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(詩)時計

時計の針が静かに動いている
僕の願いも聞いてくれずに
僕だけがいる部屋にチクタクと
鳴り響く

鈍器を使って時計を壊せば
あの時計は動くのをやめるだろう
でもそんなことをしても
時は止まらない

僕が何度も願っても
時の流れには逆らえない
僕が何度も願っても
心臓の鼓動は止まらない

今の僕の価値は
壁にかけられた時計と同じで
いくらでも替えのきく
どうしようもない命

ふと窓の外を眺めてみる
外には新宿の高層ビル群の光が
大火のように輝いていた
この光に憧れてここに来たのに
今では街灯に群がる虫のように
ただ鬱陶しくしがみついていた

もうそんな自分が気持ち悪くて、大嫌いで
気づけば薬箱に手を出していた
次の瞬間そこにあった薬を大量に飲み始めた

時が止まらないとしても
自分が自分を終わらすことはできる
憧れなどもうどうでも良い
ただ最後は名前も知らない虫のように
誰にも知られずに砕け散っていきたかった。

時針が12時を指した頃僕の心に潜む演奏者は音を抑えた
自分が自分じゃないような気がした
そのくらい気が楽だった
その時、時計の針の音が聞こえなくなった
次第に僕の音も聞こえなくなってきた

静まった部屋に転がる人のようなもの
そこにはかつての憧れも威厳もなく
今では悲しみの匂いだけが
強く残っていた

しばらくたったあと
時計の針の音が鳴り響いた
チクタクとチクタクと


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