見出し画像

★読書記録「子どもたちに民主主義を教えよう」

学校改革で有名になった麹町中学校の元校長である工藤勇一さんと、教育哲学者の苫野一徳さんの対談本。
帯に「学校は、必ず変えられる。教育の未来を描き直す必読の書!」とも書かれている。
さらに、「多数決の問題点、わかりますか?」「誰一人置き去りにしない社会って、こうやってつくるんだ!」

工藤勇一さん、苫野一徳さんの他の著書を読んだことがある人なら、一気に読めてしまうと思うが、まだまだ学校文化が染みついている人には、?なところがあるのかもしれない。

私が一番気になったところ。2章の「教育基本法の問題とは」。

第一条 教育は、人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。

教育基本法 第一条(教育の目的)

「心身ともに健康な国民の育成」と書かれているが、私には、学校は心身ともに健康であることが前提で動いている仕組みのように感じられる。

なぜなら、欠席しない前提のカリキュラムなので、病欠あるいは障害等があって皆と同じように参加できない場合は、家庭でフォローもしくは自己責任になってしまっているからだ。長期欠席した経験がない人にはこれは実感しにくいのではないか?

また、「人格の完成を目指し」とあるが、工藤勇一さんも指摘されているように完成された人格という言葉が曖昧で、学校を卒業して人格は完成するのか?という疑問が残る。そもそも、日本の規則の文章は、都合のいいように解釈されがちな書き方がされているような気がする。改正される機会があるのなら、もっとわかりやすく納得できる文にしてほしい。

工藤勇一さんは、教育基本法と比較して、デンマークの国民学校の目的規定を挙げている。

1 国民学校は、保護者との協力のもとに、生徒が、知識、技能、労働の方法、自己の表現方法を獲得することを促し、個々の生徒の全面発達に寄与するものとする。
2 国民学校は、生徒に自身の可能性についての自信と、個人の行動を取るための独立した判断力を形成する経験を獲得させるために、生徒が自覚と想像力と学習意欲を発達させるような経験、勤勉、没頭の機会をつくりだすように努力するものとする。
3 国民学校は、生徒にデンマークの文化に習熟させ、他の文化や人と自然との関係を理解することに貢献するものとする。国民学校は、生徒に自由と民主主義に基礎づけられた社会での積極的な参加、共同の責任、権利と義務の準備をさせるものとする。そのために、国民学校での教育と日常生活は、知的な自由と平等、民主主義に基礎づけられていなければならない。

工藤勇一×苫野一徳「子どもたちに民主主義を教えよう」P138

北欧の学校がすべてうまくいっているというわけではないが、少なくとも目的についてはこちらの方が具体的で保護者としても受け入れやすい。

忙しくて読む時間がない!という人でも、2章のまとめの1ページがコンパクトにまとまっているので、ぜひ読んでもらいたい。
学校の先生や、学校を変えたいと奮闘している先生に気づいた保護者にも。

2章まとめ 日本型教育の問題点と解決のポイント
課題1 心の教育
・「思いやり」だけで教育は解決しない。
・心の問題にすり替えず、どんな場面ではどんな行動が望ましいのか、対話を通して考え合おう。
課題2 いじめ問題
・ちょっとしたトラブルも「いじめ」扱いし、大人が過度に介入することが子どもの自立や問題解決力を奪ってしまう。
・トラブルが小さい段階であれば、できるだけ子どもたち同士の解決を目指し、状況に応じて手助けしよう。
課題3 教員養成
・「教師の仮面」をかぶる練習をさせない。教師も、失敗することのあるひとりの対等な人間。
・「そもそも学校とは何か、教師の役割とは何か?」の本質を、常に問い合う場にしていこう。
課題4 理不尽な校則
・理不尽な校則が、民主主義社会におけるルールの本質の理解を妨げている。
・ルールは上から与えられるものではなく、自分たちでつくり合うもの。「誰一人置き去りにしない」状態を目指して対話を重ねよう。
課題5 学級経営
・「団結」、「心を一つに」などの言葉や、「学級王国」がクラスの同質性を助長する。
・子ども自身が学級運営の当事者になろう。
・固定担任制から全員担任制に移行する。異学年で交流するなど、学級の人間関係を固定させない運営方法を行おう。
課題6 教師の力
・一人の教師にクラスのすべての責任を負わせる固定担任制モデルは、サービス提供型教育の競争を加速させ、子どもたちの依存を生んでしまう。
・個人の能力を上げる発想以上に、一人ひとりの力を活かし合えるチームづくり、そのための研修を。
・「教える技術」の向上への偏りは、子どもたちをかえって受け身にしてしまう。教師の力の本質は「自立を支援する技術」。

工藤勇一×苫野一徳「子どもたちに民主主義を教えよう」P140

現在の麹町中学校では、工藤勇一さんの後、三代目の校長になってから、学校改革の内容が一部逆戻りしている現象が起きているという。
全国的に学校改革が進んでいるように見えても、これがあるから安心はできない。

我が子が高校を卒業し保護者としての役割がほぼなくなった今、残念ながら晴れ晴れとした気持ちは全くない。この思いをどこにぶつけたらよいのか考える日々である。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?