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〈新連載〉ビデオグラファー奮闘記 #1 『映像分析したつもりが全然できてなかった話』

この記事は、フリーランスのビデオグラファーたちが、人の心を動かす映像を作るため、共に学び、成長していく様子を綴ったものです。これから定期的に配信していきますので、ぜひご覧ください!

勉強会のテーマ「感動する映像分析」

株式会社Happilm(ハピルム)は、「この世界は、美しい」という信念のもと、 ぬくもりある有機的な映像づくりをめざすドキュメンタリーフィルムカンパニー。昨年より、私たちの映像づくりに共感してくれた若手ビデオグラファーたちが、Happilmで修行をスタートし、様々な現場で学んでいます。その一環として、今年1月から勉強会を開催することに。

テーマは「感動する映像分析」。自分が感動した映像の分析を行い、感動を生み出す要素は何なのか?それぞれがプレゼンしていきます。初回に集まったのは4人のビデオグラファー。そして、数々のドキュメンタリー作品を手掛けてきた彼らのメンター、モクモクさんも同席しました。

さて、どんな勉強会になったのでしょうか?

◆Chapter 1◆
企画ではなく、演出を見よ!

まずはペンギンさんのプレゼンから。

ペンギンさん:僕が分析したのは、東京ガス家族の絆「母とは」篇です。

モクモクさん:これは僕もとても好きな作品で、感動する映像として昔から有名だよね。では、「感動」を生み出す要素について、どんな分析をしたのかな?

ペンギンさん:ストーリーがとても感動しました。数々の母親あるあるエピソードが自分の体験にも重なるところが多く、共感度が高いからこそ感情移入できるのだと思います。特に「いつのまにか歳をとっている」というセリフは一番グッときました。自分も久々に帰って母親と再会した時、シワが増え、どこか疲れている顔を見て、元気だった両親も歳を取っていくんだとハッとしたんです。その時の感情と重なって心が動かされましたね。

モクモクさん:確かにストーリーは感動するね。ただ、その感動の要素って「企画」の部分じゃないかな。僕らビデオグラファーに一番必要なのは「演出」なんだ。いくら企画の分析をしても「演出」の力は身につきづらい。母と息子のストーリーにどんな「演出」を施しながら映像化しているのか、その部分を僕らは意識して見るべきじゃないかな。ビデオグラファーとしての力の差というのは、企画力の差ではないはず。

ペンギンさん:確かに!ストーリーや企画ばかりいつも見ていた気がします…。似たような企画の映像って世の中にたくさんあるけど、クオリティが全然違うのは、その演出が違うからなんでしょうか?

モクモクさん:その通りだよ。同じ企画であっても演出が違えば、全く違う作品になるんだ。その視点でもう一度考えてほしい。感動を生み出すために、この作品にはどんな演出があると思う?

ペンギンさん:前半は、母が少しうざくも感じるようなあるあるエピソード、そして後半はそれがありがたいと気づくエピソードになっていて、ストーリーのギャップを作っている点でしょうか?

モクモクさん:ストーリーにギャップを作る。ギャップが大きいほど変化も大きくなるから、確かにドラマッチックになるね。演出として、ストーリーの棲み分けを行ったのかもしれない。他には何かある?

ペンギンさん:この1:10のシーンだけ他のカットと違ってヨリで撮っていて、お母さんのシワや表情が見えることですかね。

引用:https://youtu.be/pnZr3tQTjWg(1:10〜)

モクモクさん:そうだね!ここだけ母との距離感が急に変わる。それまでフルショットかバストショットぎみで見えていた母が、はじめてクローズアップされたね。他にもこのカット周辺で気が付くことはない?

ペンギンさん:音楽が盛り上がっています。

モクモクさん:そう。音楽がこのカット直前にピークを迎えている。さらには、先ほど発表してくれたストーリーのギャップもここにあたる。これらが一度に連鎖しているから、より感動できるんじゃないかな。これらは、まさに「演出」だよね。

ペンギンさん:たしかに。言われてみてばそうだなと思うことばかり。でもその視点で見れてなかったです…!

モクモクさん:では、なぜこの演出が視聴者を感動させるんだろう?そこまで考えられたらいいよね。例えば、アングルについて。カメラの距離は心の距離と同じなんだ。実際に母が目の前に立つとドキッとするでしょ?それまで遠くにいたのに、急に近くに来るから、視聴者も感情の振り子は大きく動くはず。このあたりがきっと演出として作用していると思う。それにレンズ選びもちゃんと意味があるはずだよ。望遠レンズで撮るのか、広角レンズで撮るのか、画面上の母の大きさは変わらなくても、レンズが違えば母の印象は全く変わるよね。近づいた母を何ミリで撮影するのか、これも演出の一つ。ちなみに、この作品がより視聴者の心に届きやすいのは、息子のネクタイを締めようと母自身が近づいている点にもある気がする。カメラから近づいたわけではなく、演出とストーリーがうまく紐づいて自然なシーン展開になってることも重要なポイントだと思う。

ペンギンさん:僕の見方は作り手の視点ではなかったですね。ただの視聴者の感想だったなと…。

モクモクさん:ストーリーや企画だけを見るのではなくて、感動を作り出す演出要素を分析してほしい。何が正解かは分からなくても予想して考えることが重要。その上で、学んだ手法を自分の作品でも再現してみてほしいんだ。その繰り返しが、確実な成長をもたらすと思うよ。

ペンギンさん:一人で作品を見ているだけでは、気づけなかったです!

