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【フェミ議連】Vtuber戸定梨香の動画削除問題を振り返る【小レポート】


 千葉県松戸市のご当地Vtuber、戸定梨香氏が松戸警察とコラボした交通安全啓発動画がフェミニスト議員連盟から抗議を受け、削除に至った問題から一年余りが経ちました。
 炎上が過ぎ去って表沙汰にされることは減りましたが、未だに紆余曲折あって嫌がらせなどが続いている状況のようです。発起人である増田かおる氏が事実誤認のチラシを配ったという話もありました。

 この時期前後の経緯をまとめたレポートを以前作成したため、今回、そのレポートの方を公開しようかと思います。
 ソースのリンクも末尾に記載している為、話題を振り返る際の参考にして頂ければ幸いです。

Ⅰ はじめに

 2021年7月17日(土)、株式会社Art Stone Entertainment (以下ASE)が運営するVTuber/バーチャルライバーグループ、VASE(ヴァイス)に所属するVTuberの戸定梨香が千葉県松戸市の松戸警察、松戸東警察と協力し、YouTubeを見る子供、若者向けに交通安全啓発動画を出したところ、同年8月26日に松戸市議会議員増田薫氏が代表を務める全国フェミニスト議員連盟に『「ご当地VTuber戸定梨香」を啓発動画に採用したことに対する抗議ならびに公開質問状(※1)』を送られたことにより当該動画を削除することになった。

株式会社Art Stone Entertainment (以下ASE)が運営する VTuber/バーチャルライバーグループ、VASE(ヴァイス)に所属するVTuberの戸定梨香

 この問題を受け、オタク議員としてVTuber活動も行っている太田区議会議員、おぎの稔氏と、ネット論客として活動する青織亜論氏が共同で署名活動(※2)を行い、活動開始から約10日間で全国から約6万筆の署名が集まったにも関わらず、議連側から署名活動した人々に対して納得のいく回答がされることはなかった。
 しかし、この騒動がメディアに次々と取り上げられ、いわゆる炎上が大きくなっていく中で議員連盟側、署名活動者側双方に殺害予告が行われるなど、一動画の削除問題とは思えないほどに問題が大きくなっていった。
 この問題は2022年3月31日、松戸市議会の議長、副議長、松戸コンテンツ事業者連絡会会長、ASE代表、おぎの氏の5名による対談にて、正副議長より「今まで松戸市がコンテンツ復興を進めてきた中で、こうしたキャラクターが生まれてきたのだから、松戸市はしっかりと責任を持って守って欲しい」との言葉と共に活動継続についての意見交換が行われ、署名活動は市議会からの言葉をもって成功ということで、一応の幕は閉じた(議連側からは2022年5月20日時点で無回答であったが、署名数は71499票となった)。
 今回は、上記問題に関して行政の動きと権力関係を中心に見ていきたいと思う。

Ⅱ 時系列のまとめ

2021/7/17:ASEがブログにてVASEと松戸警察が共同で交通安全啓発動画を公開することを発表。同日、当該動画をYoutubeにて公開。(※3)
2021/8/26:フェミニスト議員連盟が動画に対して『「ご当地VTuber戸定梨香」を啓発動画に採用したことに対する抗議ならびに公開質問状』を公開。(※1)
2021/9/9:ASEの代表、板倉節子氏がTwitterにて当該動画が削除される件について表明。(※4)
2021/9/10:動画削除。おぎの氏らが『全国フェミニスト議員連盟宛抗議と公開質問状』の署名を開始。(※2)
2021/9/11:署名2万筆達成。全国フェミニスト議員連盟へ正式に質問状を送付。
2021/9/18:議連より「当該動画の掲載も削除も共に千葉県警によるもの。質問等への個別回答はしかねる」との声明を発表。(※1)
2021/9/20:各種メディアで今回の騒動が取り上げられる。(※5)(※6)(※7)議連に質問状を再送付する(この時点で署名6万筆)
2021/10/1:おぎの氏が9月29日に殺害予告を受けていたと表明。(※8)
2021/10/8:増田氏が会見にて脅迫や抗議のメールが5〜600通届いていると表明。(※9)
2021/10/17:参議院議員、浜田聡氏が参議院へ本騒動に関する質問主意書を提出(※10)
2021/10/22:参議院から質問主意書の回答が送られる。(※11)
2021/10/28:板倉氏とおぎの氏による共同記者会見が開かれる。(※12)
2021/10/29:署名活動7万筆突破
2022/3/31:松戸市議会長、副議長、松戸コンテンツ事業者連絡会会長、板倉氏、おぎの氏による面談が行われる。(※13)
2022/4/10:署名活動の終了を署名ページにて記載。(※2)

Ⅲ 問題の動画は本当に問題があったのか

 問題があるとして削除された動画は、現在ASEが管理しているYoutubeチャンネルにて公開が続けられている。(県警のチャンネルでは削除済み)この動画は現在(2022年5月6日時点)で23万再生、高評価1.5万となっている。
 また、すもも氏のアンケート調査『VTuber「戸定梨香」に関するインターネット調査』(※14)では、「戸定梨香が警察の交通安全啓発活動のキャラクターに採用されることは、問題があると思いますか?」という旨の質問を男女960名を対象に行ったところ、以下の回答が得られている。

