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7期生「短時間正社員制度」についてディスカッション(2024/6/21)

高橋美恵子『ワーク・ファミリー・バランス』終章(p239~264)より、今回は「短時間正社員制度」について報告・議論を行いました。

※『ワーク・ファミリー・バランス』には5章もあるのですが、5章は同姓カップルについて取り扱ったものです。
各国の詳報を取り扱ってきたこれまでの章とはだいぶ毛色が違うため、スキップしました。


①短時間正社員とは?

正規型のフルタイム正社員と比べ、その所定労働時間が短い正規型の社員短時間正社員である。
より正確に言うと、次のいずれにも該当する社員のこと。
期間の定めない労働契約を締結している
②時間当たりの基本給及び賞与・退職金等の算定方法等が同種のフルタイム正社員と同等

短時間正社員制度は育児・介護と仕事を両立したい社員、決まった日時だけ働きたい社員、定年後も働きたい高齢者、キャリアアップを目指すパートタイム労働者等、
様々な人材に、勤務時間や勤務日数をフルタイム正社員よりも短くしながら活躍してもらうための仕組み

企業としても、知的熟練の高いコア人材を確保し活用するために、コア人材の対象をフルタイム正社員に限定せずに広く人材を活用していく必要がある。

②短期正社員の実態

短時間正社員制度は大きく「一時的な短時間正社員」「恒常的な短時間正社員」「パートタイマー短時間正社員」の3つに分けられる。現在の内訳は図表1のとおりである。

短時間正社員制度がどれだけ導入されているかの表

また、各制度の導入率は企業規模により異なり、「一時的な短時間正社員」は大企業で広く導入されているが、「恒常的な短時間正社員」および「パートタイマー短時間正社員」は大企業・中小企業間の差は見られない。

③短時間正社員制度の課題

仕事のやりがいから見る課題

勤務形態と「仕事のやりがい」「ワークライフバランス満足度」

図表2によると、短時間正社員制度は「仕事のやりがい」はやや低いが、「WLB満足度」は非常に高い

なぜ仕事のやりがいが低いと問題になる?

・迅速性・緊急性、チャレンジ性のある業務や出張は短時間正社員の多くは担わない
・短時間正社員は仕事内容の変化に乏しく、制度利用開始時から同一の仕事をし続けるケースも多い

⇒ 長期の制度利用は、チャレンジ性の高い業務を通した能力開発機会を喪失し、職業能力の確保が困難になる仕事のやりがい低下にもつながる。

④短時間正社員制度のメリット・デメリット

メリット

・女性の非パートでの就労継続を可能にし、労働意欲の高い人材が能力を発揮できるように
人材の有効活用を可能とする
業務の効率化や長時間労働の是正等の効果
・拘束的なフルタイムを望まないがパートを脱したい者に正規雇用の機会を与えられる。

デメリット

・職場内での業務対応の柔軟性を低下させる。
職場内連携を低下させる
・賃金や評価制度の煩雑化、人材育成やキャリア管理の複雑化
・キャリアアップが困難

⑤論点

・短時間正社員はより普及させるべきか
・短時間正社員の普及における障壁をいかに乗り越えるか

⑥議論

今回の授業では2班に分かれて議論を行いました。今回は対話形式でお送りします。

A班

会社側のメリットはあまりないのでは?」
「でも短時間の方が時間あたりの成果でいったら悪くない気がする」
「優秀だけど言うほど働きたくない人を捕まえるのにもつながるからね」
「ただ、きっちり働かせる事こそ企業側にとってはありがたいから、導入に二の足を踏むのは仕方ないのかも」
「となると、国や政府が積極的に取り入れるよう、推進させるのが良いのかもね」

「ところでこの短時間正社員制度、裁量労働制とつながってくるかも」
「最初からこの時間だけ働いたって事にして、労働量を時間に応じて決めるってものだっけ。4時間の契約なら4時間分の労働量を渡すって感じで。」
「ただそうなると、仕事量が多くなるんじゃない?時間に見合わない仕事を押し付けられて、そのタスクができなかったら仕事ができないってみなされたり。」
「4時間働くって契約のはずなのに6時間分の仕事を押し付けられて、時間内に終わらなかったら労働者の責任になるリスクもあるのか。仕事量が多すぎて労働時間だけいたずらに伸びるって事もありそう。残業代は出ないのに。」

B班

「会社としてはおいしくない制度だと思う」
人件費なんて会社側からしてみれば削れるだけ削りたいものでしょ」
「薄利多売こそ正義で、価格を抑えるのがお客様への忠誠心っていう風潮はあるもんね」
「だから意識から変えていく必要があるのかな。だとしたらどうやって軌道に乗せるかが問題かも」
「ワークライフバランスから進めていくのが解決策になるのかな」

メリットは女性の社会進出だよね」
「それから、育児休業制度とも組み合わせられそう」
「いや、一応日本にも育児休業制度はあるっぽくて、1歳まで認められているみたい。でも育休をとるなんて!っていう僻みで、実際はなんちゃって育休になってるみたい」
「となると育休制度も形骸化してるのか、やっぱりワークライフバランスを前提に構築していくのは難しいのかも」
「赤ちゃんを職場に連れて行ってもいい、っていう会社でも、実際はデスクとデスクの間の通路に、やっつけ仕事で子供スペースを設けたっていうツイートもあったし」
「危機感ないなぁ」
職場にいい環境が整っていないと、回るものも回らないんじゃないかな」

「ところで日本は『育休をとるなんて!』っていう風潮しかり、相手だけおいしい思いをしてるのが許せない風向きが強いよね」
長時間労働と短時間労働で同じ福利厚生なのはずるい!って声が上がるのも無理はないのかも」
「そういう心理的問題のほかにも、年功序列型の問題があると思う。50代60代の人に産休とか育休とかの補填をするのも難しいし」
「でも、俺が休まなかったからお前も休むなっていう、お互い不幸なほうに進んでいこうっていう考えは、負のスパイラルでは?」
「埼玉県の越谷市だって、公務員の給料が高すぎるみたいなクレームのせいで、公務員の賃金を減らしたとか言うし、負のスパイラルの根は深そう」
「そうやってみんなで足を引っ張りあう考えから、なんとかしていかなきゃいけないよなあ」

⑦参考文献

・厚生労働省「多様な働き方実現応援サイトー短時間正社員」https://part-tanjikan.mhlw.go.jp/tayou/tanjikan/outline/
・松原光代「短時間正社員の現状と普及に向けた分析」2010
https://glim-re.repo.nii.ac.jp/records/3848
・松原光代「短時間正社員制度の長期利用がキャリアに及ぼす影響」2012
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2012/10/pdf/022-033.pdf


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