2019年M-1を見て思ったこと

敗者復活戦が始まった2019年12月22日の昼間から、終わって数日経つ今まで、ずっと心がふわふわしていて落ち着かない。いや、もっと言えば準決勝を品川の映画館でパブリックビューイングで見たあとからずっと。なんとも言えない高揚とも焦燥とも言えるような感情が胸の奥にこびりついて剥がれなくて、日々の仕事やら家のことやら、やるべきことに追われつつもそれらへの向き合い方に影響を与えているような、いないような、ただ集中できていない瞬間もあるし、逆に今の生活に対して奮起するような部分もあるし。ずっとそんなような時間が続いている。


この2019年のM-1に、なんでこんなに興奮させられてしまったのか。なんでここまで引きずらなきゃいけないのか。世の中でも最高のM-1だったって言われているし、間違いなく、シンプルに「面白かった」からでしかないんだけど、その「面白かった」を自分なりに因数分解して考え込んでいて、思考が止まらなかった。
このモヤモヤを年明けまで引きずらず整理するためにとにかく書き出して行こうと思って、慣れない文章を書いてみていたが、そうこうしてるうちにズルズルと年が明けてしまった。が、一応自分なりに記録し終わった。
Evernoteに書いておくだけにしようかとも思ったけど、2020年は自分を追い込んで行くことに決めたので読む専用だったnoteのアカウントに投稿することにした。


三回戦〜準々決勝
年末の風物詩みたいになってるM-1だけど、実は真夏から勝負は始まっていて、2019年でいえば5040組もの漫才師が参加する一回戦からガンガン振るいにかけられて数を削られていく。「二回戦進出」って、それだけ聞くとまったく大したことないように聞こえるけど実は一回戦を通ることってめちゃめちゃ名誉で、それがアマチュアともなるともうそうそうない(ただ「ラランド」という化け物みたいなアマチュアが出て来てしまったことでこの勘違いはまた加速してしまう気がする)。一回戦を2回エントリーする芸人もいるくらいだ。
そんな一回戦、二回戦を通った漫才師ともなるともうライブシーンではそれなりに頑張った名の通った人たちばかりで、どのコンビ見ても超見応えがある。そしてなんと三回戦はすべて、準々決勝は準決勝進出コンビ以外のネタをGYAO!で視聴できてしまう。
これは2015年のM-1復活の年からこの5年続いている取り組みで、初めは賛否両論あった。いや、今もある。お笑いのネタって鮮度が命で、(基本的には)一度見たり聞いたりしたら二度目以降は極端に笑えなくなってしまう。友達から聞く面白い話も2回目聞くとクソつまんないのと同じ。だから、いまのM-1で「勝つ」には、3本は勝負ネタを仕上げる必要がある、とかって言われるようになった。
といってもこれは芸人目線の話で、僕たち視聴者からすれば無責任に言ってしまえば関係ないことだったりする。テレビに出ている有名な芸人さんのネタも、「関西で話題になってるらしい」とか「新宿の地下お笑いライブシーンを騒がせてるらしい」みたいなコンビも、ツイッターで信頼できるお笑いファンが紹介してるネタも、ぜんぶここでチェックできる。しかも「3分以内」(準決勝は4分以内)という同じフォーマットの上で見比べながら楽しめる。
僕の記憶が確かであれば、いま大人気の金属バットも元はここで世間に見つかっていたと思う。小汚い格好して尖った切り口でしゃべくる彼らの漫才は、まぁふつうにめちゃめちゃ面白いんだけど、特に僕たちみたいなGYAO!でM-1の動画貪ってるニワカお笑いファン達にとっては大好物だった。金属バット好きって言えば通っぽさ出るみたいな時すらあった。
そんなわけでGYAO!は最高で、僕は今年三回戦と準々決勝の動画は全部見て、芸人さんによっては何度も見返した。お笑い好きの友達とおススメを教えあったり、このコンビのどこがどう面白かった、みたいなことを夜な夜なLINEで語り合った。持論だけど、この作業でお笑いは倍楽しめる。「笑う」っていうのは自分の価値観がダイレクトに反映される反射行動だから、その価値観を仲間と確かめ合うのが楽しいのは必然だ。いや、感覚が違った場合すら、それを確かめ合うことが面白い。ちなみにここでの議論は高次元なものになる必要はないしなりようがないんだけど、それでいいと思っている。誰にでも語ろうと思えば語れるけど誰にでもできるわけではないのがお笑いのすごいところで、その「誰にでも」に「語りたい」と思わせた時点でやってる芸人さんたちはみんな勝ちだし最高だ。語ってる僕たちはちょっとだけダサいけど、でも楽しいからいいや。
仲間内のLINEで話が盛り上がったコンビはいくつもあるけど、一番僕たちが夢中になったのは「じぐざぐ」。くだらないダジャレを絶妙な温度感で乱発するボケと、それを切り過ぎず自由にさせ過ぎずで見守るツッコミのバランスが巧みで、僕は三回戦と準々決勝あわせて20回から30回は見たと思う。既にライブシーンでは注目されてるようだし、2020年とても活躍しそうなので楽しみ。ボケのジャンプさんはタメなので、その意味でもこれからずっと応援していきたい。
そうしていろんなコンビを見る中で唯一もどかしかったのは、GYAO!の準々決勝動画に準決勝進出組のネタがないこと。主催からの、勝ち残っている芸人さんへの配慮とはわかりつつ、どんなネタをやったのかがすごい気になった。落ちてる組でもとても良かったネタがたくさんあったので、逆に、彼らがなぜ落ちてしまったのかも気になる。半信半疑な部分もあった。ちょっとしたバイアスがあったんじゃないか?とか。
ツイッターでの情報収集にも限度があった。唯一得られた確かな情報は「トム・ブラウンがめちゃめちゃウケた、テーマは安めぐみだった」ということだけ。いや、めっちゃ面白そうだけど。準決勝絶対見たいわ〜と思ってたところに、2019年から、M-1準決勝でパブリックビューイングが行われることを知った。


