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眠ったふりしてる森の美女

あらすじ
 大きなお城のちょっぴりわがままなお姫さまは、素敵な王子さまとの出会いを夢見ています。そこでお姫さまは、森の中で「眠ったふり」をしながら王子さまが現れるのを待つことにしました。
 そんなある日のことです。お姫さまの前に一羽の年老いたワタリガラスが現れ、不思議な会話が始まりました。




1.危機一髪


ある日のことです。一人の王子さまが白馬に乗って森を通ると、眠っている美しいお姫さまを見つけました。

「なんと美しい人だ。」




王子さまは子供のころに読んでもらった「眠れる森の美女」というおとぎ話を思い出し、お姫さまにキスすることにしました。

ドキドキしながら顔を近づけていくと、どうしたことでしょう。

お姫さまが口をギュッと閉じてしまいました!

「これは魔女の罠に違いない」

驚いた王子さまは慌てて逃げていきました。

でも、それは「魔女の罠」でも何でもありませんでした。

お姫さまは眠ったふりをしていただけで、うす目で王子さまがタイプでない事をしっかり見ていたのでした。


「ふう~っ! 危なかったわ!」

危機を脱したお姫さまは大きく息をつきました。



2.死んだふり


別の日のことです。

お姫さまがいつもの場所で準備をしていると、木々の向こうから、ひづめの音が聞こえてきました。


「やったー! 今度こそ素敵な王子さまよ!」

急いで眠ったふりをしていると、ひづめの音がだんだん近づいてきます。


「きたわ! 待っていた王子さまよ!」

ドキドキする、お姫さまの心臓の音が聞こえそうです。

でも、木陰から姿が見え始めたとき、お姫さまは心の中で悲壮な叫び声を上げました。


やめてーーー!!


そこに現れたのは、牛にまたがった王子さまだったのです!

モーいや! 白馬じゃなきゃ絶対いや!」


「でも、なぜ牛じゃダメなの?」

「これは偏見かしら?」

「美しい私に偏見はダメよね!」


色々な考えが頭の中をぐるぐる回りますが、牛にまたがった王子さまは刻一刻と近づいてきます。

モー時間がないわ! ここは死んだふりしよっと!」

 

