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摂食障害25周年!⑯

「菓子パンは贅沢?」

電車通勤をしていた頃、帰りは駅内のスーパーで過食ショッピングすることが多々あった。
食べ歩き専用なので、弁当は買わないが手でつまめる惣菜やおにぎり、菓子パンをカゴに詰め込む作業だ。

ある日、少しの残業へのストレス解消のための買い出しをしていた。
店に入ってすぐパンコーナーがあるため、菓子パンを2つほど適当に入れたあと次は何のパンにするかウロウロしていた後ろから「神崎?神崎だよね?」と聞き覚えのある声色が振り返る直前の私に脳内会議を開かせた。

中学の頃、声優になりたいと夢を抱いていたある友人は声色が独特でいわゆるアニメキャラっぽい声色を出していた。地声らしいが、過去にも先にもこのような声の持ち主には出会ったことがない。
中学卒業してから疎遠となったが、地元でもないこの駅でまさかそんないるわけないよな有り得ねぇー!なんて会議が終わったとこで振り返る。

いたわ。

間違いなく中学時代の友人、あだ名はマリリンと自分で広めようとしていたが私は頑なに苗字呼びを徹底していた。

「山口…」
疑問すら抱かない。何せ中学時代のビジュアルそのままだったからだ。
化粧すらしてないのだ。むしろ何か
家庭臭すら鼻をかすめる。
「お久ー!元気してた?中学卒業ぶりじゃない??変わんないねー!すぐわかったよー!!」
久々に出会った同級生イベントあるあるのセリフをお手本のようにスラスラ吐き出してくる。練習でもしたんか?
「山口も元気そうでなにより。こんなところで会うとはね。」
買い物の邪魔をされて少しだけイラついた私は皮肉も含めた言葉を返すがポジティブ擬人化したような彼女は「そだねー!偶然だねー!運命じゃね!」と明るく元気に大声で返す。
リアクションも大きな彼女は笑いながら私の背中をバシバシと叩く。悪気はないのだ。こういう人なのだ。
適当にキャッチボールを何往復かして切り上げるか、と早くその場から離れたくて私は話題を考える。
が、話すことねぇなーと数秒考えて「よし、買い出しは別のところでしてこの場は逃げよう。」と「今度またゆっくり話そうぜー」なんて訪れることの無い「今度」を押し付けようとしたら彼女は私の買い物かごを凝視していた。
「なにか?」
さすがに不快だったのでストレートに質問をした。
友人といえど失礼である。
「神崎、菓子パン買ってんの?」
カゴに2つほど放り込んでた菓子パンを見ながら彼女は私に聞いてきた。
「買うけど…なんで?」
内心、菓子パン2個食べるくらいは普通なのでは?怪しくないよな?と過食を気取られてないか不安になりつつ当たり前のように返す。
「いやー、リッチだね!菓子パン買えるとか贅沢だよ!それ1個で食パン6枚入り買えるんだよ!!」
笑いながら言う。

は?

視線の先にちょうど入り込んだ彼女の買い物かごを見れば野菜、肉、子供向けのお菓子といかにも主婦の買い物ラインナップが入っていた。
「うちなんか家計は火の車よー!旦那の稼ぎがさぁ!!子供も3人いるし!大変なのよぉ!!」

とても20代迎えたばかりの成人女性で同い年とは思えない発言に言葉を失った。

家庭を持ってることは別にいい。
子供がいることも別にいい。
旦那の稼ぎなんか知ったことではない。

しかしそれでも。

「菓子パン食べれる生活ってことは神崎は独身?子供いないわけ?いいよねー!社会人満喫してるねー!!」

こんなことを言われる筋合いはないのだ。

「いいなぁ、私何年も菓子パン何年も菓子パン食べないよー!うらやましいいいい!」

まだ続けるか。
さすがに怒りというか、なんかよくわからん小さな黒い塊が体内を巡っていた。

殴りたいわけじゃない。
大声を出したいわけじゃない。
法律がなかったとしても手を下したいわけじゃない。そんなことは無意味だ。

ただ、ただ、この場からいなくなりたかった。

「そっかー、たまにはご褒美で菓子パンなり好きな物食えよー!苦労してんな育児ママさんは。がんばれよー!」

感情が入ってたかはわからないが、電車の時間を理由にその場を切り上げた。カゴに入れてた菓子パンは売り場に戻した。買う気が失せた。
食欲は失せてない。こいつがいる店で買う気がなくなっただけだ。

泣きそうになった。泣いたかもしれない。
菓子パン買うだけでここまで言われなくてはならないのか?
菓子パン買ったら独身?
菓子パン買ったら贅沢?
食パン買ってたらえらいの?
子供がいたら菓子パン買えないの?

普段気にしてない独身のこと、子供のこと、余分に考え出して。
早く食べて早く吐いて何かをすっきりさせたい。
あわよくばあの友人の記憶も吐き出したい。
もう会いたくない。話したくない。

その店には行かなくなった。
偶然とはいえ、エンカウント率ゼロでは無い限りリスクが高い。

数年間、菓子パンも買わなくなった。
売り場見る度にあの呪いのような言葉が巡るから。

そして、負の連鎖に拍車がかかった。
パンがなければ?
違うものを食べればいいじゃない。
おどけた脳内の私は新しいスーパーを見つけて夜な夜な買い食いをするのでしたとさ。

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