準決勝
2019年のM-1は、初の試みとして全国の映画館でパブリックビューイングが行われた。映画館で見るお笑いってどんな感じなんだろう、と思いつつ向かう。正直いまやお笑いブームでもないし、当日フラッと行けばチケット取れるだろう、とナメて映画館に行ったら、その映画館ではパブリックビューイングが行われるシアターがもともと2つだったところ、なんと急遽1つ追加で3シアターになっている上に、その追加のシアターも残り2席しかなかった。焦った。
ぎりぎり滑り込んで取れた席はペアシートで、肘掛は降りるものの2人掛けの席。知らない女の人がとなりに座り、やや気まずい気持ちで開始を待った。客席を見渡すといろんな人がいる。いかにもお笑い好きって感じのひとり男客、ちょっとチャラついた若いサラリーマン集団、キャッキャと開演を楽しみにする女性たち。お笑いのライブ会場とも、行ったことないけどもお笑い番組のテレビ観覧とも違う空気だった。なんというか、みんなリラックスしている。たとえば、ライブも観覧も当たり前に飲食は禁止だけど、ここではビール片手にホットドッグやらポップコーンやら食べてる人がちらほらいた。映画館でのライブビューイング、ひょっとして最高なんじゃないの?と期待していたところで本編が始まった。
でもやっぱりお客さんにも緊張があるのか、画面の向こうの本会場も映画館もちょっと重たい。特に映画館は、何か「映画館で声出して笑っていいのかな?」みたいな妙な空気感があった。というか自分がたぶんそう思ってた。そんなことを知ってか知らずか、M-1予選司会でおなじみのはりけ〜んずが客席をあたためようと明るくトークする。「みなさんは審査員じゃないですから、楽しく笑ってみてくださいねー」
はりけ〜んずってすごい素敵な人たちだと思う。たぶんM-1のこともお笑いのことも大好きだし誇りを持っている。ネタをたくさん見たことがあるわけでもないし、トーク番組でよく見るわけでもないけど、でも司会っぷりから人柄がにじみ出ている。M-1が休止したとき、代替とも言える漫才大会のTHE MANZAI初回2011年で認定漫才師にもなっている。漫才について、愛も実力もあるんだろう。
準決勝のネタスタート前で、はりけ〜んずだけではなく、とある注釈も気になった。何度も何度も「この準決勝で見たネタについて、SNSなどに投稿しないでください。人生を賭けた漫才師たちのために」といった内容がアナウンスされていた。これも、主催側の漫才愛、芸人愛を感じる。そして副次的に、この準決勝を成功させる絶大な効果もあった。
「人に言ってはいけない特別な体験をしている」っていう満足感を見る人に少なからずあたえたのだ。
結論から言ってこの準決勝パブリックビューイング、めちゃめちゃ面白かった!超楽しかった。絶対毎年やって欲しいし絶対毎年いこうと思う。GYAO!再生数でワイルドカードとして選ばれた金属バットからスタートした2019M-1準決勝、最初から一気にギアがあげられた感覚で全組ずっと面白かった。準決勝には殆どのコンビが今年の勝負ネタを持ってきているようで、ネタの完成度も演技も、全組が素晴らしかった。いつのまにか品川の映画館も一体感が生まれていて、ペアシートのことも全く気にならず爆笑していた。最後まで全組面白いまま駆け抜けていった。途中、MCタイムでどうしても我慢できずトイレに行ったとき、何人かがトイレに行く・もしくはトイレから劇場に戻るために全力でダッシュしていた。次の組のネタを絶対に見逃さないために。そのくらいみんなが熱中していた。東京ホテイソン、セルライトスパ、マヂカルラブリー、トム・ブラウン、天竺鼠、カミナリとか、そのあたりは決勝には行かなかったもののネタもウケ方もすごかった。東京ホテイソン、一発目の笑いまでなかなか行かないのでヒヤヒヤしたけど、その一発目にたどり着いた瞬間の大爆発はとんでもなく気持ちよかった。マヂカルラブリーも、今まで見たなかで一番好きだった。マヂカルラブリーの単独とか見てみたいな。意外にネタの幅がある芸人さんだと思う。個人的に大好きなセルライトスパが決勝行かなかったのは悔しかった。ご本人たちのパーソナリティは知らないもののネタはかなり見ている方だと思うんだけど、あのボケのオーラみたいな、空気感みたいなものはみんながみんな出せるものではない。あの感じを持ってる人が僕は個人的に大好きだ。今年の決勝進出者ではダントツでからし蓮根の伊織さん。


