【創作】本の島①

居心地の悪い東京の夜の街を胸を張って歩くのは勇気がいる。普段より高い位置に留めたポニーテールを両手で2つに分けてぎゅっと締めた。いつもよりもずっとずっと固く結んだ髪の毛が頭の皮膚を引っ張って軽く頭痛がする。でもそんなことが気にならないくらいに東京の夜は眩しかった。
小さな耳たぶについているゆらゆらと揺れるイヤリングと有線イヤホンがカチカチと音を立てて、彼女の聴覚を鈍らせる。イヤホンから流れる人気アーティストのヒット曲のメロディはどこか機械的でこの街への気まずさを更に強調させていた。
手に握られたスマートフォンが信号の赤色を反射して、

飛べるかもしれない、とその時思ったのは一種の気の迷いだったのか、それとも彼女はもうすでにうっすら心を病んでいたのかもしれない。
なんて体が軽いんだろう。軽くて軽くてふわっと浮いて地面を足で蹴って遠く遠く高く高く高く、あの空まで飛べるはずなのだから。

夜の美しい東京の街。クラクションの音が弾けて、夜空に儚く消えた。

「速報です。女優の木島波さん（16）は昨晩、東京の交差点でトラックと衝突し意識不明の重体で病院に搬送されましたが死亡が確認されました。」