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november / 11月

ジビエの季節

デンマークは、国同士の王室のつながりもありフランスの影響を大きく受けている。言葉もフランス語と近い言い回しがたくさんあるし、食文化もしかりだ。ハンティングを趣味にしている人も多く、特にヴェヌーは王室のとある人が良くハンティングに来る場所として知られている。そんな狩られた動物が、秋には、ジビエ料理としてヴェヌーの唯一のレストランVenø Kroに並ぶこともある。

今日、カイが討ち取られた鳥を4羽持って帰ってきた。ヴェヌーの知り合いに貰ったんだ、と、ニコニコしながら言うカイの手からぶら下がる羽付きのカラフルな鳥達をみて正直驚いたけれども、自然の恵みに感謝しよう!と言われて確かにその通りだな、と思い直した。

カイは巧みに羽をむしり調理して、美味しい一品に仕上げてしまった。

これが、自然の恵みに感謝し、無駄にしないで命を次につなげて行く。そんな自然なことを実践している田舎町ヴェヌーの生活だ。

クリスマスがやってきた

11月のヴェヌーはクリスマス一色だ。クリスマスまでにまだ正味2か月あるけれど、ストゥーア(Struer)の街の郵便局にはクリスマスくじの販売が開始され、クリスマスカードの販売も始まり、あちこちのバス停にはクリスマスビールのポスターが貼られている。先週末にはクリスマスの日(Jule dag)と呼ばれるクリスマスビール解禁日があり、テレビやラジオで宣伝、宣伝、また宣伝。

寒くて暗いと言われるスカンジナビアの冬だけど、クリスマスを前にして楽しい事が盛りだくさんで、そのひとつがクリスマスビール。アルコールの入っていない子供も飲めるラクリス入りビールもある。まずいといいながら飲むデンマーク人になぜ飲むのと聞いたら、「クリスマスだから。これを飲まなきゃはじまらない」。本家本元のアルコールが強めのクリスマスビールは、毎年、11月の第一金曜日の21時にデンマーク街中のバーやレストランで解禁される。クリスマスデザインのラベルが付いたクリスマス限定ビール・ツボルグ・クリスマスビール(Tuborg Julbryg)がショップに鈴の音高らかに配達されて、街中お祭り騒ぎになる。あちらこちらにボスターが貼られて宣伝されるこの日は、ツボルグが行っている毎年のイベントなんだけれども、まるで日本の華やかな頃のボジョレ・ヌーボーの解禁日みたいだ。90年代のボジョレ・ヌーボ解禁日のお祭り騒ぎが毎年行われるイメージとでも言おうか。

ここのところ、日照時間が極端に短くなってきたのだけれど、それとともに、クリスマスのイベントや、イルミネーションや、キャンドルライトがあちらこちらで照らされていて、暗さが逆に嬉しくなるぐらい、とても素敵な雰囲気を醸し出している。

クリスマスのホットワイン

デンマークでは、クリスマスに子供から大人まで皆プレゼントをもらう。当日までお楽しみであることは確かなんだけれども、家族内で「ほしい物リスト」を送り合うのがデンマーク流。デンマークの商店にとって、クリスマスの時期の収益は一年の販売の1/4を占めるとも言われるぐらい、クリスマスショッピングは加熱している。

ストゥーアの街を歩いていて、気がついたことがある。夕方でもお店が開いているのだ。すでに21時をまわっているにも関らずお店が開いていて街中がなんだかざわざわしているのは、このエリアでは本当に珍しい。デンマークと「商魂逞しい」という表現はいつになってもどうもしっくり来ないけれど、この季節ばかりは二つのコトバが完全につながっているみたいだ。

外を歩き回ってちょっと冷えた体には、クリスマスの飲み物ホットワインのグリュック(Gløgg)がちょうどいい。クリスマスマーケットなどでは、大きなお鍋で、暖かい湯気を出してカップで売っていたりするので、ショッピングの合間に体を温めるのに飲むこともできる。

クリスマス・スパイスと呼ばれる、クローブ、カルダモン、ジンジャー、シナモンを加え、レモンの皮をアクセントに、砕いたナッツとレーズンを赤ワインで煮込んだ暖かい飲み物で、お好みでお砂糖の量を調節するんだそうだ。冬、身体を温めるために暖めたお酒を飲むのは日本も同じだけれども、スパイスたっぷりなどが祝い感を盛り上げる。

外はいつ止むともわからない霧雨。じっとりと黒い雲が重くのしかかって、こんな日は家の中でゆったりしているのが一番。

伝統のグリュック / Klassisk gløgg

材料
オレンジの絞り汁 2 dl.
厚めのオレンジの皮 1⁄2 個分
水 2 dl.
砂糖 275 g
ネリカ 5個
シナモンスティック 2 本
オールスパイス(シナモン・クローブ・ナツメグ) 3個
赤ワイン 1本
レーズン 100g
刻んだアーモンド 50g
飾り用のオレンジスライス

■作り方
1.  オレンジの絞り汁、オレンジの皮、水、砂糖、香辛料を全部鍋に入れる。
2.  30分蓋をして温める。
3.  オレンジの皮と香辛料を取り出す。
4.  鍋に赤ワインを注ぎ温かくなったら出来上がり。レーズンと刻んだアーモンド、オレンジスライスを飲むときにグラスに入れる。

ホットワインと楽しむお菓子

冬時間がはじまってしばらく経った。冬至が来るまでしばらくは、毎日日照時間が短くなって行くのだけれども、クリスマスの時期は目に見えて暗くなるのが早くなる。朝起きる時間になっても暗く、朝の空気を感じて目を開けようか悩む。あまりにも窓の外が暗いので、時間を確認したくなくてまだ目覚めていない振りを自分にしてみるのだけれど、やはり自分はだませない。

外暗いね、と少し落ち込み気味に言う私に、軽い調子でルーンは言う。

「キャンドルライトの季節だね。」

デンマークでは、そしてヴェヌーではこの季節は朝からキャンドルを灯す。暗闇の中始まる朝だけれど、キャンドルライトで少しだけ彩りが加わる。キャンドルライトは、家の中の暖かい雰囲気をイメージさせるし、クリスマスの時期の、音一つ聞こえない自然の中のヴェヌーがより引き立つ気がする。ピーンと張っているような冷たい澄んだ空気の中、暖かい家の中が赤と緑のデコレーションで彩られ、北欧のクリスマスの妖精ニッセがあちらこちらにいるクリスマス。暗くて寒いはずの冬だけれど楽しくなってくる。

暗くなって来た午後の昼下がり、「ハッピーアワーだよ」と、呼びに来るのはいつもカイ。まだ16時だけど...と思いつつもダイニングに行くと、メランコリックな雰囲気に明かりをともす自家製グリュック。そんなホットワインにはよく似合う、クリスマススパイスを大量に使ったクライナーが出来上がったところだ。クリスマスの時期に食されるジンジャークッキーとドライフィグ、クライナーとグリュックで、午後のひと時をのんびり過ごそう。

クライナー / Klejner

材料
マーガリン 100g
牛乳 2 dl
イースト 100g (2パック) 卵1個
砂糖 大さじ 4
塩 小さじ1⁄2
カルダモン 小さじ 4
小麦粉 500g
菜の花油(ヴェジタブルオイル揚げ用)  1 L

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ヴェヌー島での豊かな生活の一端を、デンマークの文化とともに皆さんと共有したいと思います。

ヴェヌー島の人たちは、先端技術を上手に利用しながら自然に触れる生活をしています。 季節の変化に繊細に対応し、春の訪れや秋の実りに感謝しなが…

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