決勝に行った9組には全く異論ないし、なんなら「え、こんなガチなの?」と思った。ほぼウケ量順だった気がする。GYAO!のM-1事後番組で麒麟の川島さんが「すゑひろがりずがその空気を作ったのでは」と言っていたけどそれもあるのかな。その結果9組中7組が決勝初進出という大波乱の展開に。決勝経験者の見取り図すら2回目。この時点で、僕と同じように準決勝を見た人はおそらくみんな「とんでもない決勝になるぞ」と、より期待が膨らんだに違いない。
準決勝が終わった後、品川の街を歩くと3スクリーンを満席にしていた人たちが道すがら興奮した口調でネタの話をしていた。僕は別会場でパブリックビューイングしていた芸人の友人と合流して、いかに準決勝が素晴らしかったかを飲みながら語り合った。とある決勝経験のある芸人さんが同じ映画館で見ていたことを知ったので連絡してみると、合流はできなかったものの、その方も大興奮していた。自分も準決勝、決勝に行きたかったはずなのに、純粋にイチお笑いファンの視点、そして出場している友人達を応援する視点で見ているその方も本当に素晴らしいと思った。
とにかく最高の準決勝だったんだけど、一つだけ気になることがあった。あまりネガティブなことは言いたくないんだけど、今年こそ優勝と思われていた和牛が、そこまでウケていなかった。決勝に残らなかったことがニュースになるほど話題になってたけど、他の組と相対で見ると決して意外ではなかった。「落ちたことが意外に思えないような内容であったこと」が信じられない事態だった。敗者復活も、ミキかアインシュタインあたりが上がるのかな、とこの時はぼんやり思ったりもしていた。