どのくらい経ったでしょう。ほんの少しの間だったに違いありませんが、お姫さまにはとても長く感じられました。

そして、遠ざかるひづめの音を慎重に確認してから、むくっと起き上がって呟きました。

「まったく失礼ね!」

何が「失礼」だったのでしょう。

実は、王子さまはお姫さまを覗き込んで、

「あだ~、こりゃ、ダメだ。」 

と冷たく言い放ったので、お姫さまはたいそう傷ついたのでした。

「まともな王子さまだったら、もう少し思いやりがあってもいいじゃない?」

「この人の身に何があったのだろう、とか 、でも美しい人だなあ、とかさ…」

「まあいいわ! どのみち、牛にまたがった王子さまなんかに興味ないから。」

「しかも、乳牛だなんて!」


「でも変ね。無事に切り抜けたのに、この後味の悪さは何なのかしら…」

いろんな考えが頭の中をめぐりました。



3.ワタリガラスの知恵


次の日になりました。

「まったく、昨日は災難だったけど、今日こそはね!」

気を取り戻しながら横になろうとした時、ふと、以前耳にした庶民の言葉を思い出しました。


 ―― 美人は三日で飽きる ―― 


「ばかね。美人の方が良いに決まってるじゃない。庶民はなぜそんなこと言うのかしら…?」

お姫さまがブツブツつぶやいていると、上から声がしました。

「それは引き算と足し算さ。」 

「誰! そこにいるのは!」

驚いて見上げると、そこには一羽の大きな年老いたワタリガラスがじっとお姫さまを見下ろしていました。


「わしじゃよ。」

「ワシといっても、あなたはカラスよね!」


不意のダジャレに面食らったワタリガラスはバランスを崩し、危うく落ちそうになりましたが、どうにかお姫さまの近くの枝に止まりました。

「はじめまして、ワタリガラスさん。」

お姫さまが挨拶しました。

「おお、わしみたいな者にも挨拶できるなんて、案外良いお方じゃな。はじめまして。」

「あら、挨拶ぐらいはできてよ。舞踏会ではご挨拶してから踊り始めるのよ。あまり声には出しませんけどね。」

「舞踏会でもうす目で相手を選んでいるのかな?」

「えっ、見ていたの!」



4.満点は曲者


「まるみえさ。」


お姫さまは恥ずかしさで目を伏せながらも懸命に言い訳をしました。

「今は一生の問題で必死だから仕方ないのよ、ちょっとくらいのズルは。恥ずかしいけど…。」

「そうかい、そうかい。」

ワタリガラスは笑いながら聞き流しました。


「それより、さっき言ってた、足し算とか引き算って、どういう事? もっと教えて下さらない?」

「いいとも。それはこういう事さ。」

年老いたワタリガラスは少しもったいぶって、コホンとひとつ咳をしました。 

「わしが見ていると、人間は点数を使いながら暮らしておる。これはおいしいから10点、あれはまずいから3点という風にな。 人に対しては、ぶさいくだから4点にしようか5点にしようかと迷っても、綺麗に見えると迷わず10点を出しておる。無理もないが、それがよくない。」

「なんでよ! 私も10点欲しいわ!」


「でもな、満点は曲者じゃ。その上がないじゃろ? 美人だ、スタイルも良いと、いくら良いことが並んでも、全部が10点の中に入ってしまっている。 だから、期待や思い込みと違う部分が見え始めると、がっかりして…、そう、1点、2点と引き算が始まるのさ。」

「そんなの勝手すぎるわ!」

「その通り。勝手に10点つけて、勝手に引き算しよる。しかし、それがわしの見ている人間のやってることじゃよ。」

「本当に勝手ね。あなたたちは点数を使わないの?」

「きれいとか、きれいじゃないとか、すてきとか、すてきじゃないとかは、おおむね、その人の着ている物とか地位などに誤魔化されやすいものなのさ。 『それじゃいかん。ワタリガラスの価値は知恵と勇気を優先すべし』 ― そう、わしらの先祖が話し合い、みんな黒一色のワタリガラスになったのさ。」

