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[インタビュー] 北欧音楽、シェーンベルク、『子供と魔法』 1926.2.9

音楽も生き方もエキセントリックだったフランスの作曲家、モーリス・ラヴェル。友人や家族に宛てた手紙、他の作曲家についてのコメント、レクチャーやインタビューなどシリーズで紹介します。
ファンタジー小説、評伝、ラヴェル本人の残したものの3部門で構成されるプロジェクト「モーリスとラヴェル」の中のコンテンツです。

北欧音楽がフランスに与えた影響について
Svenska Dagbladet (スウェーデンの日刊紙、SvDと表記される)
1926年2月9日掲載、記者名なし

(SvD)著名にして卓越した近代の作曲家の一人であるムッシュー・モーリス・ラヴェルが、スウェーデン生まれの歌手、マダム・アルバールと共に、ストックホルムにある室内楽協会を訪問した際、お会いする機会がありました。今週木曜日に、コンサート・ソサイエティにて、ラヴェル氏は自作の楽曲をいくつか指揮する予定です。

M.R.:北欧を訪れるのは初めてなんです。でも今回の旅はほんのちょっと寄るだけで、1週間のうちにイングランドとスコットランドでもツアーがあるんです。そのあとはフランスに戻ります、仕事があるんでね。

(SvD)仕事とは、もちろん、ラヴェル氏は作曲することを指しています。

M.R.:12歳のときから、50歳の今にいたるまで、作曲以外のことをしてきてないんです。わたしはピアノをシャルル・ウィルフリッド・ド・ベリオから、作曲をガブリエル・フォーレから学びました。誰の影響を強く受けたかって? モーツァルトを愛しましたし、ドビュッシーを尊敬しました、、、いや、今もです! それから?

SvD:北欧の音楽はフランスで評価されているんでしょうか?

M.R.:こう言わなければならないのは残念ですが、フランスの音楽界一般では、あまり興味をもたれてはないです。ただグリーグとヨハン・スヴェンセン*については、他の北欧の作曲家よりずっと、フランスの楽曲に与えた影響は大きいんじゃないかと思ってます。スウェーデンの近代作曲家の中では、唯一、若手のヴィキング・ダール*しか知らないのです。数年前にスウェーデンのバレエ団による彼の『精神病院』を見ました。その音楽を非常に興味深いと感じましたし、フランスの様式の影響があると思いました。
*ヨハン・スヴェンセン:ノルウェーの作曲家、指揮者、バイオリン奏者(1840〜1911年)。
*ヴィキング・ダール:スウェーデンの作曲家(1895〜1945年)。バレエ音楽『精神病院』は、1920年11月8日、パリにて初演された。

(SvD)フランス以外でいうと、近代音楽、中でもアーノルド・シェーンベルクについて、この物議をかもしている現存のウィーン人である偉大な作曲家を、ラヴェルは認めていることを隠しませんでした。

M.R.:ストラヴィンスキーでさえ、シェーンベルクの影響があります。ロシアについては、そこから新しい音楽の芽生えがあるという定説を信じません。しかしイタリアについては、明らかに独自の新たな音楽様式が、そう遠くない未来に作られるであろうと思います。イルデブランド・ピツェッティ*によって知られるようになると思ってます。
*イルデブランド・ピツェッティ:イタリアの作曲家・音楽評論家・音楽教師(1880〜 1968年)

(SvD)フランスに関しては、ラヴェル氏は、最も将来性のある若手近代の作曲家としてアルテュール・オネゲル、ダリウス・ミヨー、ジョルジュ・オーリックの名をあげました。その流れで、話題はラヴェル自身の作品や最新のオペラ作品『子供と魔法』の成果へと移っていきました。この作品はほんの数日前、オペラ=コミック座でパリ初演が行なわれたばかりで、脚本は著名な作家コレットによって書かれました。

M.R.:(笑いながら)家に閉じ込められた言うことをきかない子どもを描いたとてもわかりやすい話で、動物たち、おもちゃとか家具とかと話をするという、アンデルセンみたいな冒険談が語られるんですよ。ブリュッセルでいま制作されていて、イタリアでの初演もミラノのスカラ座で3月1日にあります。

SvD:その冒険物語のあとには、新たな作品は?

M.R.:ないね。去年は何も作曲してないんです。オペラの音の修正でいっぱいいっぱいで、それでやっと間に合ったわけです。簡単な作業じゃないと言いましょうか。でも報われることを願ってますよ。おそらく、ここスウェーデンでもいつか、このオペラは上演されるしょう。そうすればあなたはご自分で作品を評価できますよ。

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『子供と魔法』パリ初演時の舞台から(1926年)


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