敗者復活戦
12/22。いよいよ決勝の日。2019年12月22日時点で、芸歴15年目以下で日本一面白い漫才をする芸人さんが決まる日。昼まで仕事だった僕は急いで家に帰り、テレビの前で、まずはその前哨戦となる敗者復活戦の放送を待った。
敗者復活戦。一度負けた芸人が再度決勝に上がる。その注目度は年々上がり続けて、いまやテレビで生放送までしている。でも振り返れば、2003年のアンタッチャブル、2004年の麒麟は敗者復活から最終決戦まで行ってるし、言わずもがな2007年サンドウィッチマンは敗者復活からの優勝、2008年オードリーも2位で、この2組は完全にここで世の中に「見つかった」。2009年NON STYLE、2010年パンクブーブーは、どちらも前年優勝者ながら準決勝で敗退したものの、敗者復活で最終決戦まで進んだ。2015年からの第2期M-1も、2015年優勝のトレンディエンジェル、そして2016年和牛が敗者復活からの最終決戦組だ。過去大会14回のうち8回、敗者復活コンビが3位以内に入っている。
この状況は準決勝の審査員が責められがちだけどそうとも言い切れなくて、本人たちのその日の調子はもちろん、知名度とか、客層によってのウケるポイントの差とか、そもそもネタが違ったりとか、そういう複合的な原因が絡み合って大きく印象が変化しているところも大きいと思う。結成15年目以内なら誰でもエントリーできる大会で、実績は考慮に入れずその日の漫才がどれだけ面白かったか、のみにフォーカスするってコンセプトだから仕方ない。それに、むしろそこが楽しいポイントだ。一度負けた奴らが決勝メンバー駆逐したら超テンション上がるだろ。それでいいのになんで番組批判側に回る人たちがいるのか意味がわからない。
そんな敗者復活戦、2019年はめちゃめちゃ豪華なメンツになった。ツイッター上では「敗退組のほうが決勝っぽいし面白そう」といった皮肉も目立った(おそらく多数は準決勝を見ていない人が書いてると思う)。
なぜかM-1の敗者復活戦は屋外でおこなわれる。もっといくらでも、場所なんかどうにかなるだろうに、と思うんだけど、あの冬の屋外で勝った芸人さんがギラギラのスタジオに駆けつける感じに気持ちが上がるのも確かだ。
早速決勝経験者のカミナリから始まった敗者復活戦は、準決勝とはまた違った空気感だった。準決勝と同じネタをやるところもあれば、より自信のある勝負ネタをかけたり、逆に遊びに行ってるようなところもあった。四千頭身とかめちゃめちゃ遊んでた。面白かったけど。個人的にはラストイヤー囲碁将棋の潔さが素敵だと思った。錦鯉の完全なるバカバカしさも相変わらず最高だった。今年優勝しないかなーマジで、、錦鯉ってお笑い第何世代になるんだろう。
そのなかで、あれだけのメンツで、全員面白いなかで、ダントツでブッチギリだったのが和牛だった。準決勝とはネタが違った。
和牛が終わった瞬間、直感的に「あー、今年はこのまま和牛が上がって、そのままの勢いで優勝するんだな」と思った。そのくらい圧倒的だった。「不動産屋」なんて100億回見たことある漫才の設定であんなに面白いのには戦慄を覚えた。ふつう、ありふれた設定の漫才は古く見えちゃったり、過去に見た同じ設定のネタが頭の中でチラついたりするので特にM-1では避けられるイメージがある。もしくは設定はベタでもむしろそれをフリにしてボケたり。そうやって、設定の奇抜さや漫才のシステムで勝負する芸人さんは多いけど、和牛は真正面から「これが漫才だろ」と殴りつけてくるようなネタをやっていたので感動した。野暮だけどあえて漫才を要素分解すると、和牛は(狭義の)演出、振付、演技のクオリティが格段に高いと思う。
決勝の放送が始まってから知ったけど、2019年の敗者復活の結果は番組の冒頭ではなく、笑神籤で「敗者復活」と出た時に初めて明かされるシステムだった。ちょっと芸人さんに厳しすぎるだろ、、と思いつつ、スタジオに駆けつけた和牛が大爆笑を2回とって悲願の優勝を果たす姿は想像できすぎたので、「ひょっとして今年のM-1って和牛のためのM-1なのかな、ぜんぶ和牛が劇的に優勝するための流れなのかな」とすら思っていた。


