R.I.P ANTHEM


はじめに


随分前になりますが、PS4やらSteamやらで発売されましたANTHEMというゲームがあります。
発表は2017年、発売は2019年。
このゲームが最も好意的に加熱したのはこの期間でしょう。
痺れる程カッコいいパワードスーツで空中を自在に飛び回り、巨大建造物を潜り抜け森林や洞窟に住まうモンスターを銃で倒すティザートレーラーやプレイムービーが発表される度に「約束された勝利のゲーム」などと持て囃されました。開発がBioWare(Dragon AgeやMass Effectシリーズ等の大人気タイトルの開発会社)だった事もあって、ゲーマーからの期待は非常に大きいものでした。
これらの動画は今見ても胸が高鳴るものです。
しかし発売から一転、前評判もなんのその。クソゲーやらゲームとしての体裁をなしていないなどの言葉と共に、限界まで高まった評判は地の底まで落ちたのでした。

発売からの一年は、開発会社にとってもプレイヤーにとっても地獄のような時期だったと思いますが、その時にANTHEMをプレイしてない私には語る言葉を持ちません。
伝え聞くところではログイン出来ない、バグが多くゲームがクラッシュする。更にはANTHEMがインストールされているHDDが壊れる等、様々あったらしいですが今を生きる我々にとってはほぼ無関係です。たまに色彩バグが起きますが、現状でバグが多いとするのは(今後改善することは無いとはいえ)無理筋でしょう。
このゲームの根源的魅力を帳消しにするような致命的なバグは残っていません。

根源的魅力と根源的問題


根源的魅力は、このゲームを1時間も触っていれば解るもので、ジャベリンと呼ばれるパワードスーツを駆る面白さです。
フォートタルシスと呼ばれるプレイヤーの拠点となる街を頂上に、ある程度の広さを持ったフィールドが階段状に連なるANTHEMの世界は、雄大な自然と巨大人工物が共存する架空世界らしい魅力的なビジュアルを備えています。
フィールドの様々なところに敵対生物が闊歩していますが、飛んで通過すれば戦闘する必要はありません。敵をブチのめしたい時だけ戦えば良いのです。
ジャベリンの飛行性能はとても手触り良く思った通りに動かす事が出来ますし、飛行から着地までを綺麗に決められると俺上手いじゃんと自画自賛出来るゲームです。
オーバーヒートによる飛行時間に制限はありますが、装備を変えたり水場の近くを飛ぶ事で延ばす事が出来ます。
飛行速度も速く、ここまで爽快感がある操作のゲームはそう多くはありません。
しかしその反面、遺跡の中など飛ぶ事が難しい場所での操作はそこら辺にあるTPSと同程度になってしまいます。
根源的な問題はこちらの方です。
飛行が気持ちいい反面、飛行以外にその気持ちよさが関わってこない点です。
戦闘でもそうなのですが、ジャベリンの飛行性能は飛行以外に発揮されない問題です。
具体例を先に出してしまいますが、戦闘において短距離飛行から敵に体当たりをしたりドッグファイト出来たりという「飛行に絡めた戦闘システムが存在しない」のです。
エンドコンテンツが少なかったりレアリティの高い装備のドロップ率が低い、飛行性能が高いゆえにマップはさらに広大でなければ狭く感じてしまう等……いくつかの問題を抱えているANTHEMですが、ルートシューターでは「戦闘が他のゲームと似たようなもの」はそれ以上の問題です。
浮く事で敵より高所を取る戦術はありますが、制限時間もあるので長時間採用出来る戦術ではありませんし、そもそも浮かなくても高所を取れるゲームなんていくらでもあります。
戦闘が気持ちよく面白い、そしてなにより「このゲームでしか味わえない」が、ANTHEMには飛行以外にも欲しかった。欲張りかもしれないが。
また、トレハンのシステムが破綻しているのも痛い。マシンガンにピストル威力アップが付いていても意味がないんですよね。

現実の先、夢の話


製作の過程など部外者には知る由もない為この記事では触れません。
そんな発売前のいざこざなんてくだらないことより、私たちの目の前には発売されたANTHEMという実物があるのです。
発売から5年が経ち、抜本的作り直し(ANTHEM2.0)宣言から4年が経ち、作り直しを終了するという宣言から3年が経った今、ANTHEMがゲーマーに見せた夢の続きを考えたい。
神々が創世の時代に「創造の讃歌」によって世界を作り、そして作り終わらないうちに神が消え去った世界、バスティオン。
その「讃歌の力」を求める者たちによる争いが絶えない世界がANTHEMの舞台です。
面白い世界観をしていますが、本編ストーリーはプロローグでしかなくこぢんまりとしたものでした。明らかに続きを作るつもりだった終わり方には、一抹の寂寥が伴います。

TPSとしては特殊な「飛行の気持ちよさ」を武器に持っているANTHEMに最低限必要なのは、広いマップです。
ただ無意味に広いのではなく、起伏に富んだ地形が必要ですが、ANTHEMの世界観なら問題ないでしょう。
湖や森、山の自然だけではなく巨大遺跡群や浮遊する岩など、讃歌を理由にすれば現実にはありえない景色も作り放題です。
ANTHEMのフィールドは全体ではそれなりに広いですが、前述したように階段構造になっており一つ一つはそう広くありませんし、飛行速度の速さ故に手狭に感じます。
その上高度制限も意外と低く、飛行の爽快感に反して自由度があまり高くない。
そこを大幅に拡大する事が出来れば、より飛行の爽快感を後押しできます。
しかし地上を走る事によるメリットも併せて作り上げていかなければ、飛んでいるだけのゲームになってしまうため地上の探索は豊富に用意しなければなりません。
また敵についてはストーリーモードの最後に言及されています。500年前に人類を支配していた種族、その生き残りがいる事が。
ウルゴス種族、バスティオンでは500年前まで人類を支配していたが、英雄によって倒されそれて以降見られなかった種族です。
それがバスティオンより東の国境で見つかり、部隊を二つ犠牲にしながら一人をようやく倒す事が出来たと。
それは斥候かもしれず、ANTHEM本編よりも強大な敵の存在を示していました。
そのウルゴスとの戦争をメインストーリーに据え、東部の原生生物が住まう遺跡を調査し、500年前の英雄たちの足跡を辿りウルゴスを倒す手掛かりを得る。
それは、フォートタルシスだけの戦力だけでは到底乗り越えられぬ困難である事も予想されます。そうなれば他の街と協力する必要もありましょう。
登場人物や地域も大幅に増え、目眩く世界を冒険する。そんな話が見たかった。

BioWareには是非、運営型トレハンではない、ストーリーをゲームプレイの中心に置いた(それこそナンバリングが外れたアサシンクリードシリーズの様な)、新生ANTHEMを作ってもらいたい。
私を、一度魅了した責任をとって欲しいのです。

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