すもも『VTuber「戸定梨香」に関するインターネット調査』(※14)

 このデータによると、全体で28.2%の人が問題だと感じていることが分かるが、年代別に見ると、動画のターゲット層である10代は21.7%まで減少しており、親世代(30〜40代)は平均とほぼ同等、祖父母世代(60代〜)は37.1%と大幅に上がり、特に60代以降の女性は46.3%と約半数の人が難色を示している。
 元々当該動画は子供や若者に向けた交通安全啓発動画であり、そのターゲット層の8割近くが「問題にするほどでもない」と受け取る内容であれば、問題には至らないと考えられる一方で、その保護者である親、祖父母世代が問題だと感じているのであれば問題であるとも考えることもでき、明確な答えが出しにくい。
 県警は「問題があるとは考えていない」と表明しており、「引き続き関係を続けていく」旨の発言(※15)をおこなっており、松戸市議会では「このようなキャラクターを守って欲しい」旨の発言をしていることから、行政側や市議会は問題だと考えてはいないようである。
 このような問題でよく取り上げられるものとして、「公共の場に出てこなければ活動に問題はない。公共の場に出てくることが問題」という意見(※16)があるが、日本赤十字社(認可法人)(※17)、JR(民営化鉄道会社)(※18)、日経新聞(株式会社)(※19)などでも「公共」という言葉を使って炎上が起きているため、行政が関わっているから公共、という扱いにはならず、定義が曖昧である。当該動画は行政機関との企画動画ではあるが、公開範囲自体はYoutubeのみであり、誰しもが必ず目にするものでもなく、不快であればボタン一つで消すことができるもののため、赤十字社の炎上の際に言われた「環境型セクハラ」のような状況ではなかったことが窺える。
 しかし、公共機関の関わった発行物に関しては、いわゆる萌えキャラクターの起用について何度も議論が行われている。2021年3月には大阪府が『男女共同参画社会の実現をめざす表現ガイドライン』(※20)にて萌えキャラクターに見える女の子の絵を使用したポスターを「ダメな例」として挙げていたり(実際には萌えキャラクターの起用を制限するものではなく、あくまで不用意に理由なく偏った起用をしないように促すものであり、強制力はないとしている)、兵庫県宝塚市でも同様の内容が記載されたガイドラインを発行している。(※21)
 このような問題が話題に上がる中で萌えキャラクターを起用したことに対しては、軽率であったと言わざるを得ないが、年齢制限がかけられたり有害図書指定をされるような表現でないものに対して「性的に見えることができるので不適切」としてしまうのは如何なものだろうか。「性犯罪を助長する懸念すら感じさせる」と断じてしまうのは過激ではないだろうか。

Ⅳ 議員連盟の質問状に「強制力」「権力」はあったのか

 議員連盟は、何らかの目的を持って結成する会の総称である。結成目的については政党推進から趣味まで様々であるが、大学でいうサークルみたいなものだとしている。しかし、サークル内外の派閥争いや議連を利用した同士集めなど、ただの有志の集まりとは言えないのが現状である。(※22)
 全国フェミニスト議員連盟は、会員約200名、代表に松戸市議員の増田氏が就任している。(※23)別の市の議員からならともかく、自県の議員が代表を務める約200人の団体から抗議が来れば、圧力を感じずにはいられないだろう。事実、県警側は「17日に削除予定だったものを、本来の目的とは異なる意図で捉えられることへの懸念もあり、県警内で検討した結果、削除に至った」と述べており、質問状の影響力を暗に示している。また、板倉氏も「圧力を感じた」と意見を述べている。(※24)
 一方で、議連代表である増田氏は「皆さん、議員にどれだけの力がおありとお思いか知らないですけど、まさか地方議員が警察に圧力かけて動画削除? できるはずがないでしょう」とTwitterにて発言している。(※25)法的に考えれば議連自体に行政を直接動かす権限はない。しかし、議会は行政に対して「公益に関する事件についての意見書を提出する権利」を有しており(※26)、松戸市議会議員である増田氏が松戸市の行政に対して権力を有していないという意見には疑問が残るといえる。