決勝
いよいよ決勝だ。なぜか僕も緊張していた。ここまでちゃんと追いかけたM-1は初めてだった。M-1が仕掛けたコミュニケーションにまんまとやられている。2020年は二回戦とかまで劇場に見にいく勢いだ。
ネタが始まるまでがやたら長く感じた。上沼恵美子さんの、昨年の炎上騒動(被害者)を回収するボケは、無かったらもどかしい、視聴者として絶対欲しかったヤツなのでやってくれてほんとよかった。
ラグビー選手が紹介される。ネタ間にクジを引くらしい。笑わない男がちょっとボケに来てたので個人的には勝手に冷や汗をかいた。日本一面白い人が決まる日なんだから、今日だけは無理してそのテリトリーに踏み込んで来ようとしないでほしい(案の定、好きな芸人を聞かれて「ゴー☆ジャス」とボケてヤバい感じになっていた。でも逆にちょっと面白かった)。


長い前フリが終わって、いよいよ2019年のM-1決勝が始まった。
スタートはニューヨーク。どう考えてもトップ向きじゃない。M-1で歌ネタかける勇気すごいな、と思ってたらちゃんと面白くて点数も高かった。松本さんのコメントは辛辣だったけど、屋敷さんの返しと、あとのやりとりが絶妙だった。M-1終了後の反省会で、小藪さんが「胸張れよ、日本で10位になったんだから。オリンピックに出場しただけでもすごいのと同じだろ、おもろかったぞ」みたいなことを本人達に伝えていて、とても良いなと思った。
かまいたち。ラグビーの人のクジ引きで2組目に。あからさまに濱家さんが嫌な顔をする。本当は後半がよかったんだろうな。そんな顔せず頑張ってー!と思った。始まった瞬間、あ、このネタか、と。2016年の準決勝、敗者復活戦もたしかこのネタで、その時も超面白かったけど、その時以上に太さと鋭さが増している。2組目にしてとんでもない高得点が出た。
そして3組目、ここで敗者復活。やっぱり和牛が勝ち上がった!スタジオに駆けつけた和牛は敗者復活戦と同じ不動産屋の漫才(たぶんマイナーチェンジかけてたと思う)で大爆笑をとって、かまいたちと僅差の2位になった。
敗者復活の時点で、このまま駆け上がって優勝すると思わされて、実際出てきて超面白い漫才して、それでもまさかの2位だったのでめちゃめちゃ興奮した。どんだけレベル高いんだと。最終決戦でどんなネタやるのかな、準決勝のネタかな、いや全然違うネタやるのかな、とワクワクした。
同時に、番組として、あと7組も残してこんな盛り上がって大丈夫かなとこのときは余計なことを心配してしまった。かまいたち、和牛とベテランが続いて(ニューヨークも実は10年目?とかで結構キャリアある方だし)、この後が見劣りしてしまうんじゃないかとマジでほんと超余計なお世話な不安を持ってしまった。
とか思っていると、ある意味このタイミングに一番ふさわしい芸人さんが来た。すゑひろかりず。この場面で一回空気をリセットしつつ楽しい感じにした功績はめちゃめちゃデカいと思う。かつてのテツandトモとか、NON STYLEのリップクリームとかの議論が頭をよぎったけど、ちゃんと「漫才」だったし、楽器と扇子ももはや衣装みたいなもんだったから良いのかな。出囃子に合わせて鼓たたいてるのは良い意味で反則だなと思った。
