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世界最大の木造建築:サラカルチャーハウス(Sara Kulturhus)

サラ・カルチャーハウス

スウェーデン北部のSkellefteå(フレフティオ)市*に2021年9月8日オープンしたサラ・カルチャーセンター(Sara Kulturhus)は、20階建て、80メートルの世界最大の木造建築である。完成時のカルチャーセンターは、2つの演劇場(地域シアター)、美術館(Anna Nordlander Museum)、ギャラリー(Skellefteå Art Gallery)、ホテル(The Wood Hotel、2021年10月中旬開業見込み)、市立図書館、コンファレンスセンター、そして、人々が集うリビングルームとしてのインドアパブリックスペースで構成される。

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建築デザインは、White Arkitekter, Skelleftea Municipality, 2021年秋竣工、3万M2で、写真からも明らかだが、非常に開放的な空間が木造で作られていることに驚きを隠せない。

フレフティオ市は、もともと林業が盛んな北極圏の少し南に位置する自治体である。ウメオよりも北で、ヨックモックよりも南。私の友人が住むルレオとウメオのちょうど中間にある。東は対岸にフィンランドを見ることができるが、北極圏にもほど近い。今まで誰が注目してきただろうかと言いたくなるほどの何もないというか、自然に囲まれたエリアだ。

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高層木造建築が可能になった背景

近年の工学木材の進展により、今までにないほどの木材利用の可能性が広がっているんだそうだが、林業が盛んであるこの地では、オリジナルの木材資源開発が積極的に行われてきた。本プロジェクトでも、地域の大学とのコラボレーションにより新しい建築方法が模索され、その点も注目されている。その柱となっているのは、構造エンジニアFlorian Koscheとのコラボにより提案された2つのハイブリッド建築法である。その提案手法は、一つはカルチャーセンター、他方はホテル建設に活用されることになった。ハイブリットとは木材と鉄の混合利用の事で、二つのエレベーターの軸に使われるcross-laminated timber (CLT)モジュールglue-laminated timber (GLT) pillars and beamsが高層木造建築を可能にしているという。

私は、専門家ではないのでわからないことが多いが、木造で高層建築をつくるためには、それなりの強度が求められるだろうし、苦労は多いだろう。ただ、「木造である」ということが発するメッセージは、現代社会においてとてもつもなく大きな影響を与えることは想像に難くない。

地に足のついた、地域に根付くプロジェクト

サラ・カルチャーセンタープロジェクトは多くの意味で、地域性を重視し進められてきたという点も注目だ。地産地消、地域の素材を生かしつつ、地域の人材を使い、地域の活性化や産業育成につなげるということは、今まさに世界中で求められていることだろう。トロントのサイドウォークがぽしゃった原因も、一部の土地に根付かない大企業が利益やデータを独占することへの地元住民の嫌悪感とそんな経済の回し方でいいんだろうかという素朴な疑問から生まれているように思う。

サラ・カルチャーセンタープロジェクトでは、まず、地域の林業が、本プロジェクトに大きな役割を果たしている。サブコントラクターの多くは、地元企業であり、地元企業の地域の働き手がプロジェクトに関わっている。また、サラ・カルチャーセンタープロジェクトに使われる木材は地物で、Skellefteå市近郊で伐採された丸太が利用されている。そして、建築の際に使われる手法は、地元で提案された建築技術である。

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エネルギー効率も

北欧の新しい建築プロジェクトでは、すでに常識となっていることかもしれないが、サラ・カルチャーセンターは、とことんまでエネルギー効率が考え抜かれた建築群でもある。第一にエリアの自然環境にも十分配慮した周囲の自然との融合が目指されていることはもはや言及する必要もないかもしれない。緑化された屋上は温室効果が期待され、騒音吸収機能も果たす。

実は、フレフティオ市は、少し前から発展が目覚ましいと注目されているエリアでもあった。ノースボルト(Northvolt)**が工場を建設したことで、地域に大量の雇用を生み出し、街全体が活性化されたのだ。北の辺境にあるフレフティオ市に建設されたノースボルトの工場は、完成時には2500人の雇用を生み出し、さらにサプライヤーや関連サービスの雇用を含めると一万人に上ると試算されている。雇用創出は、多くの新築住宅のニーズを生み、2021年現在、スウェーデンの住宅大手の投資が集中している。このように、ノースボルトの工場建設は、雇用だけにおさまらず各分野に波及し、フレフティオ市への公民投資は、市民の一人当たり計算では、スウェーデン全都市の中で最大の投資額となっている。2030年までに6千億スウェーデン・クローネ(約7兆6千億円)の投資が見込まれている。

今後のフレフティオ市とサラカルチャーハウス

現在、小都市に過ぎないフレフティオ市であるが、今後、当初の想定を大幅に超える10万人都市になることが予想されている。たかが建築物であるが、都市のランドマークとなるだろうサラカルチャーハウスは、人々のためのサステナブルシティのシンボルであり、その都市の形を一瞬で変えてしまうぐらいの強いメッセージ性を持った主張する建築であるといえる。
サラカルチャーハウスは、「これが未来の都市である」と静かではあるが主張し、この街に住む人たちが自分たちが目指したいことに一歩近づくことのできる新しいモニュメントなんじゃないだろうか。

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*フレフティオ市:フレフティオ市は、現在7万2千人の人口を抱える小規模な地方都市である。自治体は、2030年までに8万人都市となることを目標としてきたが、毎年この値の上方修正が求められている。ニーズに応えるため、現在、街中心部に5千戸の新規住宅の建設、郊外に3全戸の新規住宅の建設が進む。
**ノースボルト:EV車及び産業用のリチウムイオン二次電池(以下LIB)を開発、製造。欧州のサーキュラーエコノミーの施策への対応を着実に事業に取り込んでいる革新的な企業としても有名で、企業価値を高めている(参考)。

写真は、主にWhite Arkitekterより

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