、この出会いを何気なく振り返ったときです。
どうしてあの時、確証もないのに待っていたのか、と母が父に尋ねました。

すると父は
「確証はあったよ。だって、ごちそうになりますって言ったでしょ。」
と答えました。
母は、そんなこと言うわけがないと思い、当時のやり取りを思い返しました。
そして、答えにたどり着きます。



「ご記帳になります。」

父は、これを
「ごちそうになります。」
と聞き間違えたのです。

初対面の人に「ごちそうになります」って、結構図々しい人だなあ
と父は感じたそうです。
(初対面の人にラブレターを渡すのも十分に図々しいと思います。)

ですが、この聞き間違えにより、父は母を待ちました。
何度か帰ろうとしたそうですが、
ごちそうになりますって言ってるし、
そのうち来るんだろうと思っていたそうです。

母はそんな聞き間違えが起きていることなど知る由もなく、
父がただひたすらに自分を待ち続けていた男に見えていたことでしょう。

こうして聞き間違えがきっかけだったと知った二人ですが、いまも夫婦です。

人生、何がきっかけになるかはわかりません。
たとえ聞き間違えがきっかけであったとしても、それによって出会えた人もいますし、いまの自分につながっています。
その人生は決して間違えではないと思います。

ただ、聞き間違えは人生を大きく変えることもあるので、気を付けましょう。

それでは。