5組目は大好きなからし蓮根。設定もボケもオーソドックスっちゃオーソドックスなんだけど、オーソドックスだからこそボケの伊織さんのキャラと杉本さんのツッコミの鋭さが際立っていた。最後、キッチリ拍手笑いを起こしていて流石だった。ちなみに杉本さんはとある韓流アイドルにそっくりらしく、そっち界隈でも話題になっていたらしい。イケメンだけどまったく気取らない感じなのも素敵だと思う。
6組目の見取り図は、去年以上の濃度と密度で超面白かった。でも言うほど、盛山さんがブスじゃなくてむしろ見た目も話し方もボケも、噛んだのをゴマかすのも、ぜんぶカッコいいと思っちゃうんだよな。なんなら良い意味のザラつき感あるネタで、今回の全組で一番カッコいい漫才だったかもしれない。個人的には。
7組目のミルクボーイ、、準決勝でももしかしたら一番ウケてたけど、決勝も死ぬほどウケた。「ミルクボーイがM-1の決勝で跳ねた」という事実に興奮する。印象が強すぎて逆に記録する必要があんましない。しかも歴代最高得点か〜〜〜
8組目のオズワルドもめちゃめちゃよかった。和牛のあとのすゑひろがりずもそうだけど、今回のM-1は緩急が心地よかった。オズワルドは全体で考えればその緩急の、どう考えても「緩」なんだけど、オズワルドのネタ自体のなかにも大きく緩急があるので楽しい。細稲垣、やたらスベったみたいになってたけど、この時こそ稲垣って人に振って欲しかったな。振ってたかな?たしか振ってない。なんかタイミング悪かったのかな移動してたとか
9組目インディアンスは序盤でネタ飛ばしたらしいけど、終盤の方しか気づかなかった。こんなこと言っても仕方ないけど、出順をニューヨークと交換してあげたかった。
最後のぺこぱは、漫才のツッコミそのものをフリにしてるぶんハマるかどうかドキドキしたけど、結果めちゃめちゃハマってて気持ちよかった。もしかして、と思ったら本当に和牛超えた。不調な和牛じゃなく、バキバキに仕上がった和牛をイロモノ的扱いのぺこぱがギリギリ超えていったのがアツい。2007年オードリー以来の他事務所、っていうのもアツい。
最終決戦はミルクボーイ、かまいたち、ぺこぱになった。
ぺこぱは1本目終わってすぐ2本目。同じ技法ではあるけど、なんというか中身はちゃんと別のネタになっていたのですごい良かった。かまいたちはまた「どうしてこんなになんでもないことを膨らませて、こんな面白いやり取りにできるんだろう」って漫才だった。ボケの視点の、常識視点からのずらし方が絶妙なんだよな。理が通ってる理不尽というか。最高だった。
そしてミルクボーイが最後の最後、最中かどうかわかんないやつのネタで完璧に大爆笑とって完璧に締めて終わった。
ミルクボーイが圧勝で優勝。