「ふ~ん。まあいいわ、それがあなたのいう引き算ね。知りあって三日もたてば、顔だって見慣れてくるでしょうし、引き算が始まるってことね…。」


いつの日かめぐり逢う王子さまに三日で飽きられたらどうしようと思うと、お姫さまはたいそう不安になりました。

「でも、足し算のことも聞かなくちゃ!」



6.足し算の良い所


お姫さまは、少し気を取り直して聞きました。

「ワタリガラスさん、じゃあ、あなたのいう足し算は、その逆なの?」

「うむ。普通に5点くらいつけられた人は、その後、あれもできるしこれもできる、性格もよいし、笑顔もいい、なんてことになると1点、2点、3点と足し算が始まるのさ。」

「まって、それはおかしいわ。あなたはさっき、10点には全部入っているって言ったじゃない? それなら、その5点にも全部入っていなくちゃおかしいわ。」

「あはは。よい指摘じゃのぉ。じゃが、わしがよーく観察していると、点数が低い場合、それは容姿だけの場合が多いのじゃ。他はなーんにも見ておらん。」

「そんなの、おかしいわ!」

「おかしいね。だが、それが人間のやってることじゃ。」

「ああ、困ったわ。私はむりやりぶさいくにはなれないし…。まったくもう!どうしてみんな点数を使いたがるのかしら!」

お姫さまの頭は混乱してきました。

そして、自分もうす目で点数をつけていたことに気づき始めたころ、あたりに夕暮れがせまってきました。



7.合言葉


夕日を背にしてワタリガラスはひとつ高い枝にぴょんと飛び移って言いました。

「さてと、お喋りしすぎたかな? わしは帰るとするか。」

「ワシじゃなくてカラスでしょ!」

お姫さまとワタリガラスは一緒に笑いました。


「ワタリガラスさん、ありがとう。今日はお話しできてうれしかったわ。また明日もお会いできるかしら?」

「ああ、きっとできるよ。」

「そうだわ! お名前を教えてくださらない?」

「カラスだもの、名前なんてないさ。」

「じゃあ、どうしてあなたと分かるかしら。別のカラスさんだったら嫌だわ。」

「それは光栄じゃ。では、二人の合言葉を作るってのは、どうかな?」

「素敵! 冒険しているみたい!」

お姫さまは自分に驚きました。こんなにワクワクした気持ちは生まれて初めてです。


「いいのが浮かんだわ! こう言うの ―― 『ワタリガラスさん、合言葉を言え。カラスが鳴くから』って聞くのはどうかしら!?」

お姫さまは子供のようにはしゃいでいます。


「アハハハー。そして答えが、『かーえろ』じゃ他のカラスにもバレバレじゃわい!」

「じゃあ、どうしましょう…。カラスがダメなら何がいいかしら? 『王女』も『プリンセス』もつまんないし…。和風の『姫』にするとか…。 え~と、え~と。」

「それじゃ、それじゃよ! 良いのを思いつきましたぞ!」

ワタリガラスの鼻の穴が膨らみました。

「あなたが『ひめ、ひめ、ひめ、ひめ』と4回言うんだ。さあ、テンポよく言ってみて下され!」

いったい、どんな合言葉になるのでしょう。お姫さまはドキドキしました。


「じゃあ、やるわよ―。ワタリガラスさん、合言葉を言え。『ひめ、ひめ、ひめ、ひめ!』」

「えひめのみかん!」

「決まり!」

ふたたび森の中に二人の笑い声が響き渡りました。



大笑いしながらお姫さまは思いました。

「前にこんなに笑ったのはいつだったかしら。思い出せないわ。でも、もしかすると、幸せって、こんなことなのかしら…。」と。


ワタリガラスの姿が夕暮れの空にだんだん消えていきました。



8.小さな王子さま


次の日の朝です。お姫さまがまた眠ったふりをしていると、遠くから、パカパカと音が聞こえてきました。

「さっそくね! 今度こそ私の王子さまよ! そして、そっとキスしてくれるの!」

お姫さまは息を整え、ときどきうす目にして様子をうかがいながら、無意識に唇をちょっとなめて、待ちきれない気持ちで王子さまを待ちました。


そして、待ちに待ったその瞬間が来たとき

オー、ノーー!!

