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[手紙] ユダヤ人とされたことへの反論 1937.5

音楽も生き方もエキセントリックだったフランスの作曲家、モーリス・ラヴェル。友人や家族に宛てた手紙、他の作曲家についてのコメント、レクチャーやインタビューなどシリーズで紹介します。
ファンタジー小説、評伝、ラヴェル本人の残したものの3部門で構成される「モーリスとラヴェル」の中の一部です。

ハンス・ブルックナーへの手紙
Sir,
あなたの著書 "Judentum und Musik(ユダヤ教と音楽)"の中で、ユダヤ人音楽家のリストにわたしの名前が入っていると知り、非常に驚いています。わたしはカトリック教徒で、誕生の1875年3月にシブール(ピレネー山脈のふもとの村)で洗礼を受けており、また両親、祖父母もカトリック教徒です。

既刊の本すべてから、わたしの名前を時間をかけることなく削除すること、新聞各紙に訂正文を載せることを強く主張します。さらに、改定した版の本、及び訂正の挿入紙をわたしに送ってくれるようお願いします。さもなければ、必要な措置を取らざるを得ないでしょう。
敬具

アービー ・オレンシュタイン編 "A Ravel Reader: Correspondence, Articles, Interviews"より

*オレンシュタインの注釈によると、ミュンヘンの出版者、ハンス・ブルックナーはこの本の中で、ユダヤ人と非アーリア人の音楽家をアルファベット順に並べ、各人の簡易な紹介文を載せているとか。1937年という時代を考えると、人種差別的な意味合いがあった可能性を感じさせる。ブルックナーからのラヴェルへの返信には、名前のリストは別の出版物からの引用であったこと、自著の次の版からはラヴェルの名前を除いたこと、既刊の本には訂正を入れることなどが述べられている。

*1937年末にラヴェルは亡くなっているが、その数ヶ月前のこの手紙にはラヴェル自身の(あるいは代わりの者の代筆による)サインが付されていたとのこと。ラヴェルは1932年の自動車事故をきっかけに、記憶の喪失などの病魔に侵されており、自分の名前をつづるのも難しいことがあったとされている。




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