「医」と「医以外」

 前回に引き続き、ADE(抗体依存性感染増強)について考えてみたいと思います。内容がかぶる部分があり、結論としましても似たようなものになりますが、ご容赦ください。

 『Cell』誌オンライン版での、大阪大学・免疫学フロンティア研究センターの荒瀬尚教授のグループによる研究の「研究成果のポイント」と「概要に添付された図」を書きます。以下、引用部分の太線は私です。

 研究成果のポイント
• 新型コロナウイルスに感染すると、感染を防ぐ中和抗体ばかりでなく、感染を増強させる抗体(感染増強抗体)が産⽣されることを発⾒した。
• 感染増強抗体が新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の特定の部位に結合すると、抗体が直接スパイクタンパク質の構造変化を引き起こし、その結果、新型コロナウイルスの感染性が⾼くなることが判明した。
• 感染増強抗体は中和抗体の感染を防ぐ作⽤を減弱させることが判明した。
• 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)重症患者では、感染増強抗体の⾼い産⽣が認められた。
また、⾮感染者においても感染増強抗体を少量持っている場合があることが判明した。
• 感染増強抗体の産⽣を解析することで、重症化しやすい⼈を検査できる可能性がある。また、本研究成果は、感染増強抗体の産⽣を誘導しないワクチン開発に対しても重要である。

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 「コロナワクチンは感染増強抗体をも作り出す」ということが前提になります。ここで一つ疑問が浮かびます。「なぜ、世界で最も免疫について知識や技術をもった集団の一つであるワクチン開発チームは、感染増強抗体産出を誘導しないワクチンを最初から作らなかったのか」ということです。さらにワクチン推奨派の宮坂昌之先生は、「ワクチン接種の時限爆弾「ADE」は本当に起きるのか?」という記事で、こう書かれています。

ただし、現在のワクチンでは、この感染促進抗体が結合する部位も抗原として使われています。もしかすると、新たなワクチンでは、この部位をワクチンの標的から外したほうがさらに良い結果が得られるのかもしれません。

  宮坂先生も、ADEの危険性については認識しています。さらに記事ではこのように書かれています。

荒瀬教授はさらに新しいデータを発表しています。9月8日に発表した査読前論文では、デルタ変異株に対してワクチンは依然として有効であるものの、人工的に特定の変異を4つ加えた変異株デルタ4+を作ると、ワクチン接種者から得られた抗体の効き目が大幅に弱まるとのことです。
現時点では、デルタ4+と同一の変異株は世界で検出されていませんが、うち3つの変異があるデルタ株はトルコで見つかっています。
荒瀬教授とはその後メールでやりとりしていますが、彼が心配しているのは、中和抗体が結合するエピトープ(抗原決定基)をほとんど持たずに、もっぱら感染促進抗体が結合するエピトープを持つ変異株が出現する事態です。もし、このような変異株が現れると、ワクチン接種によって生まれた少数の悪玉抗体を中和抗体で抑えられなくなるので、ADEが起きる可能性があります。

 そこで、荒瀬教授の9月8日に発表した査読前論文を見てみました。abstractで私的に重要だと思われたところを抜粋します。

 今回、我々はDelta変異体が抗N末端ドメイン(NTD)中和抗体から完全に逃れる一方で、抗NTD感染性増強抗体への反応性を高めていることを明らかにした。Pfizer-BioNTech社のBNT162b2-免疫血清はDelta変異体を中和するが,Delta変異体の受容体結合ドメイン(RBD)に4つの共通変異を導入すると(Delta 4+),一部のBNT162b2-免疫血清は中和活性を失い,感染性が増強されることがわかった。
 GISAIDデータベースによると、3つの類似したRBD変異を持つDelta変種がすでに出現している事実を考えると、このような完全なブレークスルー変種から保護するワクチンの開発が必要である。

