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最悪の初恋、最悪の失恋

今なら笑えるのに、当時は死んでしまいたいほど辛かったお話です。

私は高校2年生の時に、アルバイトを始めました。
校則では禁止されていましたが、まあやりますよね。

初めてのアルバイト先に選んだのは、自宅から自転車で20分の場所にあるおうどん屋さん。

面接でも答えた、ここを選んだ理由は「うどんが好きだから」
立派な志望動機ですね。

そのお店では、高校生や大学生が複数名アルバイトをしていました。

中学から女子高に通っていた私は、初めて出会う少し年上の男子大学生がとてもキラキラ輝いて見えました。
全員イケメンだと勘違いしていたせいです。

初めはどう接していいかわからなかったお兄さんたちともすぐに仲良くなり、「今度ドライブに行こうよ!」とイケメン(に見えていた)先輩に誘われました。

男性に免疫がなかった17歳の私。
ドライブに誘われただけでその先輩のことが好きになってしまいました。
アホですね。

厳しすぎた母には「バイトへ行く」と噓をつき、先輩とのドライブへ出かけます。
どこへ行ったのは覚えていませんが、車内での会話がとても楽しかったことだけは覚えています。

まだお互いのことをよく知らないので、聞きたいことや話したいことが次から次へと出てきます。
そんな楽しい会話の中で、先輩は今井美樹さんが好きだ、ということが分かりました。

なんと、その時私が一番仲良くしていたお友達が、今井美樹さんにとても良く似ていたのです。
私はこのことを、自慢する気持ちで先輩に話しました。
人の褌で相撲を取りがちなのは、昔も今も変わっていません。

すると先輩、「え!会ってみたい!」

自分の好きな人を一番の仲良しに紹介できる嬉しさもあり、すぐに偽美樹に話をしてみると、先輩に会ってくれることを快諾。
翌週には3人で遊びに行きました。

自慢の友達を先輩に紹介できて、そして好きな人を親友に紹介できて、とても楽しい一日でした。

次の日、学校でも偽美樹と先輩の話をして大盛り上がり。
バイトに行けば先輩と偽美樹の話をして大盛り上がり。

だったのですが、この楽しい時間は長くは続きませんでした。

ある日のバイト帰り、自転車で帰宅途中、先輩の車がハザードランプをつけて停まっているのを見つけました。

「もしかして、私のことを待っていてくれたのかも!」

そう思って車の中を覗き込むと……

運転席に座っている男の人と、助手席に座っている女の人がチューしてる!
そして男の人と目が合う!
するとチューがチュ―ダンされたものだから、助手席の女性も、私に気付く!

車の中でチューしていたのは、先輩と偽美樹でした。

「ごめんなさい!」
なぜか謝ってその場を立ち去る、人のチュー現場を初めて目撃した17歳の私

私は悪くないのに、なぜ謝ったのだろう……
まるで、鍵をかけ忘れているトイレのドアを開けてしまったときのような、悪くないのにとっさに謝ってしまって、後から「なんでやねん!」ってなる感じ。

自分の気持ちが自分で分からないようなざわついた感覚。
私は先輩と付き合っているわけでもないし、偽美樹に怒るのもなんだか違うかな。でも私が先輩を好きなことは知っているはずなのにな。

などと気持ちが整理できないまま翌日登校すると。

できるだけいつも通りに「おはよう」とあいさつした私を、偽美樹は無視しました。

無視されるなんて、初めての経験。
昨日、現場を目撃したときの100倍の「なんでやねん!」でした。
そしてその100倍、悲しく怖い気持ちになりました。

無視をしたのは偽美樹だけではなく、いつも仲良くしていたグループの全員。何が起こっているのか分からないまま、お昼休みになりました。

さあ大変。いつも一緒にランチを食べている友達全員に、私は無視をされているのです。

女子高のランチタイムは、誰と一緒に過ごすかが決まっていたりするもの。
私はいつものグループのところへ行く勇気がなく、一人でお弁当を食べることにしました。

もうこの時点で、死にたい気分。お弁当を開ける気にもなれません。

すると、違うグループの子が声をかけてくれました。
「一緒に食べようよ!」

捨てる神あれば拾う神あり。
失恋するわ、友達に理不尽に無視されるわで、あっという間に人生のどん底気分を味わっていたところ、声をかけてもらえるのは本当に嬉しくて、昨日の夜からずっと我慢していたのかもしれない涙がここで溢れました。

声をかけてくれたクラスメイトが、ランチタイムに教えてくれました。

「偽美樹ちゃん、泉水ちゃんに彼氏を取られたから、無視しようってグループの子に話してたよ」と。

えー!逆だし!
いや、彼氏じゃないけど!

と言う事実を飲み込めるほど大人ではなかった私は、クラスメイトに本当のことを話しました。
このことは当日中に偽美樹を取り巻いていた友人グループにも伝わり、私に対する集団無視は一日で終わりました。

翌日から、一人ぼっちになったのは偽美樹でした。
私は、無視したり仲間はずれにしたかったわけではなく、ただ偽美樹と話をしたかったのですが、偽美樹は一人ぼっちになっても私とは話をしてくれませんでした。

そのまま彼女とは目を合わせることもできず卒業。
不思議なことに、あんなに毎日一緒にいて楽しかった友人なのに、今では名前も思い出せません。

人には辛いことを忘れる能力が備わっていると聞いたことがあります。
でも、事実は覚えているのに名前だけ思い出せないなんて。

老化のせいですね。

親友だと思っていた友人と友人ではいられなくなり、バイト先では先輩と目を合わせられなくなり。17歳のほんの一瞬の初恋は、とても悲しい思い出に変わりました。

と言いたいところですが、今では「なんでやねん!」という気持ちしか残っておらず、けっこう笑えたりもします。

死んでしまいたいという気持ちを初めて感じた経験。
でしたが、笑えるしネタにもできるし、死ななくてよかったと思います。

今、辛いと感じていることも、もう少し大人に、いや、婆さんになったら、きっと笑ってネタにできる時が来るのだろうと思うと、ほんの少しだけ、気が楽になります。

そう思えるようになった、最初の経験だったのかもしれません。

この出来事を、テレビでノンスタイルの井上さんを見るたびに思い出すのは、(イケメン?)先輩の顔を思い出すから。
偽美樹の、今井美樹さんレベルで似てる~!







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