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#003 ビール

 サッポロクラシックが一番好きだがビールはどれもうまい。キリンがいいとかスーパードライだとか最近はクラフトビールも種々出まわっているようで人により好みは千差万別だが私にとってそれは誤差の範囲内、ビールであればなんでもよい、とまでは言わないが、なんだキリンかとなんとなく斜に構えて飲んだビールもうまく、スーパードライはさすがに辛すぎるでしょうとアンチ目線から入る小細工を駆使したところで味の前では無力、ピルスナー/アルト/バイツェンなどさらに下位に分枝するクラフトビールはどれどれと瓶を片手に能書きを端から読むつもりも理解するつもりもないくせに一応目で追ったりしているうちに舌がすでにうまいと言っている。
 それに、いつ飲んでもうまい。夏に飲むビールは最高などと言う痴れ者がいるが、あれは白シャツを着た爽やか系男女が屋外で汗をかきかきバーベキューか何かに興じるその途中でわざとらしきプルトップ音がインサート、夏はこれでしょみたいにニカッと笑ってみせるあの通俗的メディア戦略に洗脳された思考停止の輩と言うほかなく、己れの舌なるこの動物的本能/根源に鑑みて吟味すれば夏に限らず春でも秋でも冬でもビールは明らかに/絶対的にうまい。それに何も屋外であったりバーベキューにあわせたりする必要もなく、ああ今日は信号が青ばっかりだったなあ運を無駄に使っちゃったかもなどと愚にもつかぬことを考えながら一人室内で飲むビールもうまく、飲みきれず余っていたビールを冷蔵庫にあるのも気になるししょうがない空けるかなどと気乗りしないままに飲むビールもうまく、つき合いで入った居酒屋でごめん今日はあんまり体調がよくないから酒はやめとくよと言いながら乾杯だけは断りきれず渋々飲んだビールまでうまいのだからこれはもう手に負えない。冷静に考えてみればビールなる飲料の味自体にさしたる魅力はないはずで、あのとろりとした舌ざわり/粘度/まろみの裏に砂糖が匿されているとのからくりは一応理解/堪能できるにせよ、といって糖分の割にはスイーツ/菓子類に比すまでもなくまるで甘からず、砂糖を除けば苦みとアルコール成分しか残らないと思うのだが、いや砂糖がうまいというわけでもないはずで、すべてがあわさったあの黄金色の液体はだからどう解釈すればよいか皆目わからず、ただもううまいとしか言いようがない。

 札幌で生活する私のもとに先日関東から友人が訪ねてき、夕方の中途半端な時刻、まだ肌寒い四月のそれも曇天の下、待ち時間まだあるみたいなんでまあちょっとビールでも飲みませんかと誘われ、コンビニで買ったサッポロクラシックを屋外のちょっとした広場的なところで、折悪く強風に吹きまくられ風邪でもひきそうになりながら飲んだのだが、言うまでもなくこれも恐ろしくうまかった。

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