▲学びをノートにメモするビデオグラファーたち

「企画」ではなく「演出」の視点で分析することの大切さを学んだ4人。
続いて、ツナマヨさんのプレゼンに移ります。

◆Chapter 2◆
感動ファクターを言語化しよう

ツナマヨさん:僕が分析したのは、カロリーメイトの「入学から、この世界だった僕たちへ。」です。

ツナマヨさん:一番感動したポイントは、学生の本音が曲のサビで吐き出されていく部分です。マスクの中にある彼らの想いが溢れていく表現にグッときました。
この映像を参考に自分が感動する映像を作るとしたら何をすべきか?と考えた時、まずは当事者たち(この映像においては学生たち)にインタビューをして想いをしっかり汲み取ることが必須だと思いました。そこで知るリアルな想いがコンセプトにしっかり落とし込まれていないと心が動く映像にはならないんじゃないかと。

モクモクさん:プレゼンありがとう。では「なぜ感動したのか」を深掘りして説明できるかな?ここでは感動を生み出す演出要素を「感動ファクター」と呼ぶことにしよう。それは、構造なのか、カットの順番なのか、音楽の展開なのか、何が感動ファクターなのかを具体的に言語化してみて。

ツナマヨさん:あえて彼らの声じゃなくて、歌詞とリズムを使って洪水のように想いが溢れる様子を表現している…とかですかね?

引用:https://youtu.be/k16g8p4GUE0(3:01〜)

モクモクさん:それも一つの感動ファクターかもしれない。じゃあなぜ彼らの声ではなかったのか?なぜ一人の深い想いではなく、多くの学生の想いを取り上げたのか?と考えてみてほしい。それに、感動ファクターはきっともっとあるはずなんだ。サビで感動したのなら、イントロや前半にもファクターはあるはず。前半で整えられた気持ちがあったからこそ、後半の溢れる想いに感動できたかもしれない。じゃあそれは具体的に何だったのか。自分が感動した理由をどんどん深掘って言語化できるように心がけてみよう。いずれ演出プラン上や撮影・編集の過程で、こういった感動ファクターをはっきりと言語化する必要が出てくる。言語化する力はビデオグラファーとして絶対に必要なことなんだ。

ツナマヨさん:うまく答えられない…。まだまだ言語化力が足りていないですね…。感動ファクターを分析する癖をつけたいと思います!

◆Chapter 3◆
木を見ず、森を見よ!

ツナマヨさん:構造を見るためにPremiereに素材を入れて分解してみたのですが、リアルなテイクシーンとメイクシーン(※)が混ざっている気がしました。空気感がなんか違うというか。なぜなんでしょう?

▲実際にPremiereに取り込んだ上、カットを切り出して分析

※撮影の仕方は「メイク」「テイク」と区別できる。「メイク」=撮影がなければ存在しないモノやコトを撮ること。「テイク」=撮影関係なくあるモノやコトを撮ること。例えば、部活シーンを撮る場合、実際の練習の様子を特に指示することなく撮らせてもらう場合は「テイク」。一方、特定のアングルで同じ練習や動きを何度もやってもらったり、表情を指示したりしながら撮るのは「メイク」。

モクモクさん:作品全体のリアリティを担保するために、メイクとリアルを混ぜているんだと思う。朝のシーンや通学、カメラとの距離が近い部活シーンといったストーリー上、必要なカットはメイクで撮っているよね。もしメイクだけだったら、フィクション映像になってしまう。視聴者との距離感が生まれるのを避けるための演出として、テイクで撮った実際の練習シーンを混ぜて作品全体のリアリティを高めたんじゃないかな。こういった作品全体に関わる方針も、演出の一つだよね。望遠レンズで撮られたテイクは、この作品の中ですごくワークしていると思うな。

引用:https://youtu.be/k16g8p4GUE0(4:20〜)このカットはきっとテイク

モクモクさん:映像分析において、要素を一つ一つ見ていくことも大事だけど、こんな風に一歩引いて全体を俯瞰することも大切なポイントになる。木を見ず、森を見るということ。

ツナマヨさん:それ、いつも僕ができていないことです…。色やアングルなど細部ばかりこだわってしまい、結局全体を見れてないというか、何をどう伝えたい映像なの?という一番大事な部分が疎かになっていました。今回、結構頑張って分析したつもりが、そもそもまともにできてなかったですねこれ…。有名な作品から何も学べていない。そりゃ成長しないわけだ。反省。

▲他の二人もそれぞれ感動した映像についてプレゼンしました

映像を分析をする際の視点や学び方の基礎をメンターから学んだ4人。
今回の勉強会で挙がったポイントはこちら。

次回の勉強会では、この3つの学びを活かして新たに分析した結果を持ち寄ることになりました。さて、次はどんな勉強会になるのでしょうか?

人の心や温かさの本質は時代が変化しても変わりません。
だからこそ、名作は受け継がれ、時代を越えても多くの人の心を動かします。
名作を分析すること、それは成長への近道です。

第二回の記事もお楽しみに!


▼Happilm公式YouTubeもぜひご覧ください!


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