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彼以外に、このような正鵠を射た論説が書ける新聞記者は日本に1人もいないと言っても全く過言ではない。

彼以外に、このような正鵠を射た論説が書ける新聞記者は日本に1人もいないと言っても全く過言ではない。
2018年03月29日
田村秀男は、日本の新聞界で唯一、経済の真実が分かっている経済記者である。
以下は月刊誌HANADA今月号の巻頭に掲載されている彼の連載コラムからである。
彼以外に、このような正鵠を射た論説が書ける新聞記者は日本に1人もいないと言っても全く過言ではない。
文中黒字強調は私。

中国の野望を阻止する唯一の方法
英『エコノミスト』誌は三月三日号で、「中国を見誤った西側諸国」というタイトルの論文を掲載。
習近平国家主席が「専制君主」となる情勢を指して、中国を市場経済システムに取り込めば民主化が進むという、同誌を含む西側の期待が幻想だったと自己批判している。 
どうすべきか、となると同論文は甚だ心もとない。
「米国には中国の挑戦を留める意思も能力もない」と及び腰だ。
同誌は英米の金融資本主義を代表するオピニオン・リーダーのはずなのに、肝心の金融の視点が欠落している。
なぜか。
中国の脅威は金融が支える。
チャイナ・マネーの膨張を手助けしてきたのが英米金融資本やその代行機関、国際通貨基金(IMF)である。
中国当局は外国為替市場の管理、操作を通じて、人民元を基軸通貨ドルに対して事実上固定(ペッグ)し、人民元を大量発行しても暴落しない仕組みを堅持してきた。
2008年9月のリーマンショックのあと、米国は巨額のドルを増発した。
中国はドル追加発行分相当額を吸収し、人民元を増発し、国内の不動産開発や設備投資に回した。
その結果、経済成長率はニケタ台に乗り、10年には国内総生産(GDP)で日本を抜き、世界第2位の経済超大国に浮上。
経済拡大の波に合わせて軍拡に勤しみ、南シナ海の岩礁や沙島を埋め立ててきた。
人民銀行が発行する資金は17年までの10年間で3.7倍、軍事費は3.9倍で、各年の膨張速度はほぼ一致する。 
12年秋に権力の座に就いた習は、マネー・パワーをテコにした中華帝国の野望を抱く。
13年に打ち上げた新シルクロード経済圏「一帯一路」構想だ。
1兆ドルの資金を対外提供するとの触れ込みで、東南アジア、中央アジア、南アジア、中近東、東アフリカからロシア、欧州までの陸海のインフラを整備しようという。
表向きは貿易、投資協力だが、高速道路、鉄道、港湾や空港も中国が権益を独占し、軍事利用を可能にする目論みは明らかだ。 
人民元の対ドル・ペッグ制を容認、放置してきたのはIMFである。米英金融資本は黙認の見返りとして、中国が小出しに提供する金融利権に飛びついてきた。
日本も他のアジアも経済発展が一定の段階にくると、IMFは米英の意向を受けて資本や金融市場の自由化、外為市場の変動相場制移行を厳しく迫られたものだが、こと中国に対しては外圧ゼロだ。
IMFはさらに、16年10月に人民元を特別引き出し権(SDR)の構成通貨に加えた。
構成順位はドル、ユーロに次ぎ、人民元は円を押しのけて世界第3位の国際通貨の座についた。
IMFは認定に際して、さすがに外為市場や金融の自由化を条件として求めたが、建前だけだ。
北京は無視するどころか、逆に規制を強化している。

それに対して、ニューヨーク・ウォール街もロンドン・シティも何も言わない。
北京は17年11月に訪中したトランプ米大統領に証券、保険業の一部の門戸開放を表明し、米金融資本を喜ばせた。
英国のほうは、人民元のSDR入りの前に、人民元の決済センターをシティに誘致できた。 
要するに、米英を中心とする国際金融資本が中国を特例扱いしてきたことが、中国のマネー・パワーを助長してきた。
それは周辺国・地域への軍事面の脅威を支えるばかりではない。
党が背後にいる中国資本による情報技術(IT)、ネット検閲技術、人工知能(AI)開発を促進し、反対勢力や市民を監視する習の専制権力の強大化に結びつく。 
習政権はいま、仮想通貨版人民元の導入を急いでいる。
ビットコインなど無国籍の仮想通貨は裕福になった中国人の資本逃避手段だが、習政権にとっては天敵だ。
2016年秋には2ヵ月間で1千億ドルもの外準減少の主因になり、習政権は昨年秋、慌てて民間の仮想通貨取引を全面禁止したが、仮想通貨の有用性はきちんと見抜いている。 
法定通貨である人民元をデジタル化して当局管理のデータセンターに取引情報を集約すれば、人民元を使う中国国内外の個人や企業、市民団体や反対勢力などあらゆる者の情報を把握できる。
取引コストの安い仮想通貨の利点を生かせば人民元の使い勝手がよくなり、人民元による対外投融資が進む。
人民元の仮想通貨化こそは、習の対外膨張と対内抑圧の総仕上げになるではないか。 
習政権の野望を阻止する方法はただ一つ。
資本・金融の完全自由化である。
外為市場も金融市場も西側並みに自由化されると、人民元はドルとのリンクが外れ、神通力を一瞬にして失う恐れがある。
仮想通貨版に置き換えても、取引自由なら人民元相場は暴落リスクに曝される。
『エコノミスト』誌が習の独裁体制を批判しながらカネの自由化を中国に求めないのは、欺瞞ではないか。

たむらひでお 産経新聞特別記者

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