 結論としましては

⑴Delta変異株は抗NTD中和抗体から完全に逃れる一方で、抗NTD感染性増強抗体への反応性を高めている。

⑵Delta変異体のRBDに4つの共通変異を導入すると(Delta 4+),一部のBNT162b2-免疫血清は中和活性を失い,感染性が増強される。

⑴に関しては論文がありましたので、見てみました。

abstractの要点を抜粋します。

 抗体依存性感染促進(ADE)は、ワクチン戦略における安全性の懸念事項である。最近の発表で、Liら(Cell 184 :4203-4219, 2021)は、SARS-CoV-2スパイクタンパク質のN末端ドメイン(NTD)に対して向けられた感染促進抗体が、in vitroではウイルス感染を促進するが、in vivoでは促進しないことを報告している。しかし、この研究はオリジナルの武漢/D614G株で行われたものである。現在、Covid-19のパンデミックはDelta変異体が主流となっているため、これらの変異体のNTDと感染促進抗体の相互作用を解析した。分子モデリングにより、感染促進抗体は武漢/D614GのNTDよりもDelta変異体に対して高い親和性を持つことが示された。
NTDは中和抗体の標的にもなっていることから、我々のデータは、ワクチン接種を受けた人の中和抗体と促進抗体のバランスが、オリジナルの武漢/D614G株については中和に有利であることを示唆するものであった。しかし、Delta変異体では、中和抗体はスパイク蛋白への親和性が低下し、感染促進抗体は顕著な親和性上昇を示した。したがって、オリジナルの武漢株のスパイク配列に基づくワクチン(mRNAまたはウイルスベクター)の接種を受けた人々にとって、ADEが懸念される可能性がある。このような状況下では、構造的に保存されたADE関連エピトープを欠くスパイクタンパク製剤を用いた第2世代ワクチンを検討すべきである。

  NTDに関して、武漢株のときには中和抗体のほうが強かったが、デルタ株では感染増強抗体のほうが強くなっている懸念があり、ADEを気にする必要があるということです。

 構造としては、以下のようになります。論文からの図です。

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図A:NTDに結合した感染促進抗体(緑色)は、ウイルスと細胞の接着を妨げないよう、接触面の後方に位置している。

図B:NTDと脂質ラフト(膜ミクロドメインの一種で、スフィンゴ脂質とコレステロールに富む細胞膜上のドメイン)が相互作用する。

図C:スパイクタンパク質-感染増強抗体複合体を作る。

図D~F:抗体のごく一部が脂質ラフトと相互作用する。より正確には、アミノ酸残基28-31と72-74を含む抗体の重鎖の2つの異なるループが、脂質ラフトの端と直接相互作用して複合体を安定化させている。

 全体として、NTD-脂質ラフト複合体の相互作用エネルギーは、抗体非存在下の-399 kJ.mol-1から、抗体ありの-457 kJ.mol-1に上昇する。NTDと脂質ラフトを挟み込むことで、抗体はスパイクタンパク質の細胞表面への付着を強化し、その結果、ウイルス感染過程の次のステップであるRBDの構造変化を促進することが分かった。
 このように、感染促進抗体がNTDと脂質ラフトを二重に認識するという考え方は、他のウイルスにも通用する新しいタイプのADEといえるかもしれない。ちなみに、我々のデータは、抗NTD抗体によって引き起こされるFcRに依存しない感染拡大のメカニズムを説明するものである。SARS-CoV-2のADEに初めて脂質ラフトを関連づけた我々のモデルは、デングウイルス感染のADEに無傷の脂質ラフトが必要であることを示した過去のデータと一致する。
 NTDに対する中和抗体もCovid-19患者から検出されている。4A8抗体はその代表的な抗体である。この抗体が認識する平坦なNTD表面のエピトープは、Delta株のNTDでは劇的に変化しており、Delta株に曝露したワクチン接種者では活性が著しく低下していることが示唆される。このように、中和抗体と促進抗体のバランスは、ウイルス株によって大きく異なることが予想される。

