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あなたの知らない千と千尋 第2回「車に関する謎 車中編(その1)」


この映画は、本当に不思議な映画です。

特に前半部分には意味深なシーンやセリフが多く、色々な場面にメッセージが込められているかのようです。ではその不可思議な世界へとご案内いたします。

映画は冒頭、スイートピーの中に埋もれるメッセージカードのアップから始まります。「ちひろ 元気でね また会おうね 理砂」と幼い字で書いてあります。スイートピーの花言葉は「門出・別離」で卒業式によく使われます。

やがて映像には、車の後部シートで花束を抱えうたた寝している少女が登場します。ちひろです。運転席に父母が座っています。運転している父(昭夫35才)は左側に座っています。つまり外車です。後部座席には紀伊國屋の紙袋。なんとなくお金持ちの家庭だという雰囲気です。父は「ちひろ、新しい学校だよ」と声を掛けます。「きれいな学校じゃない」とまるで他人事のように母(悠子35才)の声が続きます。ちひろは面倒くさそうに体を動かし、外を見て「あっかんべー」をします。「あっかんベー」は、奈良時代から行われていた古い風習で、瞼を下げて赤目を見せ、舌を出して相手を拒否する表現です。

つまり、映画は「別れ」と「拒否」の場面から始まります。この二つのキーワードはこの映画の全体にかかわる問題です。

やがて、ちひろは抱えていた花束がしおれてきていることに気が付きます。母親に「お花しおれちゃった」と叫びます。花がしおれるのはいい兆候ではありません。「天人五衰」(てんにんのごすい)といい、天界に住む天人が、長寿の末に迎える「死」の五つの兆候の中に、頭上の花がしおれるという項目があります。

お花と車、そして死。葬儀の霊柩車を思い浮かべます。この車が向かっている先はどこなのでしょうか。死という別れを拒否しながら死に向かっていく私たちと重なり合うような気もします。

花が枯れたことを気にするちひろに対し、母は「ずっと握りしめいるんだもの」と平然に突き放します。母は「もうシャンとしてちょうだい、今日は忙しいんだから」とちひろとの会話を強引に終わらせます。

どの親も「ちゃんとして」「急いで」「もういいかげんにして」「忙しい」といった言葉を子供に投げかけます。この言葉こそ相手を拒否する言葉です。この母親はどこかちひろを拒否しているような態度や言動があります。

母に拒否されたちひろは、窓の外を見ます。車外の景色の中に、数々のお店の看板が登場します。「鎌田鳥山」「とんかつみのや」など、多摩や八王子あたりに現実にあるお店です。その中にパララフィクスという看板が出てきます。あまり聞いたこのないこの言葉、正式にはパララックス効果という写真用語で「視差」(実際に撮った写真とカメラのファインダー内の像とがずれて写る現象のこと)という意味です。なぜこのような看板が出てくるのでしょうか。父母子の三人の気持ちが「ずれて」いるという意味なのではないでしょうか。実はこの映画、ずれを直すことがテーマです。人とのずれ、意識とのずれ、時代とのずれ、この世とのずれ。いろいろなずれがこの後も展開していきます。

無意識にずれを感じているこの家族は、そのずれを直すことができるのか。それともずれたままなのか。

この続きは次回のお楽しみ。

to be continued
大乗山 経王寺「ハスノカホリ no.49」より

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