お姫さまはガバっと起き上がってしまいました。


起き上がって、まず驚いたことは、これまでお城の中では健康器具を使わないと、一人で上体起こしが出来なかったのに、今は、何も考えずにすんなり起き上がれたことでした。


 ― 誰でもその気になりさえすれば、健康器具なんかいらないのです ―


それはさておき、何があったのでしょう。


じつは、そこに現れたのは、子供の王子さまでした。しかも、王子さまは竹馬に乗り、自分で「パカパカ」と言いながらやってきたのです。

お姫さまはとてもがっかりしました。

でも、子供の王子さまが悪い訳ではありません。


やがて子供の王子さまはお姫さまのそばに来ると、竹馬から降りました。

よく見ると、2本の竹馬の先には綺麗に色づけされた馬がついています。


お姫さまから声を掛けました。

「こんにちは、かわいい王子さま。」

「こんにちは、美しいお姫さま。」


「ま、お上手ね!」

「よろしければ、私と一緒に旅に出ませんか?」

そう言いながら王子さまは片方の竹馬を差し出しました。

なんと、無邪気で可愛いお誘いでしょう。


とても素敵なお誘いでしたが、

「王子さまが旅をお続けになるには、2頭の馬がきっと必要ですわ。」

と、丁寧にお断りすると、王子さまは再び竹馬に乗り、

「そうでしたね。ごきげんよう。パカパカ。」

と言いながら去って行きました。



可愛い王子さまの後ろ姿を見ながら、「王子さま = 自分にふさわしい年頃の人」の方程式を、勝手な思い込みで作っていたことを恥ずかしく思いました。


そこでお姫さまは自分の頭をポカリとひとつ叩き、そして、その仕草を自分で「かわいい!」と思いながら、ひとつの教訓を作りました。


 ―― 勝手な思い込みは、泣き面にハチほどあぶない。 ―― 

「少し変かしら?」

と思いましたが、うまく、ハチとアブを入れられたので良いことにしました。

― 世の中、このくらいアバウトでポジティブな方が幸せに生きていけるのかも知れません ― 



9.森のきまり


竹馬の王子さまの後姿を見送りながら、楽しい会話で1日が始まったことに感謝していると、あの声が聞こえてきました。

「昨日はよく眠れましたかな?」

「あっ、昨日のワタリガラスさんね。そうだ! カラスさん、カラスさん、合言葉を言え。『ひめ・ひめ・ひめ・ひめ!』」

とお姫さまが言うと、

「ひめじじょう!」

と変な答えが返ってきました。


予想外の答えに驚いていると、

「冗談、冗談。『えひめのみかん!』」

と、ワタリカラスが言い直したので、

「よしっ!」

とお姫さまが元気よく言って、二人は大笑いしました。

「今日も心配して見に来て下さって、ありがとう!」

お姫さまが嬉しそうに話すと、ワタリガラスからとまどいの言葉が返ってきました。


「心配して…と言われると困るが…。」

「えっ?」

お姫さまは急に不安になりました。

辺りの空気がヒンヤリ感じられました。

「わしは、様子を見に来たのだよ。生きているのかなぁ、と。」

「なによ、それ! 友達になったから来てくれたんじゃないの!? 」

「いや…、その…。」

「死んでいたらどうだっていうのよ!」

お姫さまの声は震えています。

「わしらも生きていくために食べなくてはならん。森で死んだら森の動物たちが食べる、それが森の決まりじゃ。」

お姫さまの頭の中は真っ白になりました。


せっかく友達になれたと思っていたので、裏切られた気持ちでいっぱいです。


少ししても、言葉が見つかりません。

いくら待っても、言葉がみつかりません。

涙だけが溢れ出て、止まりそうもありませんでした。



10.秘密の暴露


涙と時間だけが静かに流れ続けました。

やがて、お姫さまは、自分も何かを犠牲に生きていることに気づくと、少しはワタリガラスを許す気持ちになりました。


「でも、それを言わなくてもいいじゃない…。」

お姫さまが口を開いたのは、すでに森の向こうに夕陽が沈みかけた頃でした。

「ずっと、友達のふりしていて欲しかったわ。」

お姫さまは口をとがらせました。


「わっはっはー! その位、口をとがらせば、わしらの仲間になれますぞ。わーっはっはー!」

もともと、悪意のないワタリガラスはたいそう愉快そうに笑いました。そうやって凍った空気を溶かそうとしたのです。


「失礼ね! そんなことないわよ! もっととんがってる人、いるんだから!」

「ゲッ! ゲゲゲの鬼太郎、信じられませんな。そんな人間いるわけないじゃろ!」


「いるわよ!」

「わしらみたいなくちばしの人間なんぞいるわけないわい!」


「いるのよ!」

「どこに!!」

ワタリガラスがむきになって聞き返すと、間髪入れずにお姫さまが言いました。

「これ書いている人よ!」

「えええー!!」


「えええー!じゃないわよ。この作者の横顔は、何もしていないのに、口笛吹いているみたいなんだから!」

「えええー! それって、言っちゃっていいの!?」

ワタリガラスの目が泳ぎ始めました。

「なにが?」

「なにがって、もしそうなら、禁句じゃろが!!」



11.大声作戦


「ホントのことのどこがいけないの!」

「だって、これを書いているってことは、偉いんじゃないの?!」

「何、ビビッてんの、臆病ね! 『長芋のマカロニ』だっていうの?」

「それを言うなら、『長いものにはまかれろ』じゃろが。まかれるもまかれないも、作家さんを怒らせたらどうなるか分からんぞ。」

「どういうこと?」

お姫さまはちょっとだけ不安になりました。


「本人が気にしていることを言われて、頭にきて、『眠ったままの森のブタ』な~んて変えられても知らんぞ!」

「ダメ、ダメ、それは絶対ダメ! 第一、ブタじゃないし!」


「わしだって巻き添え食らって、ワタリガラスからワタリテツヤなんて変えられたら、親戚一同に会わせる顔が無くなるわい。ああ、恐ろしくて身震いが止まらん!」

「そうだ、いい考えがあるわ!」

「なんじゃ?」

「こうするのよ!」

そう言ったかと思うと、お姫さまは、

ああああああーー!!