  さて、このような論文のなかで異口同音に訴えられているのは「ADE関連エピトープを欠くスパイクタンパク製剤を用いた第2世代ワクチンを検討すべき」ということだと思います。そしてやはり、やはり冒頭での疑問に戻りますが「なぜ、世界で最も免疫について知識や技術をもった集団の一つであるワクチン開発チームは、感染増強抗体産出を誘導しないワクチンを最初から作らなかったのか」ということです。仮に当時は本当に感染増強抗体を知らなかったとします。しかし今では、世界的に接種されているコロナワクチンは「感染増強抗体を産出し、ADEを起こす可能性があるエピトープを含むスパイクタンパク製剤」ということは、公的機関の専門家の方々の間では共通認識のはずだと思います。それでもなぜ、ワクチン接種を推奨し続けているのでしょうか

 わたしとしましては、この部分に「医以外」のものを感じざるをえません。そして、最終的な意思決定が、そういった「医以外」の要素によってなされる異常な世界に今なっていると私は思っています

 そもそも「医」という意味では、本当に薬やワクチンが第一候補になるのでしょうか。

 「レヴィ=ストロース『野生の思考』と医学」で書かせていただきましたが、中医学におもしろい言葉があります。「医」の包括的なイメージです。古代中国の『通義録』です。

草根木皮これ小薬、鍼灸これ中薬、飲食衣服これ大薬、身を修め心を治めるはこれ薬源なり。

 草根木皮は今でいう「薬」です。「医」において、薬は最も効果が少ないものだという認識です。鍼灸は中薬で、飲食衣服は大薬だと中医学では考えています。身を修め心を治めるとは、生活習慣に気を配り、慈悲の心をもって生活するといったようなことです。私としてはコロナ対策としましては、第一優先は、生活習慣や慈悲心をもつこと、飲食をしっかりすることだと思っています。

 「医以外」に話を戻しますと、まずは世界を覆い尽くしている資本主義があるように思います。たとえば医師がどんなに良心的でも、患者さんが病院に来てくれなければ病院経営が成り立ちません。経営において最もいいのは「亡くなるまで定期的に薬をもらいにきてくれる患者さん」ということになってしまいます。根本的な仕組みを前にして、今「医」は非常に難しい立場になっているように思います。

 さらに日本人に関しましては、大本営発表の前例がありますように「間違っていても今さら引き返せない」といった集団的な癖があるように思います。それが「場の空気」になり、「場の空気が神」になるのは、私たち日本人には日常的だと思います。場の空気のために、子どもたちはいじめをしたりします。一緒になって、ある子をいじめないと、「ノリがわるい」「空気よめよ」などと言われて仲間外れにされるからです。場の空気のために、大人たちは明らかに間違っているのに関わらず、方針転換できなかったりします。今回のコロナワクチンについても、私はどうもそういった「場の空気」を感じるのです。

 最後にアメリカなどの西洋列強についてです。個人個人はすばらしく尊敬する方ばかりです。私にももちろんアメリカ人やイギリス人の知り合いがいますが、本当に立派な方ばかりです。ただ、たとえばアメリカの歴史を見ると、インディアン虐殺、奴隷制度、原爆投下、枯葉剤投下等々、なかなか日本人には想像がつきにくい衝動がどこかにあるのかもしれないと思ってしまいます。繰り返しますが個人の話ではないです。あくまで集団化したとき、国としてこういった衝動があるのではないかと、どこかで私は思ってしまいます。もしかしたら今回のコロナワクチンに関しても、そういった衝動との関連性も考えなければいけないと私は思っています。もし仮に「意図的に」感染増強抗体を産出し、ADEを起こす可能性があるエピトープを含むスパイクタンパク製剤を作ったのだとしたならば。その可能性はゼロではないと私は思っています。

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