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メルカリの人的資本情報開示は何がすごいのか~男女の賃金格差解消からみる本気の改革


2023年のノーベル経済学賞

大学院で経済学のゼミに入っていたこともあり、私にとってノーベル経済学賞はいつも気になる話題です。2023年のノーベル経済学賞は、米ハーバード大学教授のクラウディア・ゴールディン氏が受賞しました。経済学賞で女性の受賞は3人目であり、単独では初めてとのこと。
クラウディア氏は女性労働の歴史と男女の賃金格差についての様々な研究をしており、米国の200年におよぶ労働統計などから、高かった女性の労働参加率が工業化により一時、低下し、経済のサービス化で再び上昇したことなどを明らかにしました。賃金格差の要因を分析し、男女の教育水準や職業が同じでも格差が生じており、主な要因は子どもの誕生である(先進国で共通してみられる「チャイルドペナルティー」と呼ばれる現象)と指摘しています。このように、グローバルな課題として、男女の賃金格差に注目が集まる中、日本においてもその格差を開示するなど、人的資本を定量的に測定し、公表することがスタートしました。

メルカリの人的資本情報開示の内容

メルカリ社の開示は、ESG推進に向けて2023年度に取り組んだ活動とその結果をまとめた「FY2023.6 Impact Report」の中で触れられています。元々は、「Sustainability Report」という名称で、いわゆるESGの取り組みとその進捗を報告するレポートです。

メルカリでは、組織内の男性と女性の平均賃金の差のみを示す「男女間賃金格差」のほか、より状況を正確に把握するために、役割・等級や職種などによる差に起因しない「説明できない格差(unexplained pay gap)」の算出も行っています。その結果、男女間賃金格差は37.5%、役割・等級や職種などの差に起因しない「説明できない格差」が7%存在したことがわかりました。特定された「説明できない格差」は是正措置で報酬調整を実施し、2.5%まで縮小することができました。今後も、重回帰分析を使用した定期的な賃金格差のモニタリングや、組織外からの賃金格差を引き継がないための採用プラクティスの見直しなど、継続的な取り組みを実施していきます。

株式会社メルカリ 2023年度版 「Impact Report」より

シンプルな男女の賃金格差は、組織内で平均値をとって比較することで算出ができます。しかし、これは、役職者や賃金の高いポジションに男性が多い場合、男性の方が高く(今回は37.5%)なります。これを、役割・等級や職種が同じであった場合に、男女の賃金格差があるかどうかを見たとき、7%の差があることが分かった、ということです。これをメルカリは説明できない格差として、是正を行いました。

重回帰分析による検証

重回帰分析とは、ある結果(目的変数)を説明する際に、関連する複数の要因(説明変数)のうち、どの変数がどの程度、結果を左右しているのかを関数の形で数値化し両者の関係を表し、それを元にして将来の予測を行う統計手法のことです。つまり、メルカリでは、男女の賃金格差を説明する際に、役職、等級、職種以外のもので決まっていないかどうかを、統計的に算出をしたということになります。人事の統計的なアプローチとして、透明性のある算出をしていると感じます。

男女の賃金格差の本質は何か

説明できない格差は、入社時の給与が男女で9%違う(これもまた説明できない)、というところから派生していることが分かりました。つまり、前職の給与を参考に、メルカリでの給与を決めたことにより、過去の男女賃金格差を再生産していた、ということです。これは、採用業務を担う私としても、大きな衝撃を受けました。当たり前のように確認していた応募者様の前職給与ですが、そこにはバイアスが含まれた金額になっている・・・。それだけで判断してはいけないと、改めて気づかされました。そして、メルカリのケースでも、エンジニア職には説明できない格差は見られなかったそうです。社会全体がジョブ型雇用になっていく中で、より一層スキル、ポジションに人が紐づく(人の性別はそこには関係ない)流れになっていくのだろうと思います。

情報開示の効果

まず、これからメルカリを受ける応募者の方にとって、大きな影響があると思います。多くの方が前職給与のバイアスにとらわれず、新しい仕事に挑戦できるようになります。次に、投資家へのメッセージです。男女賃金格差に本気で取り組む姿をアピールできているため、ESG投資の点でも一定の評価がなされると思われます。

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学びの秋、私も新しい資格を取得するべく、勉強をしています。来月のテーマは、勉強方法について、書いてみたいと思います。

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