思考力トレーニング:前例ストラテジー

 思考力トレーニングシリーズ。頭の悪い人が陥りがちな短絡的誤認をワンランク上の思考に昇華するフレームワーク。前例に振り回されたり縛られたりではなく、前例を乗りこなす戦略的思考法。

要旨

  • 前例ストラテジーとは

  • NG思考1:前例がないので会議でブレスト

  • 思考ステップ1-1:範囲を広げて先行事例を本気で探せ

  • 思考ステップ1-2:前例がなかったら作ればいいじゃない

  • NG思考2:前例があるので変えられない

  • 思考ステップ2-1:「変えられない」を疑え

  • 思考ステップ2-2:壊せばいいってもんじゃない

  • 思考ステップ2-3:完璧な設計も自走はしない

  • 思考ステップ2-4:応用編 硬直的組織を変える方法

前例ストラテジーとは

 前例は探してでも倣った方がよい時と、社長を解任してでも変えたほうがよい時がある。未経験にチャレンジする時は、まずは先行事例を探し経験者を誘致したり助言を受けることを第一に検討すべきである。時代や内外環境が変わり前例が状況に合わなくなったりうまく機能しなくなった時は、前例に縛られず柔軟に対応すべきである。安易に前例=悪、前例=絶対と決めつけず、状況に応じて前例を使いこなすのが前例ストラテジーである。

NG思考1:前例がないので会議でブレスト

 管理職が社内政治派に牛耳られ、実力派が駆逐された企業では管理職のスケジュールには非公開予定のブレスト会議が非常に多くなる。準備もなくなんとなく集まって論点の定まらない結論も出ない井戸端会議を1時間も2時間も続ける。そんな会議がみっちりとカレンダーを埋め尽くし、「忙しい」と嘯く。日本の管理職は単なる権力者になってしまっており、最低限のファシリテーション力のある管理職はヤンバルクイナより少ないのではないか。
 「前例がないのでみんなでアイデアを出し合いましょう」は最悪である。会議のファシリテーション方法についてもいずれ記事にしよう。守破離を持ち出すまでもないが、自分にとって未経験で先人の成功例や失敗例のあることは、まず先人に学ぶべきだ。さて、では社内に前例がない時はどうしたらよいか。

思考ステップ1-1:範囲を広げて先行事例を本気で探せ

 当たり前のことである。同業他社に先行事例がないか。他業界で参考にできる事例はないか。海外に先行事例はないか。まず、社内資源すら探さないのはもっての外。本来はリーダー職くらいでも業界情報にはアンテナを立てていたいもの。部長以上なら他業界も含む様々なビジネスモデルや成功事例、失敗事例を幅広く知っているべきである。探しもせずに「前例がないからブレスト」という奴は座敷牢にでも縛りつけておけ。「前例がない」というのは十中八九は単に探してないだけなのだ。

思考ステップ1-2:前例がなかったら作ればいいじゃない

 前例がなければ仮説を立てて実験してみることが王道である。良くも悪くも何が正解かはやってみないと分からないし、いくつかは失敗事例とも比較しないと何が成功要因なのかは見えてこない。ここで重要なのは、期間や範囲を限定して失敗だと判断したら小さく手仕舞いできることである。飲食チェーンの期間限定や店舗限定のメニュー、キャンペーンはまさにこれの典型なのだが、意外と「特例は認められない」の一点張りをする管理職は世の中にカラスのようにどこにでもいる。問題はカラスほど賢くないことなのだが。

NG思考2:前例があるので変えられない

 重要ポストが老害で埋め尽くされて向こう十年はイス待ちの行列が動かない昭和型日本企業にありがちな風景である。世の中に変えられないことは殆どない。契約・法規・規格・通例・内規・倫理など、すべて変更可能である。変更の際の意思決定者と手続きが異なるだけだ。

思考ステップ2-1:「変えられない」を疑え

 まず、変えられないと思い込んでいる事柄が契約・法規・規格・通例・内規・倫理のどれに近いものかを考えよう。契約・法規・規格は社内で変えられるものではないが、通例・内規・倫理は普遍性のあるものではない。特に内規など鶴の一声でいかようにでも変えられるものだ。明らかに現状が良い結果を生んでいない時に、通例・内規・倫理を再検討もせずに「変えられない」というのは老害だ。早々に引退して年金生活をしてもらおう。

思考ステップ2-2:壊せばいいってもんじゃない

 現状が望ましい状態でなかったとしても、すぐに前例を壊そうとするのは賢いことではない。まずは過去3年程度のデータを集め、多角的に推移を見よう。不十分ではあるが大局として少しずつ良くなっている場合、あまり大幅な変更はかえっていたずらにリスクを増大させる。「脱資本主義」「民主主義の終わり」等がその典型である。現状完璧ではないが、少しずつ状況は改善しつつある。少しうまくいかない部分があるからといって逆張りすればいいというものではないのだ。
 必要なのはフルモデルチェンジなのかマイナーチェンジなのかはしっかりと定量的なデータを多角的に評価し、検討しよう。どんな考えを持ったバカにも共通して言えることは、奴らは総じて浅はかなのである。速く広く深く思考せよ。

思考ステップ2-3:完璧な設計も自走はしない

 いずれ仮説思考の記事を書く時にも同じことを書くが、前例を壊し新たなアイデアを組み上げる時に、リスクばかり考えて「やっぱり変えないほうがいいんじゃないか」と思ってしまうことがある。2つ、断言しよう。1つ目。どんな方法にもリスクはある。リスクを考えすぎて弱気になるような人はリスクマネジメントを勉強していない。巷にテキストはいくらでもあるので、基礎基本を勉強しよう。2つ目。どんなに完璧なアイデアであったとしても、それを正しく機能させること自体にその時その都度実行している関与者全員の不断の努力が必要不可欠なのである。言い換えよう。どんな完璧な制度や仕組みもバカに運用を任せると1週間で沈む。仕組み化仕組み化とやかましい無能に限って、運用面を軽視しがちなのである。前例を壊し、新たな仕組みが機能していたとしても、気を抜かずに運用努力を怠らないことが重要だ。

思考ステップ2-4:応用編 硬直的組織を変える方法

 とはいえ日本の組織はなかなか変わらない。悪貨は良貨を駆逐する。競争の緩い閉じた市場で安定した企業や優れたビジネスモデルで市場優位を確立した企業では運用面が多少悪くても売り上げは安定、もしくは成長してしまう。そうなると組織は腐敗し、社内政治が横行し実力者は駆逐される。そのような職場でボトムアップの提案で管理職の意に反する、理解を超える、もしくは必要ではあっても手間がかかるばかりで管理職自身の点数稼ぎにならないことはまず通らない。トップは腐敗管理職を気に入っているので、意見が正しいかどうかなんて全く無関係である。幼児でも分かるような間違った意見がまかり通るのが日本社会というものである。
 そこまででないにしても、正論が通りにくい環境で無理に戦うのは好ましくない。意見が通らないばかりか、正しいことを言ったものが損をするからである。そのような場合、まずは管理職の言うことには表向きイエスマンをしつつ、組織批判にならない場面で雑談ベースで正しい考え方を広めよう。組織のイシューに対し正解を社内オープンソース化しよう。正しい意見をロジカルに説明できれいれば、その意見は独り歩きして、いずれどこかの目立ちたがりが拾って育ててくれる。その日を信じて日々の仕事を淡々とこなしつつ、あなたはただ宣教師であればよい。

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