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新製品開発における安全性とスピードのジレンマ(ケーススタディ)

(記事「技術者のジレンマ:ダイハツ不正問題の根底にあるもの」からのリンクです)

私たちの応用研究チーム(研究所所属)と設計チーム(事業部所属)は、合同で新製品の開発に取り組んできました。異なるブランドの製品を次々と市場に送り出すという、挑戦的なタスクでした。

ある新製品の開発段階で、一つの重要な問題が浮上しました。応用研究チームが進めた仕様に基づいて製造された試作品は、検査部門の安全性試験をパスしたものの、自社の既存製品と比較して安全性に劣るという結果でした。しかし、これは業界の基準内でのことで、その時点では、プレスリリースや営業部門への情報伝達など、新製品のローンチ準備は順調に進んでいました。

試作品の安全性試験は、基準のギリギリをクリアしたものでした。フェーズが進んだ最終試験の段階で、品質保証部門からの報告により、さらなる議論が引き起こされました。「安全性に懸念が残ります。業界基準は満たしていますが、工程能力が社内基準に達していません」という内容でした。

ここで、我々は重要な問題に直面しました。「現行品より劣る安全性能の新製品を、機能面での向上があったとしても、果たしてローンチすべきか?」改善策を取り入れるには時間が必要であり、既に後戻りが難しい段階にあったのです。

この複雑な状況の中、設計チームのマネジャーは、試作段階での安全性試験の検査結果報告を受けた時点で、チームリーダーに密かにプランBの製品化を進めるよう指示していました。結果として、応用研究チームの仕様は採用されず、設計チームの仕様が選ばれたのです。
(ただし、ここでは合同チームの運営の困難さも垣間見れると思います。)

このケースは、技術者が追い詰められた状況でどのように行動するか、また組織がどのように対応するかを示す、非常に興味深い事例です。一見、スムーズに解決したように見えますが、実際は、不正を行う機が熟していたと言えるでしょう。こうした状況は、極めて稀ではありますが、業界全体にとって重要な教訓を提供します。

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