Ⅴ 議連に対しての署名活動は意味のあるものだったのか、議連は回答の義務があるのか

 署名活動には、法的拘束力が存在するものとしないものとに分けられる。拘束力が存在する場合として、「直接請求」などが挙げられる。直接請求は、有権者が直接議会や議員に解散などを求める署名のことである。今回取り上げている署名活動は、インターネット上で行われた全国的な署名活動であり、解散や撤廃を求めるものでもないため、これ自体に法的拘束力が伴うものではないといえる。
 つまり、この署名に対して署名者の納得のいく行動を示していなくとも、法的に罰せられたり、回答することに強制力が伴う訳ではない。しかしながら、署名活動に参加した約7万の人間が議員連盟の行動に対し不信感を覚える結果になったことは確かであり、議員連盟に所属している議員への信頼度は下がっていると推測できる。全国フェミニスト議員連盟に所属しているのは女性のみであるため、女性議員に対する風評被害や不信感が生まれてしまう恐れがある。現在の女性議員の少なさは度々問題視されているが、今後女性議員を増やす活動や議員になりたい女性への足枷となってしまわないかが不安である。
 また、この件はメディアでも取り上げられ、テレビでも何度か報道されたため、署名活動に参加していなくとも今回の件を知っている人間は多いことが予測される。メディアでは「削除された動画は批判されるほど問題のある動画なのか疑問」という意見が強調されるような内容が多く、議連の行動に疑問を覚える人間を増やす結果になってしまったのではないかと考えることができる。
 議員に対する信頼度は、選挙の投票率などに大きく影響するため、次回以降の市議会議員選挙などに今回の騒動における署名活動の影響が示されることが予測される。

Ⅵ まとめ

 戸定梨香問題は、行政が起用した萌えキャラクターに対し、議員が一個人ではなく議員連盟の名義で抗議活動を行うことにより、法的拘束力はないにもかかわらず行政に対して圧力を感じさせるものとなっていた。
 内容については不適であると断言できるほどの表現は見られないが、同年に萌えキャラクターの起用に対して苦言を呈されていた経緯があるため、問題であるという意見が送られてくること自体は予想ができたといえる。
 署名活動に対して議連が誠実な対応をしなかったことについては、責任追求をする権利は署名関係者、ASEともに存在しないが、有権者の不信感という形で今回の対応に対する結果が反映されることが予想される。

Ⅶ 終わりに

 今回の件を調べていくにあたって、各方面の行動に実質的な法的拘束力があるものは見られず、最終的な判断は書面を受け取った側にあることが窺えた。
 しかしながら、行政のあり方において信用が大きな影響力を与えるため、この件における行政や議員に対しての信用は大きく変化したことが予想される。千葉県松戸市は、令和4年11月20日に市議会選挙が行われるため、(※27)松戸市議会に所属する議員の声明や、投票率に今回の騒動の影響が見られるのか、注目していきたい。

【注釈】

1)全国フェミニスト議員連盟運営サイト【AFER】 千葉県警本部、松戸警察署、松戸東警察署、千葉県、松戸市、松戸市教育委員会宛の公開質問状を提出。およびその回答について。

2)全国フェミニスト議員連盟宛抗議と公開質問状 *Change.org

3)プレリリース 株式会社Art Stone Entertainment 千葉県松戸市ご当地VTuber「戸定梨香」が、松戸警察、松戸東警察の交通安全啓発活動に協力。

4)板倉節子 Twitter  動画削除の連絡の旨

5)日テレNEWS VTuber起用のPR動画…抗議受け削除

6)デイリースポーツ 加藤浩次 VTuber性的表現「抗議→取り下げでいいの?

7)NHK 「性的」意見受け動画削除 表現の自由の観点から抗議も

8)おぎの稔 Twitter 殺害予告の旨

9)東京新聞 Vチューバーの県警動画削除、フェミニスト議連に殺害予告「戸締まり気をつけろよ」

10)浜田 聡 Twitter 参議院へ本騒動に関する質問主意書を提出

11)浜田 聡 Twitter 参議院からの回答

12)東京新聞 フェミニスト議連への抗議署名有志「炎上は建設的でない」と対話を求める 千葉県警のご当地Vチューバー動画削除

13)おぎの稔公式HP 松戸市議会議長・副議長と面談をさせて頂きました。【松戸市ご当地Vtuber戸定梨香さん】

14)すもも VTuber「戸定梨香」に関するインターネット調査(全文無料・ローデータ有料)

15)よろず~ニュース Vチューバー動画削除の千葉県警 「戸定梨香」の性的要素否定し「不適切ではない」と明言

16)東京新聞 Vチューバーの県警動画削除 フェミニスト議連「ミニスカ、大きな胸の揺れ、交通安全動画に本当に必要か」

17)現代ビジネス 「宇崎ちゃん」献血ポスターはなぜ問題か…「女性差別」から考える

18)ITmedia NEWS 「今日の仕事は、楽しみですか」品川駅の大量広告、「出勤時に見ると傷つく」と批判→1日で取り下げ NewsPicks関連企業

19)週刊女性PRIME 日経新聞の全面広告に“胸の大きな女子高生”が物議! 漫画『月曜日のたわわ』炎上も版元の一人勝ちか

20)大阪府 男女共同参画社会の実現をめざす表現ガイドライン

21)宝塚市 男女共同参画の視点に立った表現ガイドライン

22)財政ONLINE 【政界】ワクチン次第で任期満了選挙の可能性も 衆院9月解散を狙う菅首相が抱える内憂外患

23)フェミニスト議員連盟

24)板倉節子 Twitter 「圧力を感じた」

25)増田かおる Twitter 議員が圧力かけて削除などできるはずない

26)まつど市議会 意見書・決議(議員提出議案)

27)松戸市HP 松戸市議会議員一般選挙について


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