今年はマジで全組、全ネタ面白かった上に、流れというか、ストーリーが出来すぎてるくらいに出来すぎていた。そこに、僕としてはさらに個人的な思い出とか思い入れが乗っかってきて、感動に歯止めが効かなくなってしまった。


GYAO!の三回戦準々決勝でたくさん面白い芸人さんがいることを知って、友人たちとオススメしあって「侍スライス同期なのね!」みたいな話もして勝手に親近感湧いて、自分が年間通して単独に通っていた応援してる芸人さんが落ちてショックを受けて、準決勝PV行ったら全組面白くて、7/9が決勝初進出の激アツ展開でずっと好きだったからし蓮根も入っていて、でもまさかの和牛が入ってないってことで世間が揺れていて、そんなネットニュース見ながら友人と飲んだら「オズワルドは準決勝直前まで調整でライブに出ていた」みたいな話を聞いてカッコイイな、と思って、そしたらLINEでやりとりしてた友人からも「2015年のM-1決勝はオズワルド伊藤さんの家で同期何人かで一緒にテレビで見てたからなんか思うところあるわ」みたいな連絡あってゾクゾクして、数日経って決勝の日、敗者復活で和牛が爆笑とって、決勝始まって、上沼恵美子が前の年のこととか自分のCDの話をして自らイジられに行って盛り上げる最高のサービス精神を示して、ネタが始まって、ずっと売れる売れる優勝する優勝するって言われ続けてでも決勝に来れていなかったニューヨークがしっかり爪痕残して、かまいたちが完璧に仕上げ切った漫才で圧倒して、復活した和牛がまたこれも今までの和牛で一番面白い(※個人の感覚。点数で見ると2018の方がちょこっと上)漫才をやって2位につけて、みんなやりづらくなってるなか「すゑひろがりず」だけがくじ引かれるときに「来い!」って呟いててそしたらマジで引かれて出てってちゃんとウケて、からし蓮根はしっかりらしさを出して、見取り図は「どの体勢からでも倒せる攻撃」みたいなボケとツッコミで超カッコよくて、ミルクボーイはジャンプ漫画の主人公的強さでぶっちぎって2019年末に復活が大ニュースになった2004年M-1優勝者アンタッチャブルのずっと破られなかった最高得点記録を更新して(煽りが「アンタッチャブルが出てる!」って喜びとともに注目されてたたぶん、そこでコメントされてた最高得点も記憶に刻まれてたからより衝撃だった、今回が史上最高のM-1とか言われてるのはこれもでかいと思う)、オズワルドはとんでもない状況だったのにしっかり自分たちの空気を作ってちゃんと色を出して超面白くて、インディアンスは個人的にちょっと苦手だったけど煽りで出てきた1年目の時のツッコミの方の写真とネタ中のボケの方の緊張具合でむしろ好感度が上がって、おもしろ荘で優勝していたぺこぱはシンプルに新しくて見たことないから超面白くて「誰も傷つけないお笑い」とかクソくだらない自分都合の文脈に乗せて偉そうに評価してる奴らとか関係なく最高で、で最後、ミルクボーイがブッチギリで優勝した。

13年前、大学生だった時から実は、ミルクボーイのことを一方的に知っていた。その時から今と同じスタイルのネタでとにかくめちゃめちゃ面白かった。もう1組ななまがりっていうこれまたとてつもなく面白いコンビと先輩後輩と知って衝撃を受けつつなんかよくわからん感情に打ちひしがれて(もともと芸人なりたいとかおもってなかったのになぜか、、)、笑い飯が、2010年にM-1優勝した時だったか、なんかの雑誌のインタビューで「他のコンビでも面白い奴らが予選にいた。ミルクボーイとかななまがりとか」って言ってたのを読んで興奮して、全然違うのに、なんだか自分と地続きのところにM-1がある気がして嬉しかった。
僕が大学生だった当時は、「大学お笑い」という謎の言葉が出現してきたころだった。どうやら今もあるっぽい。名前の通り、大学生がサークルでお笑いをやっている、ってことなんだけど、沢山のサークル同士で和気藹々として飲み会で乾杯の時に「ルネッサーンス!」と叫んでいる様子や、大学生にライブやらせて友達を客として呼ばせれば収支が成り立つじゃん、と気づいた汚い大人たちに利用されてる状況をみて、僕は実力もないくせに捻くれて「悪性ややトンガリ」と化してしまっていた。でも環境を意識しすぎてゴミみたいになってた僕と違い、そんな状況とまったく関係なく、ただただ「面白い人」としてそこにいた「大学お笑い」の世界の人たちが、ミルクボーイであり、ななまがりであり、カズレーザーさんであり、マヂカルラブリー村上さんであり、ハナコ岡部さんであり、さかな芸人ハットリであり。準決勝にいたラランドも最近までそこにいたらしい。ほかにも芸人さんで活躍してる人は沢山いるし、芸人さんじゃなく作り手の方でも活躍してる人がいっぱいいる。


今の方が大学の時よりも断然楽しいし、あのときに戻りたいとは死んでも思わないけど、あのとき近いところにいた人たちがなにかを為している、もしくは為しつつある状況は刺激的で、僕はどうかな、と良い意味でも悪い意味でも考え込んでしまうことが最近多い。
でもまぁ比べるもんでもないし、今まあまあ楽しいのでもっと楽しく、心地よい方向に向かっていくしかないなー、と結論が出たのがこの年末年始でした。


今年はお笑いライブたくさん見に行こうかな。

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