見出し画像

[手紙] エレーヌ・ジュルダン=モランジュへ 1922.5.9

音楽も生き方もエキセントリックだったフランスの作曲家、モーリス・ラヴェル。友人や家族に宛てた手紙、他の作曲家についてのコメント、レクチャーやインタビューなどシリーズで紹介します。
ファンタジー小説、評伝、ラヴェル本人の残したものの3部門で構成されるプロジェクト「モーリスとラヴェル」の中のコンテンツです。

*エレーヌ・ジュルダン=モランジュ:フランスのバイオリン奏者(1892〜1961年)。ラベル晩年の20年間、最も親しかった友人の一人。1922年にラヴェルの『バイオリンとチェロのためのソナタ』を初演。

画像1

:::

モンフォール=ラモーリー、ベルヴェデールの家にて

親愛なる友へ

わたしが返事を書かなかったんで、どうしたんだと思ってるだろうね。またもやマダム・ムベルネイのせいだ。最初彼女はリヨンでのコンサートを5月4日に設定して、それから7日に変えた。最後の最後になって、正確な日付を教えてほしいと聞いたところ、リサイタルは最初の日にちに戻った、、、3日に、というんだよ! わたしにはスーツケースに荷物をつめる時間しかなくて、それで朝8時の列車に乗り、リヨンに夕方の4時に着いた。それでその日の夜中に向こうを発った。それというのも次の日、クーセヴィツキーに会う約束があって、さらには金曜にはクレマンソー夫人のチャリティ・オークションに行かなきゃならなかったんだ。

モンフォールには日曜にやっと戻ってきた、車でね。帰ったらきみの手紙が待ちかまえていたよ、他のたくさんの手紙といっしょにね。昨日は返事を書かずに、ずっと眠っていた。それでもバイオリンとチェロのためのソナタについて、きみに書かねばと思ったよ。

1)初演は、わたしが言ったとされていることによれば、「大虐殺」だったそうだ(誰に言ったのかは不明)。誰もがわたしの考えは知っている、きみだってね、それにマレシャル*も間違いなく。この暴言がきみたち二人を悲しませることはなかったと思うけど。さらには、わたしがアフリカに向けて発つということ、まもなく結婚するということを耳にしたよ。どっちが先になるのか、わたしにはわからないがね。

*マレシャル:フランスのチェリスト、モーリス・マレシャル(1892〜1964年)。ラヴェルの『バイオリンとチェロのためのソナタ』をこの年の4月6日にモランジュと世界初演している。

2)木曜の夜、オベール*(彼にはこのソナタの2回目の演奏の可能性について話してあった)がこう言ってきた。いまこの曲が話題になっていて、再演が求められていると。16日のプログラムを受け取ったとき、きみにそのことを書こうと思った。ありがとうと言いたいし、あれやこれやに忙殺されて、きみたち二人には申し訳なかった。請け負った仕事が遅れに遅れていて、次の「大虐殺」に行けるかどうか心配だ。もし火曜の夜、会場でわたしを見かけなかったら、理由はそれだと思ってほしい。

家を訪ねてくるなら、木曜以外ならいつでも歓迎。その日はたぶん出かけているから。来る前に知らせてくれて、朝の9時の列車に乗れば、ここでランチが食べられる。それがきみにとってもいいんじゃないかな。

(大虐殺の)犠牲者から、心からの感謝と敬意を
モーリス・ラヴェル

*オベール:フランスの作曲家、ルイ・オベール(1877〜1968年)

(アービー ・オレンシュタイン編 "A Ravel Reader: Correspondence, Articles, Interviews”より/訳:だいこくかずえ)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?