小麦粉の種類

 先日友人から大量の長芋をいただいた。どうせなら一緒に食べようということなり、自分の部屋でお好み焼きパーティをすることになった。すった長芋を入れる本格派だ。普段作るときはお好み焼き用の粉を買ってしまうので、買い出しにも少々気合が入る。必要なのは、卵、薄力粉、キャベツ、豚バラ肉、あとは紅ショウガにかつお節、青のり、お好みであげ玉である。小麦粉のコーナーに行き、何も考えず薄力粉を買い物かごに入れる。そこでふと疑問に思った。強力粉でお好み焼きは作れないのかと。さらにこの強力粉、中力粉、薄力粉はいったい何が違うのかと。気になると知りたくなって仕方がない性質である。さっそく家に帰り、調べてみた。

 そもそもなぜ小麦は粉に加工してしようするのか?
同じ穀物でも米は粒のまま使用するが、小麦は小麦粉に加工して使用する。粒としては利用できないのだろうか。

 小麦は種皮、果皮と胚乳、胚からできている。種皮、果皮は丈夫で、さらに中央に深い溝があるため、除去が難しい。また粉になる胚乳が柔らかく崩れやすい。そのため、粒全体を粗く砕いたものを、ふるって種皮や果皮など不純物を取り除く作業を何度も繰り返すことで、純粋な胚乳を取り出し白く上質な小麦粉を製造している。
 米はその逆で、胚乳部が硬いため、外皮を削り取ってそのまま粒を利用している。

 なるほど。小麦を粉として利用していたのは、硬い種皮を最も効率よく取り除きおいしく利用するためだったのか。しかしこの手間をかけることにより、小麦粉はパンになったり、麺になったり、お菓子になったりと多種多様な加工方法が生み出されたと考えると、感慨深いものである。

 話がそれた。小麦粉の種類の違いについてだった。薄力粉、中力粉、強力粉の種類の違いはタンパク質の量の違いなのだそうだ。

小麦粉の成分(100gあたり)
○薄力粉
 炭水化物:75.9g タンパク質:8.0g 脂質:1.7g 水分14.0g
○中力粉
 炭水化物:74.8g タンパク質:9.0g 脂質:1.8g 水分14.0g
○強力粉
 炭水化物:71.6g タンパク質:11.7g 脂質:1.8g 水分14.5g
五訂増補食品標準成分表より

 思ったよりもタンパク質が含まれていることに驚いた。タンパク質が豊富で知られている卵は100gあたり12.4gなのだから、強力粉は卵とほとんど同じ量のタンパク質を含んでいることが分かる。そしてこのタンパク質の含有量が少ないと柔らかくソフトな生地になりやすく、逆にタンパク質の含有量が多いと粘弾性の多い生地になりやすいとのことだ。はて、粘弾性という聞きなれない単語が出てきた。この粘弾性という性質が小麦粉を理解するうえで重要なポイントとなっている。そしてこの粘弾性の性質を作り出すのがグルテンという物質だ。

 このグルテンという物質はもともと小麦粉の中に含まれているものではなく、生地を練っていくと徐々に形成されていく。このグルテンのもとになるのは、小麦粉の中に含まれているグルテニンとグリアジンという二つのタンパク質だ。小麦粉に水を加えて練り合わせていくことによってこのグルテニンとグリアジンのタンパク質が複雑に作用し、グルテンを形成していくのだ。

それぞれの性質をまとめてみよう。
○グルテニン
 グルテニンは細長く、バネのような構造している。また、両端に-SH基を持っているシステインというアミノ酸があり、隣接しているグルテニンのーSH基と反応して、S-S(ジスルフィド)結合をつくる。この結合は強く、弾力のある構造を作ることができる。そのためグルテニンに水を加えて練ると、ゴムのように弾力に富むが伸びにくい性質を持つようになる。
○グリアジン
 グリアジンは丸い形をしている。グルテニンと同じようにーSH基を持っているが、同じ分子の内部同士で結合している。そのためグリアジンに水を加えて練ると、お互いにゆるく引き付けあうため、流動性のあるねばねばとした性質を持つようになる。
〇グルテン
 このグルテニンとグリアジンが両方そろった状態で水を加えて練ると、弾性をもつグルテニンのバネの構造のすき間に粘性をもつ球体のグルテニンが入り込み、グルテニンの滑りを滑らかにして全体に伸びがよく、弾性と粘性の両方をもつ粘弾性の性質を持つようになる。

 グルテンは最初から小麦粉に含まれているわけではなく、加工途中で生成されていくものだった。そしてグルテンは粘弾性の性質を持ち、その性質を利用したい食品の場合は、こねたり練ったりすることでグルテンを生成させ、逆にグルテンの性質を利用したくない、ソフトな食感を求める食品には切るようにして混ぜ、グルテンを生成しないようにしているのか。
 うどんなどは麺にコシを出したいので、タンパク質含量が多い中力粉を使用し、さらに手でこねたり、足で踏んだりとグルテンを積極的に生成させ、逆にクッキーなどほろほろとした食感を出したい食品はグルテンが必要ないので、タンパク質含量が少ない薄力粉を使用し、さらに切るようにして混ぜ、できる限りグルテンが生成されないようにつくる。

 なるほど。基本的なレシピの材料や作り方にはこのような科学的な理由があったのか。基本通りつくることの大切さを改めて感じた。素人はレシピ通りきちんと作ろう。変にアレンジしてはいけないのだ。きっと強力粉でお好み焼きをつくってしまうと弾力のある硬い食感になってしまったのだろう。私はとろとろふわふわなお好み焼きが好きだ。おいしい夕食のためにレシピ通り計量してレシピ通り調理しようじゃないか。

 その時チャイムが鳴った。もうこんな時間か。しまった、全く準備していない。おいしいお好み焼きまでまだまだ道のりは長いようだ。

参考
柴田書店 新版 お菓子「こつ」の科学

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