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(舞台感想)ねじまき鳥クロニクル

ねじまき鳥クロニクル(再演)を観ました。
初見です。
村上春樹氏の抽象的な話をどう舞台にするのだろう、と半信半疑でした。
しかし原作の世界が見事に表現されていました。

ダンスと音楽

舞台はダンスと音楽(生バンド)に牽引されていると思いました。独創的でスリリング。片時も目が離せませんでした。
私はたまたまバンドのすぐ後ろに座りまして、鋭いドラムスや管楽器を目の端にとらえることができラッキーでした。バンドは3人と少人数ながら、舞台上のお芝居に匹敵するパワーを発揮されていたと思います。
ダンサーの方は、骨がないの?というくらいの柔軟性でした。柔軟なからだでヌルリと異世界へ移動する様はまさに村上ワールド。お見事でした。

原作と舞台版

原作の文庫本を本棚から持ってきました。発行が平成9年とありますので、26年前です。
村上さんの小説は大体読んでいて好きです。しかし、いつもわからないところがあります。感動して面白かった、と思っても、村上さんが本当に伝えたいことは何だったのか?と正解がわからないのです。
舞台はわかりやすいと思いました。長編をぎゅっと3時間とし、要点をまとめ、解釈を加えてガイドしてくれたのだと思います。それをダンスと音楽で、直感で分かるように表現してくれた。
正解なのかは分かりませんが、舞台版ねじまき鳥クロニクルとして楽しかったです。

印象的な場面が2つありました

加納クレタ

まず最初は、加納クレタがワタヤノボルに汚されるシーンです。衝撃でした。
悲痛な音と、険しいダンスが恐ろしく、辛くてボロボロ涙が出ました。
小説で読むより、ワタヤノボルの“悪”がわかりやすかった。小説よりも増幅されていた感じです。主人公のトオルが、妻を取り戻すためにワタヤノボルと戦わなければならない。そのラストの必然性がよりわかりやすくなったと思いました。

クレタを演じた音くり寿さん、素敵でした。
歌がお上手で、歌い出した瞬間からすごいっ!と思いました。(歌うと思っていなくてびっくりした)
調べると、宝塚ご出身の方なのですね。宝塚ファンの友人に興奮して連絡しました。“恵まれたよく響く美声でうまい方”とのこと。
また拝見したいです。

間宮中尉

そして、もうひとつの印象的な場面は、間宮中尉の壮絶な語りです。戦争の残虐な体験が語られる、原作でも象徴的な場面です。
演者を確認していなかった私は、すごい、これはただ者ではないとじわじわと緊張を増していき、吹越満さんであることに気づきました。
ノモンハンが見え(見たことないけど)、光の洪水が見えると思いました。
静かに、しかしはっきりと残虐性が語られました。
(ミーハーなことを申しますと、吹越さんはとてもかっこよかったです。きっと厳しい鍛錬の賜物なのだろうと思いました。)

最後に

舞台版の明快さは純粋に楽しかったです。頭の中が整理された気がします。
この状態で、原作を読み直したいと思いました。

お読みいただきありがとうございました。


●データ
公演期間
2023/11/7(火) ~ 2023/12/17(日)

会場
東京芸術劇場 プレイハウス (東京都)
刈谷市総合文化センター 大ホール (愛知県)
梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ (大阪府)

原作= 村上春樹
演出・振付・美術 =インバル・ピント
脚本・演出 =アミール・クリガー
脚本・作詞= 藤田貴大
音楽 =大友良英
照明 =ヨアン・ティボリ
音響 =井上正弘
ヘアメイク =宮内宏明
通訳 =鈴木なお、天沼蓉子
美術助手=大島広子
振付助手= 皆川まゆむ
演出助手= 陶山浩乃
舞台監督= 足立充章

出演=成河、渡辺大知、門脇 麦、首藤康之、音 くり寿、松岡広大、成田亜佑美、さとうこうじ、吹越 満、銀粉蝶