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御神輿にはかみさまがのってるんだよ

「ぃぇえええーーーー?!しょーなのっ?!」

御神輿にはかみさまがのってるんだよ、と教えてあげたら娘が全力でびっくりしていた。そう、御神輿にはかみさまがのっているの。

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今年は地元の祭りが無くなった。神事は斎行されたけれど神輿の渡御や万灯の引き回しは無くなってしまった。町内で新調した衣装の出番も無くなってしまった。毎年7月末に開催されていたお祭り。毎年太鼓を叩くのに命をかけていたし(小学生の中に30半ばのおばさんがひとり入っていくのは勇気がいる)、今年は夏が来ないうちに終わってしまったような、そんな気持ちだ。

私が住んでいる地域は秋祭りが多い。9月の中旬から毎週末はどこかの神社で祭礼が行われている。いや、行われていた。無類の祭り好きとして、一昨年も昨年も幼い娘を抱っこしながら毎週お祭りに参加した。
祭りばやしの振動、神輿を担ぐ人の声、提灯の燈り、目移りしてしまう出店、たくさんの人が笑う神社の境内。

私はお祭りが大好きだ。

***

連休は娘と自転車に乗り少し遠い公園に出かけた。普段はいかないところを発掘しようと思ったのだ。その途中、どこからか祭りばやしが聞こえてきた。
音を追って自転車を走らせると、路地を行くトラックが見えた。荷台には氏子のおじさんたちと共に御神輿が鎮座ましましている。

「おみこしいるねぇ!」

自転車を止めトラックを一緒に眺めていた娘がそう言った。
そうか今年は担げないからこうやって町内をまわってるんだな。お祭りの音を流しながら。トラックは小さくなっていたから気づいてもらえないのはわかっていたけど、御神輿に手を振った。

***

「ぃぇえええーーーー?!しょーなのっ?!」

再び目的地へ自転車を走らせながら、御神輿にはかみさまが乗ってるんだよと娘に教えてあげたら、娘ちゃんも手を振りたかったぁと暴れ始めた。まもなく3歳になる幼児が暴れると安全運転にも支障が出るレベル。なんとかなだめながら公園につくと先ほどの癇癪はどこへやら、ぴゅーっとお砂場へかけて行った。8月の猛暑とこのところの雨模様で公園に来ることが久しぶりだ。砂場、すべりだい台、鉄棒、ブランコ・・・心のままに遊ぶ娘の顔は満面の笑みだった。

連れてきてよかった。心の底から思えたのは最初だけで。エンドレスにもほどがある。何度目か数えることもできなくなったすべり台を見ながらいつ帰れるんだろうと考えていた。そろそろお昼になるし帰ろうかと声をかけようとしたら聞き覚えのある音が聞こえてきた。

太鼓の音だ!

娘ちゃん!御神輿がくるかもよ!てって振れるかもよ!と慌てて娘に伝える。だんだん近づいてくる音。歩道に出て二人で待つ。

「きたー!」

2台のトラックが木陰のカーブから顔を出した。祭ばやしをながす1台目と、後ろに続くのはおじさんたちと御神輿が乗った2台目だ。
2人で手を振る。

「ばいばーい!」

みんな手を振り返してくれた。トラックが見えなくなるまで手を振る。

***

今年はみんなで集まって賑やかにかみさまを迎えることができない。それでもかみさまはそこにいる。私たちが気づかなくても町をまわって見守っていてくれる。御神輿はかみさまの乗り物。町のすみずみまで出掛けてみんなを見守るための乗り物。

そうです。
御神輿にはかみさまがのっているんです。

今日も当たり前の幸せに感謝を。

最後までお読みいただきありがとうございます。娘のおやつ代にさせていただきます…!