見出し画像

[詩]「四耳壺」

かぶれない

帽子の庇を


二つの人耳


二つの獣耳


せっかくの休日


月が翳る


庭の手入れから

戻った家に


出迎えなんて

あるわけもなく


夜空を仰いで

四耳酒を煽る


買っておいたの


馴染みの

コンビニ


いつも


店員は

無表情


なんだか


それが

心地好く


つい足繁く

通ってしまう


昔から

そうだった


私の耳


頭上に生える

獣耳と


頭の横にある

人耳の


四つある


そのくせ

尻尾はない


人々はそれを

嘲り笑った


私の長所を

罵った


貴方達は

知らないかもね


説明するのも

あきらめた


異様な私と

耳の良さ


普段の街の音も

知らないくせに


どうやって

危険に気づけるの


どうして

私を避けちゃうの


私は貴方が

羨ましいのに


夏場に煌めく

ハットのプリム


耳が入らないの


白のドレスと

麦わら帽子


耳に入らないの


貴方の悪口と

彼らの悪辣さ


うるさいくらいの

風情な鈴虫と


いつもと違う

風の便りに


新月の空


音しかない

暗闇に


誘われて

眠る夢


ドサドサ入れた

お酒達のカゴ


「1924円です。」


私の耳には

興味も持たないで


無愛想な店員は

頑張っている


私はそれが

嬉しかった


私の良さは

きっと


私だけが

知っている


幻想的な

和室の縁側


飲み残した

四耳壺の酒


水面下で

揺れている


もういいよ


また朝が来る


二日酔いで

揺れる頭


平日列車で

揺らめく耳


帽子の庇を

かぶれない


二つの人耳


二つの獣耳


尾を引く

名残なんてない


私だけの

特異点


目を開ける


ああ


そうであれば

よかったのに



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?