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映画: 「渇水」を観て ―水が乾くと心まで乾くのか?―

    映画「渇水」を観ました。この映画についてその内容を簡潔に紹介し、その後私の意見を述べてみます。

1 監督、キャストなど


  この映画は2023年制作の映画で、監督やキャストは次の通りです。
  監  督: 高橋正弥
  キャスト: 生田斗真 岩切俊作 役
        磯村勇斗 木田拓次
        門脇麦  姉妹の母親 役
        山崎七海 姉妹の姉 恵子 役
        柚穂   姉妹の妹 久美子 役
        尾野真千子 岩切俊作の妻 役
   上記は映画公式HP https://movies.kadokawa.co.jp/kassui/
   から引用しました。

2 映画のテーマ  水が乾くと、心に何が起きるのか?


    映画は日照り続きで給水制限になった、その町の市役所水道課で働く人の物語である。そして、この映画は河原満の小説『渇水』を映画化した作品でもある。

    映画を観ている内に、題名の「渇水」の「渇き」とは「水の渇き」の意味だけではないと思った。その「渇き」とは登場人物の愛情に対する「渇き」であり、また貧困であるために、生活に必要な水すら止められ、それでも助けを求めることすら諦めた幼い姉妹の渇いて干からびた気持ちではないかと思った。これがこの映画のテーマではないだろうか。

3 ストーリーの紹介


   主人公の岩切俊作は同僚の木田拓次と2人で、水道料金を長期間未納している家庭を回り、何度も支払いを促しても、払おうとしない家庭の水道の給水を止めることが仕事であった。ある日、この2人は育児放棄をしているシングル・マザーの家庭を訪問した。

    ここは既に電気は止められていた。母親には支払いをするように促すが、払おうとする気持ちすらなかった。そのため、ついに給水を止めようとした。しかし、そこへ二人の姉妹が帰ってきた。その子ども達を見ると、この時岩切は給水停止をしなかった。岩切には同年代の子どもがいて、その子のことを思いだすと、心が痛んだのだろう。子ども達まで親の責任の巻き添えにすることはできなかったのだろう。

    しかし、水道課の職員としていつまでも放置できないので、後日ついに給水停止をしてしまった。その時、一時しのぎではあるものの、給水停止の前に姉妹に、風呂やバケツなどのできるだけいろんなところに水をためさせた。給水停止というこの行為は、どこか岩切も心に痛みを感じたのだろう。
その後の幼い姉妹の行動は見ていて余りにも痛ましい。

4 水と空気は本来無料であるべきか?


     岩切は「本来、水は空気と同じようにただであるべきだ」と何度も映画の中で述べている。本来、水や空気は自然から万人に等しく与えられたものであるべきである。それなのに貧困家庭の給水をとめるという、自分のしている仕事そのものに対して疑問を持ち、どこか罪の意識を感じるのだろう。「自分の仕事に対して、意味や使命感を持てないと、人は幸せであると感じることはできない。」と、この映画監督は訴えたいのだろうか。

5 この映画に対しての疑問


 この映画を観ながら、やや不自然ではないかと思う点があった。
 この映画のような姉妹を市役所の職員が見かけたら、報告を受けた上司から同じ児童相談所などに報告が行くのではないだろうか。
 また、この姉妹に回覧板を持ってくる近所の女性が出てくるが、その人が町内会長、民生委員、児童委員などに話をするなどして、なんらかの支援が行われるのではないだろうか。

6 映画と原作との相違


 小説などの原作を映画化した作品を見る時、気を付けなくてはならないことがある。ついつい、映画を観ていて原作と違う点が気になる。しかし、原作者の視点や考え方と、それを映画化する監督の視点は同じとは限らない。したがって、当然ながら原作と映画は別の作品であると思うべきであろう。但し、どこまで原作の内容を変えても良いのだろうかとの疑問は残る。

 この映画の最後は、少しだけ希望を持てる終わり方をしているが、私は原作の小説を読んで驚いた。原作は余りにも衝撃的な悲劇で終わっていたからである。フィクションとは言え、この映画の監督は原作のような展望のない悲劇的な終わり方は、心が痛みしたくなかったのであろうと思う。

7 参考資料


映画の公式ホームページ https://movies.kadokawa.co.jp/kassui/
その他のホームページ  https://natalie.mu/eiga/film/188662
詳しいストーリーは   https://eiga-watch.com/kassui/
原作: 河林満『渇水』 角川文庫

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