と、森が震えるほどの大きな声で叫びました。

さっき喋ってしまったことを、この大声でかき消そうという魂胆なのです。


じつはこれ、お姫さまがいつもお城で、聞きたくない話をされた時にやっているのです。


例えば、誰かが自分に都合の悪い話を始めると、両耳をふさぎながら、相手が話をやめるまで、大声を出し続けて話の邪魔をするのです。

これをやると、王さまや女王さまでさえも呆れ返って退散していきます。

 ― ものすごい効果があるので皆さんも使ってみてください ― 


でも ―― でも、お姫さまは、これをした後はいつも、そんな自分が嫌になっていました。

とてもわがままで自分勝手に思えるからです。

そんなとき、心の中で響く声があります。


 ―― 何でも手に入る幸せ。何でも手に入る不幸せ ―― 



12.解けた魔法


お姫さまが叫んでいたちょうどそのとき、白馬にまたがった美しい王子さまが現れたところでしたが、そのすさまじい叫び声に怯え、鞭を振って走り去ってしまいました。

またとないチャンスを逃してしまったお姫さまはたいそうガッカリしました。


「もうやけうんちよ!」

「それを言うなら、やけくそじゃろが。そんなところで上品ぶってどうする。」

「放っておいてちょうだい! こうなったら、もう1回、叫んじゃうわ!」

ああああああー!」 

と、やりかけたものですから、ワタリガラスは大慌てでお姫さまの口をふさぎにかかりました。

大声で誤魔化そうとするのは、あまりにも醜い行いです。

ましてや、美しい人にふさわしくありません。

しかし、お姫さまの勢いは止まりません。

そして、力いっぱいワタリガラスの手を振り払おうとしたその瞬間、勢い余って、お姫さまの唇がワタリガラスのくちばしに触れてしまいました。

すると、どうでしょう!

そこに、美しい若者の王子さまが現れたではありませんか!

「あなたは!」

お姫さまは驚きの声を上げました。

「あ、ありがとうございます! やっと人間に戻れました!私はおそろしい魔女の魔法でワタリガラスに変えられていたのです。その魔法があなたのキスで解けたのです!」

王子さまが大喜びで興奮しながら説明しました。

お姫さまの目はまん丸です。

目の前にいるのは、完璧に好みのタイプの王子さまだったので、一瞬で恋に落ちてしまいました。

そこでお姫さまは、すこしドキドキしながら言ってみました。

「でもね、でもね、さっきのはキス…じゃなかったわよね。」

「た、確かに…、一瞬ぶつかっただけでしたね。」


「しかも、それはカラスのくちばしでしたわ。」

「た、確かに。つまり、改めて?」


「はい…」

「では!」

ということで、二人は抱き合い、こんどはちゃんとしたキスをしました。

その時、お姫さまはやさしく目を閉じて、「眠れる森の美女」になりきっていました。

キスを終えると、二人は囁き合いました。

「私の王子さま!」

「私のお姫さま!」


するとそこに、王子さまの白馬が現れましたので、二人はそれに乗り、先ほどの「とんがり口」の暴露話が作者の耳に届く前に、大急ぎで森を抜け、王子さまのお城に向かいました。


お城への道中、お姫さまが王子さまの背中に頬を当てながら幸せいっぱいの気持ちで白馬に揺られていると、王子さまが聞いてきました。

「それにしても、毎日、夜の森は怖くなかったですか?」

すると、驚く返事が返ってきました。

「ちっともよ。」


どういうことでしょう? 

このか弱そうなお姫さまは、そんなに強い人なのでしょうか?


王子さまが困惑していると、ひそひそ話をするときのような、小さな声が聞こえてきました。

「秘密があるの。」

王子さまは再びビックリしました。


「秘密?」

「知りたい?」


「はい!」

「それはね…。」

お姫さまは「フフッ」と笑って言いました。

「お城で寝ていたからよ。」

えええーっーー!!


驚きのあまり、王子さまは馬から落ちて落馬しそうになりました。

「森の中で寝てたんじゃないの!」

お姫さまはいたずらっぽく答えました。

「そんなことしたら危ないじゃない。ばかね。」


二人は大笑いしました。


それからも、二人は笑いに包まれて、いついつまでも幸せに暮らしましたとさ。 


めでたし、めでたし。



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